第35話 魔法少女は挫けない
魔法少女、ジャベリンとへカートはケンジンと言う魔王軍の上流魔族と戦っていた。
体が剣で構築されたケンジンは素早く、そして鋭い攻撃を得意とする。
ガードをすれば腕を切断されてしまう。回避しか選択肢が無かった。
「ジャベリン。合わせて!」
へカートが氷でケンジンを拘束する。
「今よ!」
「爆ぜろ!」
ドカーンっと大きな爆音を立ててケンジンを爆撃する。
部活動で鍛えた念動力とステッキの収束力機能を使って集めたマナを使った。
しかし、ケンジンはダメージを感じさせる事無く凛と立っていた。
火力不足。
2人の頭に過ぎる言葉。
「まだだ!」
それを払うように叫び、ジャベリンが接近する。
爆撃による加速を乗せた回し蹴り、さらにマナを集めて蹴りと同時に爆発する算段。
しかし、それを止めたのが襟を引っ張る氷だった。
「なにす⋯⋯」
文句を飛ばそうとしたが、ジャベリンは口を閉じて着地する。
黒い剣筋が足の場所に輝いたからだ。
あのまま蹴っていたら足が斬れるところだった。
「魔法少女。噂に違わぬ強さ」
「あまり嬉しくないなぁ」
「そちらも無傷じゃありませんか」
「⋯⋯確かに。ソナタらはまだ力を出し切れていない。何かのスイッチが必要なのかもしれんな。⋯⋯だが、生死を懸ける戦いで悠長な事はできん。己の無力さを知り平伏するが良い」
ケンジンが揺らりと動く。
本能、直感、咄嗟にへカートは氷のバリアを展開する。
それを軽々と貫通して伸びて来る漆黒の剣をステッキでガードする。
だが、その強さは防御だけじゃ防ぎきれない。
簡単に吹き飛び、壁に突き刺さる。
「へカート!」
「余所見とは、若いな」
「くっ!」
懐に飛び込まれたジャベリンは応戦する。
斬撃をステッキで何度も防ぐ。
「優れた武器よ。吾輩の剣技を持って傷一つ付かぬ。だが、使い手のレベルが足りんな」
スピードを上げた斬撃に押され、地面に叩きつけられた。
「魔法少女。思いの外時間を使ってしまった。吾輩の目的は貴族の人間。今宵は見逃してやろう。吾輩の前に出ず静かに隠れているが良い」
魔法少女に言い残し、ケンジンは去って行く。
意識が飛んでいた魔法少女はその数秒後に目覚める。
「ケンジンは!」
「逃げられた⋯⋯」
「まだ遠くに行ってない。追いかけないと!」
「でも、ワタクシ達では⋯⋯」
「大丈夫だよ! 戦って分かった。アイツはサインより何倍も弱い。1度負けても、次に勝てば良い。セーギさんだってそう言ってた。ステッキもアップデートされたし⋯⋯勝てるよ、絶対!」
ジャベリンの太陽のように眩しく暖かい笑みに引っ張られ、へカートは立ち上がる。
心を覆う闇を払い、姿の見えないケンジンを脳裏に浮かべる。
速い動きに攻撃。そしてその威力も絶大。
しかし。
「上には上がいるものですわね」
へカートは少しだけ、勝ち方が見えて来た。
なぜならへカートは最強を知っているから。
二人はケンジンを追いかける。
広い通路に出ると、外でも魔族達が暴れている事を知る。
「皆の祭りを。年に2回の祭りを。最高学年は最後の春祭なのにっ!」
魔法少女の中にフツフツと煮える怒りがあった。
すぐにケンジンは見つかった。
「娘よ。退け。ソナタに用は無い」
「ヤダ! 魔法少女はどんな人でも守るんだもん!」
だらしなく項垂れる貴族を守るように立ち塞がる子供。
その周囲には騎士と思われる人達が転がっていた。息はしているが危険な状態。
子供も全身で震え、恐怖に涙を浮かべているが逃げる様子がない。
勇ましく勇敢な少女。
魔法少女の背に憧れた女の子がここにいる。
それはある男の夢の実現に1歩近づいている証拠である。
「ならば、お主ごと斬る。その心意気に敬意を込めて、一撃で痛み無く葬ってしんぜよう」
ケンジンが右手の剣を掲げた。恐怖に顔を逸らす娘。
「止めろおおおおおお!」
感じた事無い爆発の攻撃がケンジンを襲い吹き飛ばす。
魔法を放った相手を見ると、先程とは違い真っ赤に染まったジャベリンが涙を浮かべていた。
女の子の頭に手を置いて、ステッキを強く握る。
「ジャベリン!」
「もう大丈夫。私達が来たから。避難して」
「うん!」
ケンジンは立ち上がり、切っ先を向ける。
本気の魔法少女と戦えると高揚した。武士の性だ。
「子供に手を上げるなんて許せない」
「人間も魔族の子を手にかける。何が違う。人間も、魔族も、僅かな性質の違いはあれど本質は同質よ」
「それでも、私は許せない。泣き叫ぶ声が、助けを求める声が聞こえる。この地獄を作り出したお前達が私は、許せない!」
ジャベリンは加速してケンジンに迫る。
「吾輩相手に肉弾戦とは愚かな。その愚行、黄泉の世界にて悔いるが良い」
「ジャベリンの言う通りよ!」
真っ青に染まったへカートが空に氷を散らす。
パラパラと雪のように降り注ぐ氷は触れるだけで相手の体温を奪い、動きを鈍くする。
動きが少し遅くなっただけでは支障は無い。ケンジンは無視して立ち向かう。
だが、その少しの遅さが致命的となる。
加速するジャベリン。上昇するマナコントロール。
「ぐっ」
僅か1秒、その短い時間の差でケンジンの攻撃よりジャベリンの方が先に攻撃する。
続く爆撃。
それだけで終わりじゃない。
爆撃が1度命中すれば絶え間無く襲われる。
ジャベリンの集中力は途切れず、削られる体力に目を向けない。
「好敵手なり!」
それでも突っ切ったケンジンの刃がジャベリンを襲う。
皮一枚で回避し、爆撃で吹き飛ばす。
その先には氷の魔法が飛んで来る。
「ぐっ」
しかも、回避ができない猛スピードで。
へカートの魔法射出速度が上がっているのだ。
距離も相まって詰められない。
肉弾戦をしながら爆撃魔法を巧みに使うジャベリン。
少しでも隙や休みを与えないように迫り来る遠距離攻撃のへカート。
二人の連携にケンジンは押され始める。
「不甲斐ない」
腕の剣を支えに立ち直る。
そこをチャンスに捉えた二人はステッキを合わせる。
ステッキのアップデートによりこれで合体技が使えるのだ。
しかも、それだけでは無い。
専用の魔法少女コスチュームに瞬時に切り替わる。
二人揃った白のコスチューム。伸びる純白の翼。
胸元の宝石は二人のイメージカラーを用いて用意されている。
「「貫け、凍てつけ、合体技!」」
「むっ!」
ケンジンが両腕を交差させ防御の構えを取る。
「「『グレイシャー・ティラール』」」
氷の弾丸がドンっと真っ直ぐ放たれる。
鋭いケンジンの剣でそれは真っ二つに裂け、地面に激突して辺りを瞬時に凍らせる。
「必殺、防いだ⋯⋯な⋯⋯り」
内部からビキビキと凍って行く。
氷の弾丸は微かにでも内部に入れば、内側から相手を凍らせる。
ジャベリンは倒す勢いで攻撃していた。しかし倒れなかった。
それだけ防御面の強いと言う事。
なら、倒せる状態にする必要がある。
「これで、終わりよ」
バリン、と氷像となったケンジンが粉々に砕けて粒子がキラキラと日光を反射しながら舞った。
二人はおもむろにステッキを天に掲げる。
「うおおお!」
「さすが魔法少女だ!」
「助けてくれてありがとおおお!」
「魔法少女カッコイイ!」
「ジャベリンのお姉ちゃん助けてくれてありがとおおお!」
「へカートカッコイイぞおおお!」
いつの間にか集まっていた人達からの歓声が上がる。
二人はまだ暴れている魔族を倒すべく動き出した。
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