天網炎上カグツチ ディケイド
砂義出雲
プロローグ
誰かが思った。
今のインターネットは、あまりに不寛容になっていないか?
SNSを見回せば、いつでも誰かが何かに怒っている。
まるで人々が、安心して断罪できる対象を常に探しているかのようだ。
誰かが憂えた。
今のインターネットは、分断を煽るだけのものになってはいないか?
エコーチェンバーのバブルに籠もった者たちの間で、偏った情報が蔓延し、
やがてそこは陰謀論と暴力と断絶の温床になった。
誰かが嘆いた。
それなのに、いつインターネットは「公の場」になった?
かつて、海のように広大で、多様性の象徴だったインターネットは
ユビキタス社会の到来とともに「世間」を内包し、
永遠に続く監視社会の象徴――窮屈な場所にもなった。
世間の価値観にそぐわない言動を一つしただけで即座に排除される
キャンセルカルチャーが猛威を振るっている。
――いつからだ?
俺たちのインターネットが、こんな雁字搦めになったのはいつからだ?
これが、俺たちがあの時希望を持って見ていたインターネットなのか?
10年前ならいざ知らず、
あまりにも変容してしまった今のインターネットに、守る価値はあるのか?
* * *
そして――
時刻は夜半過ぎである。
高層ビルの屋上に、一つの人影が見える。
じっと汚れた街を、見下ろしている。
男だろうか、女だろうか。遠目には定かではない。
近づいてみると、ようやくわかる。
それは人間のシルエットをしていない。
正確に言えば、甲冑――いや、機械装甲だ。
その人物は、機械でできた装甲を全身に纏っていた。
サビだらけの蒼い装甲は、ほとんど煤けている。
山中に打ち捨てられた、中古車のように。
その装甲は、かつてこうカテゴライズされていた。
インターネット搭載型・強化外骨格(パワード・フレーム)――
略してインフレーム。
インターネット上に巻き起こる『炎上』。
そのエネルギーを動力として取り込み、活動する機械装甲である。
インフレーム装着者は、それを着けたままネットで発言し、炎上し、傷付きながら、世界に嫌われながら、心に血を流しながら敵と戦う。
それが呪われし機械装甲、インフレームなのだ。
そんなインフレームの中に、こう呼ばれる一つの機体があった。
インフレーム『カグツチ』。
またの名を――
天網炎上カグツチ。
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