第27話 オタクの部活動

 「やぁやぁ。あたしゃはテロリースト。君らの担当となった者だ」


 「「よろしくお願いします」」


 魔法研究部のテロリースト先輩は2年生。

 この部活は最初、先輩の誰かをリーダーとしてグループを作り、部活に慣れながら他学年との交流が目的とされている。


 第一目標は何かしらの魔法研究の成果を最初のグループで出す事だ。

 それで部活初日の活動は意見交流で親睦を深める。


 「まずは先輩である、あたしゃから何か話そうかね。そうだなぁあたしゃは魔法は芸術だと思っている」


 「ほう。芸術ですか?」


 どことなくシンパシーを感じる。

 テロリーストはニヤリと笑い、次を語る。


 「そう芸術だ。魔法は美しい。その美しさをどれだけ具現化できるか、あたしゃはそこを常に考えている」


 「分かります」


 「分かるかいルーシャくん? せっかく使えるならカッコ良く、美しくあるべきだ。そうは思わないかね?」


 「めっちゃくちゃ思います」


 この先輩、分かる。

 イメージ通りの魔法をいくつでも使えるこの世界において、美学の探求は必要だ。

 だと言うのに、誰もが実用的で効果的な魔法ばかり研究する。


 「だけどあたしゃはもう一つ、魔法は身を守る武器であるとも考えている」


 「理解できます」


 「嬉しいね」


 サシャもテロリースト先輩の言葉に納得できる部分を見つけた。


 「魔法を鍛えればどれだけ巨大な魔獣だろうと、強靭な魔族だろうと、戦う事が可能だ」


 「ええそうです。魔法があれば何も奪われない」


 「にひひ。君達二人とは話が合いそうで良かったよ。明日から魔法研究を始めるから、そのつもりでいてくれ」


 「「はい」」


 僕達は意気投合して、魔法とはどうあるべきか、魔法でどうしたいか、色々と話し合った。

 まさかこんなにも話が合うとは思わなかった。

 この世界にも魔法の美学を探求する者がいる⋯⋯僕は心のどこかでそれを諦めていたのかもしれない。


 人生の運を使い果たしたような2度目の青春と言う豪運。

 せっかくなのだから、友達作りでもしてみようかと考える。

 しかし、入学式から数週間経過した今更友人など難しいだろう。

 それに、常にサシャがベッタリと傍にいるため余計に困難を極める。


 「ま、趣味嗜好の話は敬遠される可能性もあるからな。難しいところだ」


 前世はキーホルダーなどを身につければ簡単に同族と会えたと言うのに。


 「グッズ、か」


 その言葉を残し、僕は学園を後にした。


 翌日の部活。

 早速昨晩考案した魔法を先輩と共に試す事にした。


 「この魔法はだいぶ広範囲のマナを操る必要がある。正直、王国魔法士レベルだぞ?」


 「くくく。だからこそロマンがある。僕一人で無理でもここにはサシャも先輩もいます」


 「おやおや。あたしゃはそんなに過大評価されているのかい?」


 「そんなご謙遜を。先輩はかなりマナ制御に長けてますよね?」


 何を誤魔化そうと言うのか。

 常に周囲のマナを自分の周りに固定して不可視の防壁を作っているのに。


 興味深い、あるいは警戒心を僕に向け営業スマイルを作る。


 「君は凄い人のようだ。過小評価していた事をここに謝罪しよう」


 頭を下げると長い紺色の前髪が垂れた。

 僕は慌てて頭を上げるように頼んだ。


 「それでは、やりましょうか」


 魔法専用グラウンドへやって来た。


 今回試しに使う魔法は僕一人でも問題無いレベルだ。

 しかし、それでは共同でやっている意味が無い。

 なので、3人で分割してより広範囲でやろうと思う。


 「あたしゃの得意な魔法は風と炎なんだけどね」


 「では炎でも構いませんよ。見にくいので風は控えてくれると嬉しいです」


 「承知した。では得意の炎でやらせて貰うよ」


 「サシャも準備は良いかい?」


 「何時でも」


 サシャの準備が終わってから早速試しにやってみよう。

 対象は倉庫から借りて来た的にする。

 まずはサシャからだ。


 「それでは始めます。ルーシャ様の前ですので、少々本気で」


 空に両手を掲げ、マナを操作する。

 広範囲のマナを集めると濃度が上がり、具現化しなくても肉眼で視えるくらいに濃くなる。

 色合いは虹色とも白とも視える不思議な感じ。波のようにユラユラと揺れている。


 「⋯⋯凄い量だ」


 テロリースト先輩の呟き。

 スカートがマナの奔流でふわふわと上下に揺れ動く。長い髪も同様に上へと昇る。


 「すぅー」


 目を閉じ、精神を研ぎ澄まし集中力を上げ、さらに広範囲のマナを集める。

 その規模は広大な学園の敷地も超えている。

 王国魔法士がどれくらいマナを操れるか分からないが、きっとサシャのレベルと同等は多くない。


 「なんて⋯⋯強さっ」


 喉を鳴らすテロリースト先輩。

 先程から僕達を強く警戒し、冷たい汗を大量に流している。

 大丈夫だろうか?


 膨大なマナを集め、その全てを具現化する。

 具現化したのは真っ黒な雲。雷雲だ。

 学園を突如として覆った漆黒の雲により学園内が騒がしくなるが、気にせずに次へ行く。


 「このレベルでは無いが、やろうか」


 動く事も無いが魔法の過程に必要なので、先輩は的を炎の檻で囲った。

 当然見た目にもこだわっている。

 刺々しくて脱出なんて不可能な程の頑丈さを秘めている。

 厳つく、カッコイイ!


 「ルーシャ様」


 「ああ」


 さぁフィナーレと行こう。

 雷雲、拘束、ならば次にするのは決まっている。

 絶大の破壊力を秘めた落雷。必殺級の一撃だ。


 「しかしルーシャくん。サシャくんがかなり広範囲からマナを集めたんだ。この辺のマナは薄いぞ? あたしゃもサシャくんが残しておいてくれたマナを限界まで集めた。もう残ってない」


 先輩の実力は高く、簡単そうに言っているが実際できる人はそう居ないだろう。

 心配そうにする先輩に僕は人差し指を上に向けて答えた。


 「安心してください。サシャが雲を用意する間に僕も集めています」


 「は? いつ? どこに?」


 先輩が素を出した気がした。

 素っ頓狂な声で出された端的な疑問。

 時間情報はきちんと出したはずなのに、「いつ?」と質問されたのでかなり混乱している。


 サシャがマナを集めている間に僕も魔法に必要なマナを集めた。

 次に「どこに?」の疑問に答えよう。

 それは指の先。


 「空。雲の上です」


 宇宙までは行ってない。

 雲の上のマナで十分事足りる。


 「は? 雲の上? そんな遠方のマナを集めれるとしても広範囲は無理だろ? 今回試す魔法の火力が⋯⋯」


 先輩が捲し立てたが、僕とサシャの落ち着きを見て冷静さを取り戻す。

 サシャは僕を知っているので心配も不安も無く、ただ落ち着き結果を待ち望むように微笑んでいる。


 「君達は⋯⋯一体?」


 「先輩。そろそろ具現化が終わりますので放ちますね」


 さぁ、これが僕の美学とサシャの思想を織り込んだ魔法。

 カッコ良く、美しく、それでいて破壊力抜群。


 雷雲はさらなる黒を手に入れ、所々が黄金に光る。

 学園に散らばる雷。そして響く轟音。

 その全てがこの魔法の一部。エフェクト。


 僕は手を天に掲げ、的に向かって落とした。

 刹那、目に止まらぬ速さで蒼き天雷が的を灰燼に変える。


 「くっ」


 あまりの光に先輩は目を腕で隠す。

 鼓膜をぶち破らんとする轟音、離れた距離にも関わらず感じる熱と衝撃波。

 的がそこにあったとは思えないクレーターができあがる。


 少々舞い上がり、力を込め過ぎたらしい。

 黒い雲が役目を終えたように散らばって消えて行く。

 太陽が再び顔を出し、衝撃波で無惨な髪型になってしまったテロリースト先輩を見やる。


 謝ろうと口を動かすが、彼女は全く聞いていない。

 先程の魔法に心が奪われ、何も無いクレーターを凝視している。


 その反応は僕が1番嬉しい反応だ。


 「やりましたね」


 「ああ。やり過ぎた感は否めないが、楽しかった。サシャも協力ありがとうな」


 「いえ。ルーシャ様の望みが我が望み。容易い事です」


 ちなみにしっかりと防御しているサシャはいつも通りの美しさを持っていた。

 むしろ恍惚とした表情で魔法を思い出しているようにも見える。


 「名前はそうだな。ジャッジメントとしよう」


 「素晴らしいネーミングかと思います。⋯⋯この自然災害レベルの魔法を使える者がいるか分かりませんが」


 「くくく。まぁ、雷だけなら行けるんじゃない?」


 実際、雷雲も周囲に散らばった雷や音は全部必要ないし。エフェクト、演出だからね。

 言ってしまえば高速の攻撃魔法だから拘束魔法も使う必要無い。

 だが必要だと僕は思う。


 何故か?


 美しいからに決まっている。

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