徐福の悟り
仙 岳美
徐福の悟り
注[R18]
登場人物[混合語り人]
始皇帝に不老不死の薬を探す使命を賜わる。
序
ザッ、ザザー……
「徐福様……」
「お前は…」
「
「……」(※崩御とは、亡くなったという意味)
「その新しい宮殿に貴方様も連れて帰る様にと」
「えっ!」
「今度は本物の貴方様でイかせてもらいますぜ」
シューッと空を切り、
* * *
《コーン カーン》……
カッカッカッ……と足音を鳴らし歩き進める徐福の前に、宮殿の柱の影から、黒い頭巾をかぶった小柄な男がヒョコヒョコとした足取で近り寄り。
「徐福閣下、帯剣を
と両手を差し出し片膝を着いた。
徐福は、
「これは儀剣です」
「はい、ですが」
「そうか、お勤めご苦労」
と言い徐福は腰から白鞘に納められた細身の儀礼剣を外し、その両手にソッと乗せるてあげると頭巾の男は呟く。
「こ、これは、
「お世辞は、よしてくれないか」
「いえ、本心であります」
「そう」
と素っ気なく返事を返すと、スラリと背の高い徐福は深海の様に暗く長い何か妖しい匂いが立ち込める宮殿の廊を更に奥へと歩いて行った……。
その長い廊の左右には、深海の生き物と人間を掛け合わした異形で何処か禍々しく淫色に感じる、石像が訪問者を見下ろす様に皇帝の間まで長く並び置かれている……
その義眼ながらリアルな視線に思わず、徐福はゾクリとし、背の白いマントを、正面の方に身体を隠すように絡ませ覆う。
そして、その視線に解放されると闇路は緩やかな上がり坂に変わり、やがて頭上に鮑の形を模した金縁の赤い扉が浮かび上がる様に見え、路は螺旋の階段に代わり、🧬その扉に行き当たる。
徐福は、その門の前で、ふれ伏し……
「陛下、命に従い徐福、本日まかり…」
そこまで声を発した所で門が自動で開く。
その開いた扉の隙間から漏れた温い微風に含まれたツーンとした臭いが徐福の鼻腔を刺した。
目を床に伏した状態でも、それが数寸先の女性器から放っせられたものだと気づいた……
徐福はその臭いに思わず、むせそうになるのを耐えてると。
「久しいのう、顔あげよ、徐福」
とお声がかかる。
「はっ!」
と懐かしいその声に応じ、見上げた先に、もうその姿を安易に見る事を許されない主人である、皇帝の姿が、天からたれた真紅の薄幕を挟み、おぼろげに見え、その皇帝の左右、足元付近に複数の女の気配を感じた……。
そして先程から淫臭を放っている根源である女は、玉座に座る皇帝の足元で尻をコチラに突き出す様に向け、伏せている女だと雰囲気で感じ取れた。
その股ぐらには、尻の割れ目に沿って縦に蛇の様に揺ら揺らと揺れる棒状の物が二つ押し込まれており、その揺れる妖しい影をコチラに伸ばしていた……。
勘が鋭い徐福は、その揺れる影の主が数月前に見聞した倭国からの献上品の中に入っていた物である事に勘づいた。それは炭で燻し殺菌抗菌処理をした後、表目を細かい滑らかな凹凸加工した黒光りする竹筒で、その筒の中に生きた蛇や蝉などの虫と一緒に興奮作用のある粉状の薬品を入れ閉じ、その中で暴れる生き物の動力を増幅させ、筒全体が不規則に強く揺れる様に精巧な謎のカラクリ細工された逸品だった。
徐福はその不思議な竹玩具を見て、色々と中に入れる生き物を試したくなる研究欲が湧いた事もあり記憶の隅に留めていた。そしてその異物の真の利用法を見せられ、その異物を見聞した時に、その品が体の凝りを解す程度の道具にしか推測出来なかった自分を恥。
『世は、まだまだ自分の知りえない未知な物に溢れている』
と、久しぶりに知識欲も沸騰した様に思えた。
主は、その足元の宮女に声を下す。
「これ、何度言っても、また歯を立てとるな、こそばゆいは、後で宮医に命じてその長い犬歯を削ってやるわ」
その声に宮女は、
「なにをおっしゃります、これが好きなくせに陛下、はむっ」
「……」
徐福はその宮女の主に対しての馴れ馴れしい言葉使いに少し心が波立つものを感じたが、黙ってその会話のやり取りを聞いていた。
そして宮内の規律が崩れきっている事に気づいた。
その証拠に、天井付近に設けられて小さい踊場の闇側に先程剣を預けた男が立ち、その男は服の上から股間の辺りを小刻みに摩りながら、その光景を覗き観ていた。
その視線は、自分にも時折向けられていた事から、後に刑罰を受ける事を覚悟し、茎の先端に鋭く尖らした鉛鉄を仕込んだ、胸元の髪飾りでもある造薔薇に手をかけたその時、それを制するかの様に……。
「ところで……徐福」
「はっ」
『どうやら、あの道化は陛下のお気に入りの様だ、それなりに何か常人より突出した能力はあるのだろう』と思い、自分を諌めるように納得させ、徐福は薔薇から手を離す。
「真面目で粘り強く探究心もあり、その上に勘の鋭い、お前を見込んで……」
* * *
数年後。
徐福は、
『陛下は狂っていた』
使命達成の為訪れた遠い倭国の赤く染まった海辺でそう悟った……
天下を平定した後は鍬を自らも持ち、皆と共に汗を分かち合うと言った誓いの言葉を忘れ。
築城にその犠牲者を多く出した、あの暗い海底の奥宮に篭り、酒池肉林にふけた時から、陛下は、もう天からも家臣からも、そして私の中でも、終わっていたのだ……
* * *
「徐福!、不老不死の薬を探せ! そして朕の前に!、その身体と共に!」
「……」
「一夜だけでいい!」
「陛下、戻りましたら考えます……いえ、勅命に従います、全てこの徐福に、お任せあれ」
「おお!、きっとだぞ、徐福、そして……朕と畑を共に耕そう」
「ははー」
* * *
ザッザザー
「
そう道化は呟くと、背の夕日と重なり、周囲を暗くさせ、波影と交わりその姿を眩ます。
徐福は、片膝を地に付き、目を閉じ、波音に微かに混ざる異音と微かな足音に聴覚を集中させ……迷い無き心で、束ねた後髪に
「
放たれた一筋の赤い渦を纏った翡翠色の光線が、その道化が作り出した闇間を、赤蝶の残像を尾になびかせながら掻き分ける様に貫き飛び、スンッと宙に留まる。
髪をバラけさせた徐福の鼻筋と伸ばした指先にも散った数枚の花弁が落ち留まる。
「……」
「……徐福さま、お見事で、あります」
首に刺さった薔薇を手で押さえた道化は倒れずに立っていた。
徐福は聞き手の左手を前に突き出し、浜に片膝を着いた体勢で道化にといた。
「お前、何故黙って私をやらなかった」
「痛ってー、へっへへ騙し討ちは、もう飽き飽きのウンザリでさ、たまには……いや、最後くらいは、あっしも憧れの騎士様の様に正面からと、思いましてね……特にあっしに労いのお声をかけてくれた唯一無二の貴方様は、実力でこの手にし、たまには陛下より先にと……でこのザマ……まあこれも悪くないでさ……じゃ、これで」
そう言い終えると道化の身体は斜めに伸び捻れ、回り、倒れた。
バッシャン!……
「……」
幕
あの時、たれ幕の隙間から、かいまみえた陛下の目、
あれは……
一生分の精を使い果たしてしまい後悔し切った狂人の目………
大陸を平定した陛下にその資格はあった、ただそれを選択した後の末は命を荒く削り取って行く、引き返せない堕落の外れ道……
その場でしばらく目を閉じ、波の音に耳を澄ましていると、徐福は内の宇宙を感じた……
……不老不死の薬など見つけては、いけない……限りある命だから人は励み、競い、時には争い、上り詰める事ができる、それが命の仕組み……
……仮に不老不死の秘薬にもっとも近い物をあげれば、天から使命を与えられ、その者がもっとも輝いてる時期に授かっている物。
その者の行く手は、天道により全てが上手く回ってゆき、けして誰も
ただ、それはやがて、途切れ途切れとなり、最後は途絶えてしまう目には見えない……神秘薬……。
その授かった薬の効能が大きければ大きほどに、それを失った時の反動は大きい、まさに陛下はそれに押し潰された……。
そして、『私の天から授かった薬も、もう切れた様だ』
そう思い、徐福は、
「惜しいかな、御、陛下……」
そう一言呟き、目の前の岩礁に、若き頃、恩賞とし賜った剣を打ち折り、旅をそこで締める事にした……。
若き頃
共鳴しえた
轟ろきは
今は鳴海に
消えゆく尊し……
ザッ、ザザー……完
あとがきに代えて……
この作品での徐福は、始皇帝の戦友と設定した上で、物語を構築し書いております。また徐福の性別については、読んでくれたお方が、ご自由に想像してくだされば良いかな~と思っております。
2024・6・10 作者 仙岳美
題材・不老不死
それは、年齢問わず青春時代の人が体内で自ら生成するホルモンの事を指しているのかもしれない……
題材・酒池肉林
それは一人で複数の異性とおこなうキメセク。故にやり過ぎるとホルモンバランスが崩れ、体調を壊す事もある。程々に……
徐福の悟り 仙 岳美 @ooyama1252takemi
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