第3話 講談1・お力(2)

(科を作りながら歌い終わって)あー、疲れた。熱演しちゃった。へへへ。いや万雷の拍手ありがとうございます。いい声でござんしょ?講釈師と云うよりは歌手だ。ねえ…あれ、誰です?「いいぞ、おカマあ!」なんて言ってる方は。失礼しちゃうな、まったく…。ま、ともかく(空咳をひとつ)、話を戻しますが、色気と云えばこの「にごりえ」のお力も実にイイ女だったそうで、客の引く手数多だったとか。何がいいかと云うとお力が若くて器量がよかったこともそうですが、それとは別にお力のどこか思い詰めたような、こんな酌婦なんぞに身を落としている自分が情けない、許せない…と云ったような鬱屈を隠せないところが客の気を引いたのだと思います。この辺りを往年のストリッパーで云えば「ストリップはアルバイトのつもりでやっている」という名セリフを吐いた、かの田口ゆかりを彷彿とさせますが…えー、これはちょと余計ですが(空咳)とにかく、このようなお力を花街言葉で云えば「初な女」となるのでしょうが、まあしかし事実はちょっと違ったようです。わたくしごとき軽輩の身であってもつらつらと思いまするに、およそ万事に付け、自分はもう大丈夫だが、他人がそのことでまだ思い悩んでいる様を見ると、人というものは、優越感と云うか、愉快感を催される嫌いがある…ということぐらいは分かります。まして相手お力は酌婦であり、自分たちを相手にしなければならない義務があるのだし、自分たちから逃れられない身と分かっていますから、お力の初な姿は、どの客にとってもたまらない酒の肴となったのでございましょう。お力以外の酌婦たちは大方もう既に海千山千、プロの女達でありましょうし、そのような女たちを客は白鬼と呼んで、勘定を計算しいしい遊んでいたのでしょうから、偶にお力のような酌婦に会うとそりゃあもうあなた…恰好の憂さ晴らしにされるのはこれはもう致し方のないことだったのかも知れません。

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