第38話 筋肉があればなんでもできる!

 代わり映えしない魔族達を斬殺して回るファウスト。

 ファウストにとって上流魔族も普通の魔族も変わらず弱い相手だった。


 「わぁああああん! 私のうさちゃんがあああ!」


 泣いている女の子を横目に魔族を倒していると、瓦礫の中に可愛らしいうさぎのぬいぐるみを発見した。

 ファウストは可愛いモノが好きなので、瓦礫をどかしてぬいぐるみを回収する。


 「汚れちゃって⋯⋯」


 心の底から同情しながら、ぬいぐるみを女の子に返す。


 「え」


 「ボクは汚れたぬいぐるみを綺麗にはできない。だから君がしてあげてね。持ち主なんだから」


 「うん! ありがと、綺麗なお姉さん!」


 「えへへ。口が上手い娘だなぁ。親御さんは?」


 「はぐれちゃった」


 再び泣き出しそうな女の子を抱えて、同じ臭いがする場所に向かって走った。

 魔族をすれ違いざまに倒して、女の子を母親の元へ届けた。


 「ありがとうございます! なんてお礼をして良いか」


 「ボクはヤベーゾのナンバー怪人。我が道を行くだけだよ。礼は必要無い⋯⋯強いて言うなら、小さいうちは子供と一緒にいてあげてよ。早く体育館に向かって。そこは魔族が少ない」


 体育館には他の怪人も多くおり、魔族達を駆逐している。

 なので、緊急的避難所として活用できる。


 「悪の⋯⋯組織」


 ヤベーゾと言う単語を聞いて母親の目元が暗くなる。

 娘を守ると言う親の意志が見え透いている。


 (組織の名前を出すのは失敗だったかな。でも、これはボクの誇りでもあるんだ。仕方ない)


 建物を壊しているヤベーゾ。

 嫌われるのは仕方ない。


 「お姉さん! また会おうね!」


 (子供は純粋だな)


 ファウストは手を振りながら魔族狩りを再開した。

 生きた年数で言えば子供の方が多いのだが、それは棚上げだ。


 数の多い魔族を掃除していると、セカンドが到着した。


 「遅いぞセカンド!」


 「すまないな! ここからは加勢致す!」


 「まぁ良いや。外の魔族は大丈夫そ?」


 「おや、気づいておりましたか。問題無いぞ!」


 「そっか。セカンドは人命救助優先⋯⋯主人の命令だ。誰1人と死なせない」


 「もちろんですぞ!」


 セカンドは瓦礫を撤去しながら逃げ遅れた人達を助け出す。

 女、子供を優先しながら救出する。

 ご老体で動きの鈍い人がいれば自慢の力で持ち運ぶ。


 「ふははは! 我が肉体は万能なり!」


 高らかに笑うファウストとセカンドを物陰から見ている人物がいた。

 ナンバー怪人、その強さは見ての通り上流魔族ですら相手にならない。

 圧倒的な強さを持つ2人ですら幹部じゃない強さ。


 「気になる」


 物陰から紺色の髪を靡かせて人が飛び出す。


 「まずは筋肉バカのお前からだ!」


 マナを一切使わず人間離れしたパワーを出すセカンドに向けて、炎と風を組み合わせ竜巻を放った。


 「我がパワーは力! それ即ち最強なり!」


 竜巻をパンチで破壊し、懐に飛び込んだ人間を見る。


 「なぬ!」


 驚いたセカンドの動きは鈍り、風の魔法で空高く飛ばされる。

 綺麗に回転して勢いを殺し着地する。


 「着地姿さえも美しい。それ即ちパワーなり。しかし参ったな。女は殴れん」


 「悪の組織だと言うのにお優しい事ね。さぁ、貴方の秘密をもっと見せて!」


 「普段は殴らん⋯⋯だが、今回はボスの命令だ。手加減させて気絶させる!」


 セカンドの大振りの拳を回避し、炎と風を合わせた魔法をぶつける。

 わざわざフィジカルを得意とする相手に接近して戦うのは、火力を上げるためだ。

 近い方が与えるダメージは大きい。当然の理論。


 セカンドの攻撃は1発も当たらず、魔法は何発も命中する。

 にも関わらず、倒れる様子が全く無い。


 「我が筋肉は最大最強の武器にして盾」


 「矛盾って言葉知ってる?」


 「ふははは! 最強とは時に敗れるものよ! 最強で完璧な時に矛盾は発生するのだ!」


 セカンドはそれでも絶大な破壊力を持つ拳を振るう。

 だが、女の回避センスは抜群で反撃が飛ぶ。


 肉を焼き骨を灰にする炎、如何なる鋼をも貫く風。

 その二つを合わせてもなお、セカンドの体にダメージの色は見えない。

 全身がまるで鋼以上の金属だ。


 「筋肉はパワー!」


 「まさかこれ程までとは。想定外の強さだ」


 言葉とは裏腹に絶望した様子を見せない女。

 かと言って、切り札や次の策がある訳じゃない。

 予定外の存在に興奮して本能的に飛び出しただけである。


 「ああ素晴らしい! 素晴らしいじゃないかヤベーゾ!」


 「なぬ?」


 狂気的な笑みを浮かべ、天に向かい叫び散らす。


 「ヤベーゾの力があれば人間が滅ぶ未来も近いでは無いか! これ程までに素晴らしい事はあるだろうか? いーや無い!」


 「人間では無いか?」


 「ああそうさ。人間だよ。自分含め全ての人間が死ねば良いと思ってる人間だよ! あれ? でもおかしいな。なんで君らは人間を助け魔族を殺す?」


 途端、女から笑みは消えた。


 「そうか⋯⋯お前達は必要じゃないただの敵か」


 人間を助けている今。人間を一度も殺した事の無い過去。

 女の夢にヤベーゾは必要無い。むしろ邪魔であろう。


 「魔法少女もお前達も⋯⋯クソ。計画は失敗か」


 女は最後の足掻きと言わんばかりにマナを集め出す。


 「セカンド手助けいる?」


 「無問題。そろそろ真面目に気絶させよう。被害が大きくなりそうだ!」


 セカンドは風にも追えぬスピードで女に肉薄した。

 マナを使わずフィジカルだけで戦う。

 これはそう言う設定でも戦闘スタイルでも無い。

 単なる手加減。


 そして真面目に戦う今もマナは使わない。

 ただし、技は使う。


 「死にはせん!」


 地面を強く踏み込み、掌底打ちを放つ。

 八極拳をベースとした武術だ。

 防御すら間に合わない一撃が女を襲う。


 「がはっ」


 内蔵が破裂するような音とダメージで完全に意識が刈り取られた。

 優しく地面に寝かし、魔族狩りを再開する。


 「主人も1番強そうな奴を倒した頃かな?」


 「気配がまだ残っている。雑魚を蹴散らしながら進んでいるのだろう」


 「だよね!」

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