一日目
神は自由と未知を約束した
この国を訪れた一番の目的はこの廟である。遠い昔に読んだ本は、この国の神話だった。その中で、この廟は古代の美辞麗句を尽くして描かれていた。道中では花籠を持った婦人が、少年と手を握りあって歩いていた。道は踏み固められていた。廟は、我々の言葉らしく表すなら神殿に近い構造をしていた。左右対象に光を取り込む窓と、祈るための椅子があった。主の像は置いておらず、代わりに重厚な墓石が聳えていた。この国始まりの王の墓である。
この場所は、かつて城の宝物庫であった。火災によって大部分を失った炭の中、黒い岩塊の天を刺すような輪郭と、熱と瓦礫を負っても変わらぬ姿は誰の目から見ても美しかったことだろう。のち王位を継いだ王妃は、古城を建て替え前王の廟とした。黒く磨かれた表面には、炎と消えた王の最後の一息が、今も残っていた。
「神は自由と未知を約束した」
古語で書かれたこの一文は、とうてい読めたものではなかった。しかしこの言葉を知らぬ民はこの国にはいないだろう。始まりの王は、この国が誇る一番の英雄であり、その精神は民草の中で今も息づいている。かつて多くの英雄や指導者がここに訪れ、この岩を眺め花を添えた。そうして刻面は視線に磨かれ、水面のように凪いでいた。手を伸ばした者がいたのか、今は豪奢な紐仕切りによって近づけなくなっていた。
この廟の管理者(我々らしく例えるなら神官)に椅子を勧められたため、わたしは少し離れたところから墓石を眺めた。熱心に祈る者はわたしが訪れた時から動かずにいた。そうでないものは立ち去り、飯か金のために動いた。わたしがこの廟に訪れたのは、祈りのためでも、飯や金のためでもなかった。わたしの青春の孤独を埋めた神話に、今一度接触することに他ならなかった。
わたし自身この神話の神を信仰している訳ではない。この唯一の神が人間に与えたのは救済ではない。ただ自由と未知、それだけであった。
自未風話 青空館専属庭師 @TRG_gh05t
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