第6話 講談1・お力(5)
どうかすると転居早々に「まだ居るよ」が隣室から聞こえて来たりもします。追いかけて来ておいて「まだ居るよ」もないもんです(観客笑う)。えー、とにかく、サルトルの実存主義にある「身の廻りの環境、他との関わりに於て自己が確定される」のであれば、私の実体、実存の有り様は、先の名句〝悪中(わるなか)に我のみ放(ほ)られて実存や〟でしかない分けです。私がどれほどきゃつらチンピラどもの言を否定し、きゃつらそのものを否定しようとも、実存する私がそれを認めません。宜(うべな)いません。逆に「お前はきゃつらストーカーどもに罵られ、苛み続けられるだけの存在でしかない」と、そのように実存の私が御託宣をして参ります。確かに、毎日の実感がそうなのですからさすがサルトルと云うべきです。えー、ところで余りわたくし、三遊亭私のことばかり申し述べて、またお客さんに立たれても何ですから、またお力に戻りますが…一言、いや二言だけ付け加えさせてください。そのひとつは先の俳句、名句の作者はこのわたくしですよ。それをご承知置きください。へへへ。んで今ひとつは、先の当亭のみの醍醐味が2つあると申しましたが未だ1つしか申し述べておりません。これには分けがありましてその1つとは、実は最後にこの小説「にごりえ」への講釈のみならず、作者である樋口一葉自身について講釈を仕ろうかと考えているのでございます。これが他の講談を圧倒するものになると、そう自負しておりますので、どうか席をお立ちにならずに、このまま最後までお付き合いのほどを宜しくお願い申し上げる次第です。
さて!(張扇一擲)お力ですが…としかしその前に、ここらでまたひとつ歌をご披露しようか存じます。何せ色気ですからね、色気。へへへ。えー、では曲は、こちらも樋口一葉原作による「十三夜」を…ではミュージック、スタート!
https://youtu.be/FyrWoG0DFW0?si=_jnOboCBTFGZI-92 ←ユーチューブ・榎本美佐江・十三夜
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