第25話 魔法少女VSファウストのその後

 賞賛を送ったファウストは己の腹に突き刺さった氷柱を抜き取った。


 「まだ、立てると言うの?」


 へカートが絶望に落ちかける。

 だが、ジャベリンがへカートの手を強く握った事で立ち直す。

 今は1人では無い。仲間が、友がいるのだ。


 「⋯⋯今日のところは見逃してあげる。でも次は無いからね!」


 ファウストは蜘蛛の足を背中から出し、逃げ去って行く。


 「負け犬の遠吠え、と言いたいところですわね」


 「こっちも満身創痍。痛み分け⋯⋯引き分け、かな?」


 「そうですわね。でも、ワタクシ達の勝ちでもありますわ」


 後ろに見える商人や護衛騎士。

 被害はあったものの、命を失った人は誰1人としていない。

 ジャベリンが守ったのだ。


 「流石ですわ。ワタクシには、到底できない」


 「そんな事無いよ」


 「え?」


 「へカートが戦ってくれたから、安全な場所に避難ができた。へカートが居なかったら、あの人達を守る事はできなかった。だから、2人で守ったんだよ」


 「ジャベリン⋯⋯」


 彼女の言葉が心に染み渡る。

 ルーにとって初めての感情で困惑するが、不思議と居心地は悪くない。


 「勝利のハイタッチ! いえーい!」


 「いえー⋯⋯そ、そんな事しませんわよ」


 そっぽを向くへカート。

 しかし、その顔は嫌がっているようには見えなかった。


 「それじゃ、商人さん達を国まで送り届けたら帰ろっか」


 「そうですわね」


 2人はこの日、友となった。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 「見たかモンキー」


 「見たぜドッグ」


 上流魔族、猿人のモンキーと犬人のドッグ。

 2人はと共にヤベーゾ、スゲーゾの現状調査にやって来た。

 派遣する度に敵に寝返る理由の調査も並行している。


 「中々の強さだな」


 「ああ。だが、未だに全力を見せている様子が無かったファウストってのが1番厄介だな」


 「原点にして頂点⋯⋯アイツが1番強い可能性があるのか?」


 「ありえるな。だが、致命傷を得た今なら我らの敵では無いな」


 魔法少女も力は決して低く無い。

 それでも2人ならば倒せるレベルと判断した。

 

 しかし、彼らは一つ大きな勘違いをしている。

 魔法少女も全力を出しているようで出していないのだと。

 感情の高ぶりによるマナ制御の向上、ピンチからの逆転劇が可能なポテンシャル。

 それを見抜けていない。


 「モンキー、今なら手負い、俺らで倒すぞ。特に弱っている魔法少女を先に倒すぞ」


 ドッグが相棒のモンキーに対して意見を提示する。

 だが、待てど暮らせど返って来るのは咀嚼音だけだった。

 待ちくたびれたドッグは怒声と共に隣を向く。


 「聞いてるのか!」


 「くううん?」


 モンキーの居た場所には1匹の妖精がモグモグとしながら座っていた。

 ドッグの言葉に顔を傾け、鳴き声を零す。

 ちなみに訳すと『いいえ?』となる。


 「な、なんだ貴様は! モンキーはどうした!」


 ごくん、と喉を鳴らした後に口を大きく開く。


 「⋯⋯ま、まさかな。食ったのか? そのサイズ感で?」


 子犬サイズの妖精では大人サイズのモンキーは一瞬で食えない。

 悲鳴すら聞こえなかったのだから、一瞬で食ったはずだ。


 「あれ? ぺろぺろこんなとこに来ちゃダメじゃんか」


 「⋯⋯貴様はっ!」


 理解が及ばないドッグの前に傷付いた様子の無いファウストがやって来る。


 「わん!」


 尻尾を嬉しそうに振りながらファウストに抱き着く。

 ぺろぺろに頬を舐められ、くすぐったそうにしても嫌そうでは無い。


 「よしよし。⋯⋯えっと君魔族だよね? ずっと見てた様子だけど、何か気になる事でも?」


 (気づいてた! 完全に気配は絶っていた! 何故気づかれた)


 ファウストがどれくらいの強さなのか、分からないが魔法少女よりも少し強い程度だとドッグは思っていた。

 何故なら魔法少女を瞬殺でき無かったからだ。


 これは彼らの勘違いでは無く、世界の勘違い。

 ヤベーゾとスゲーゾは均衡した戦力。


 ある意味では間違い無いが、間違いと言える。

 まだそれが浮き彫りになって無いだけだ。


 「ねぇ聞いてる? 無視しないでよ感じ悪いよー」


 男か女か分からない容姿に中性的な声。

 だが不機嫌なのは間違い無い。

 さらに驚くべき点がある。


 「⋯⋯は、腹を貫かれたはず!」


 「やっと喋ってくれた! ⋯⋯腹? ああ。あれね。あの程度じゃすぐに再生するよ。バレないように逃げるの大変だったなぁ」


 過去の苦労を思い出すかのように遠い空を見つめる。


 (再生だと! ものの数分で完治するのか!)


 「あ、もしかして服も再生してるの気になる? 実はこの服、主人が死闘を繰り広げ手に入れた超レアな素材が使われてるんだ。火を与えればすぐに直るんだよ!」


 考え事とは違う内容が返って来る。

 まるで自分の物を自慢する子供のように無邪気なファウスト。


 「我々はここで退散する。邪魔したな」


 今は状況が不利だと考えて逃げの一手を打つ。

 情報を持ち帰る事が優先だ。

 しかし、ファウストは心底不思議そうに口に手を当てながら顔を横に傾ける。


 「偵察してた魔族はもう君しか居ないのに、逃がすと思ってるの?」


 「⋯⋯ッ! そ、そうか」


 勝ち目の無い現実を打ち付けられた。

 既にドッグしか残っていない。

 つまり、自分よりも強い存在が倒されていると言う事だ。


 一掴みの希望に過ぎないが、情報を手にし既に帰還している可能性もある。

 見捨てられた、と言う事にも繋がるが。

 魔族のためならそれも構わない。


 何はともあれ、ドッグの心は決まった。


 「せめて相打ちに!」


 担いでいた戦斧を構えてファウストに迫る。


 「ちょっと危ないからあっち行っててね」


 ぺろぺろを放し、亀の甲羅で戦斧を殴った。


 「何っ!」


 粉々に砕ける戦斧。

 ならば肉弾戦と拳を構えた時には遅く、肉が弾けたかと錯覚する強烈な蹴りが腹に突き刺さる。

 子供のように小さな体からは考えられない重力感のある蹴り。


 「ゴホゴホ。我は犬人ドッグ。こんな、まだ、負け⋯⋯」


 「別に君のやる気は要らないんだよね」


 無慈悲に膝を顔面に埋め込み歯を全てへし折った。

 刹那の間に手の甲で顎の骨を砕く力で叩いた。


 魔法少女と戦った時とは違い、手加減が一切無い。

 否、ドッグが生きていると言う時点で手加減はされている。


 「お姉ちゃんにプレゼントする? でもなぁ。弱過ぎるし拠点を圧迫するだけの雑魚にママも興味は無いか。ぺろぺろ食べて良いよ」


 「わん!」


 「や、やへほ。ふ、ふるな!」


 嬉しそうに弱ったドッグに近づき、顔が巨大化して魔族を1口で食べる。


 「あああああああああぁ⋯⋯」

 

 元のサイズに戻って咀嚼する。


 「巨大化すると普通に可愛くないから、主人の前では絶対にするなよ〜可愛がって貰えなくなるからなぁ」


 「わん!」


 そんな両者に近寄って来るのは統括幹部怪人のサインだった。

 戦闘の観戦及びファウストのお目付け役。


 「お疲れ様です。良く頑張りましたね」


 「わーい! お姉ちゃんに褒められた〜! よしよしして〜!」


 「はいはい」


 胸に飛び込んだファウストを優しく抱えて頭を撫でる。

 ぺろぺろにも同じ事をして魔法少女の所に返した。


 「お姉ちゃん、主人は?」


 「一番の面倒事を処理してくださいました。帰りますよ」


 「はーい!」


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 「うおおおおお!」


 熱い! 想像以上に熱いぞ!


 へカート、僕の目に狂いは無かった!


 「何度でも立ち上がるジャベリンを見て、どうして魔法少女になったのかの本質を思い出す! そう、魔法少女に憧れたのだと!」


 立ち上がり髪や瞳の色が濃くなる原因解析中の魔法少女特有の演出!

 心の底から魔法少女になったと言う証拠なんだろう!

 最高に熱い!


 「おじさん胸焼けしそうだよ。壁を作ったへカートが自ら壁を壊し歩み寄り、協力技で敵を倒す。実に王道的でナイスファイト!」


 同士がいれば徹夜で語り明かしたい!


 「いや〜楽しみを邪魔されたく無かったから速攻で倒しちゃったけど、この魔族なんだったんだろ?」


 なんか言っていた気がするが、弱かったので魔王軍とか関係無い野良の魔族なんだろう。

 命までは取って無いし、ルーペかサインに処遇を委ねようかな。


 「今日は良い夢が見られそうだぜ。ありがとう、魔法少女」


 僕は魔法少女に感謝を伝え、帰還した。

 国では魔法少女の活躍が広まり、外でも魔法少女が守ってくれると言う噂が広がった。

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