第23話 そろそろ絆深べイベント欲しくない?

 ルーを魔法少女にしてから数週間が経過し、未だにルーの単独撃破か続いている。

 世間でもルーの存在が大きくなり、ジャベリンの存在が薄くなって来ていた。


 「そろそろ頃合、か」


 「頃合ですか?」


 サシャが怪人の姿で紅茶を入れてくれている。

 日常のサシャとは大きく掛け離れた格好のせいで違和感がある。

 入れてくれるお茶は変わらず美味しいが。


 「そうだ。頃合だ。そろそろ絆を深めるイベントがあるべきだ」


 「では、どのようになさいますか? 私が出ましょうか?」


 「いや。折角だ。ファウストのお披露目会も兼ねよう。ファウスト、来てくれ」


 「はーい!」


 ズドーっと僕に突撃しながら抱き着いてくるファウストを受け止める。


 「ファウスト、君に任務を与える」


 「はーい」


 僕は任務の内容を伝える。

 内容を覚えたファウストは元気良く了承してくれた。


 「良し、では本番まで僕が訓練に付き合おう」


 「わーい! 主人と2人切っりで訓練だぁ!」


 「私も居ますよ?」


 サインが間髪入れずに釘を差し込む。


 「お姉ちゃんと主人、一緒に訓練できて嬉しい!」


 「うっ」


 邪気の無い眩しい笑顔がサインの心を照らしダメージを与えた。

 子供のようなファウストと真っ直ぐな笑みは穢れた大人程ダメージが大きくなる。

 当然、僕にも言える事だ。


 ファウストを甘やかしてしまう。


 「アーク様〜」


 「なんだルーペ?」


 「いやいや。ファウストの実戦投入と何やら重要なイベントらしいじゃないか。だから大々的にやって欲しくてね。こっちもそろそろ大きな資金が欲しいのだよ」


 大々的にやるのは賛成だ。

 やはり大きなイベントは皆にも見て貰いたい。


 魔法少女を輝かせるにはやはり、護られている人達の応援が必要だ。

 大きく注目される事をするのは良い。


 「しかし、中々国内でそれはできんぞ。場所が無い」


 「そこはアーク様の知略で何とかできないかね?」


 僕の知略なんてサインとルーペ、どっちにも勝らないのだが?

 何を過大評価しているのか⋯⋯。


 僕が悩んでいると、助け舟をサインが出す。


 「お父様の系列会社の運送専用列車が隣国に出発します。それを襲うのはどうでしょうか」


 「ふむ。そうだな。外なら大きく暴れても大丈夫か」


 「アーク様は身内贔屓をしないんだね。イヒヒ。僕様は好きだぜ」


 荷物のある列車を襲う事に決まった。

 魔法少女をそこに呼び出すのはそこまで難しく無い。

 ぺろぺろを使えば良いからだ。


 「サインは遠くでファウストが力加減を失敗しないように見張っておいてくれ」


 「御意」


 「ボクそんなミスしないよっ!」


 「そうだな。でも一応な。備えあれば憂いなしだから」


 「アーク様は如何なさいますか? 今回は場所さえ考えれば騎士団の到着を妨害する必要も無いかと思いますが」


 「そうだね。僕は何よりも重要な事をするよ」


 「重要な⋯⋯事? ご理解しました。それでは私はファウストの監視役に専念致します。必要無いかと思いますが、ご気をつけて」


 何を心配する事があるのだろうか。

 サシャとしての真心ってやつか?


 「ん? ああ」


 なので良く分からない返事を返した。


 僕にとって最も重要な事。

 それは活躍する魔法少女を見る事だ。


 毎回隠し固定カメラ及び敗北し活躍の場を失った怪人達が録画した動画を見ていた。

 しかし!

 今回は騎士の出番が無いとくれば生で見れる。


 リアタイじゃない。生だ。生で魔法少女の活躍を我が肉眼に焼き付ける事ができるのだ。

 全てのアニメオタクが羨む贅沢な時間になるだろう。

 しっかりと楽しむ準備をしておこう。


 もちろん録画は忘れない。

 僕はリアタイ、録画で2回は絶対に観るタイプなのだ。

 

 今回の仕事が終わればファウストは今後騎士団妨害に回って貰う予定だ。

 ルーペが傑作と言うだけあり、ファウストは他の怪人と違って強い。


 「それでは、訓練を始めようか」


 「わーい!」


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 「キャンキャン!」


 ぺろぺろにジャーキーをあげながら日課の散歩をしていた。

 定期的に道を変えて街中を把握しながら散歩するのが日課だ。

 その理由は単純、変身できる場所と解除できる場所を覚えるためだ。


 魔法少女である事を他人に知られてはいけないルールがある。

 無くても私はバレたくない。

 だって恥ずかしいからっ!


 セーギさんは慣れると言っていたが、全然恥ずかしいっ!

 でもあの格好は露出度の割にきちんと防御力が高いから不思議だ。


 「やっぱりこの辺の裏路地は人が少ないな。そう思うよねぺろぺろ〜?」


 「わん!」


 ほらやっぱり。

 ぺろぺろもそう思っているらしい。


 私達が散歩をしていると、買い物を終えたのか雑貨店からルーちゃんが出て来た。


 「あ! ルーちゃん!」


 大きな声で呼び、手を振って自分の存在をアピールする。

 私を冷たく一瞥してから、挨拶を返さずにダッシュで逃げ出す。


 「えっ!」


 私もダッシュで追い掛ける。

 街中でマナを使わないルーちゃん。

 素の身体能力は私の方が高いので追い付いた。


 「捕まえた!」


 「抱き着くな! 気持ちが悪いわ!」


 「酷い! 友達にそれは酷い! ぺろぺろも泣いてるよ!」


 ルーちゃんはぺろぺろを撫でてから、袋から犬用のおやつを取り出して渡していた。

 嬉しそうに尻尾を横に振るぺろぺろ。尻軽め。


 「キャンキャン!」


 「って、ぺろぺろは妖精だよ」


 「嬉しそうなんだから構いませんわよね? それと、外でも学園でも気安く話しかけないでください。同列だと思われます」


 「⋯⋯うっ!」


 ズキっと心に矢が突き刺さった。

 仲良くなりたいけど、ルーちゃんが私を突き放す。

 心の壁はどれだけ分厚く、どれだけ高いのか。

 分からない。


 ⋯⋯でも。

 私は諦めない。

 きっと友達になれるだろうから、私は私のまま頑張るんだ。


 「そう言えば、何を買っ⋯⋯」


 袋の中をチラッと見ると、袋の中の過半数を埋め尽くしている避妊具。

 しかもそれは男性用の⋯⋯。


 顔が火照って熱くなるのを感じた。

 頭がクルクルと回って、私は冷静じゃないまま言葉を出す。


 「ご、ごめん! こ、これからか、かか、彼氏さんと⋯⋯」


 「違うわよ! これは母親に⋯⋯別に貴女には関係ないわ」


 「母親?」


 スーっと心が冷えるのを感じた。

 ルーちゃんが嘘を言うとは思えない。


 娘にそんなの買いに行かせる?

 それが普通の親なの?


 私に実の親は居ないけど、きっとそんな事はさせない。

 お使いにしても中身がおかしいだろう。


 人様の家庭に踏み込むのは良くない事だって先生に教わったけど。

 それでも、私は踏み込まないといけない気がしたんだ。


 「もう良いでしょ?」


 踵を返して私達に背を向け離れて行くルーちゃんの手を慌てて取った。

 彼女は苛立ちのままに手を払い除ける。


 「何よ!」


 「ルーちゃん⋯⋯大丈夫?」


 「っ?! 何の事よ」


 分からない。

 だって私はルーちゃんの事全然知らないもん。


 「分からない。でも、私はルーちゃんと友達になりたい。もしも辛かったり逃げ出したかったりしたら、私を頼って。絶対に、護るから」


 「くだらないわね。ワタクシに友達は必要ありません。護る? ワタクシよりも弱いのに上から目線で言わないでください!」


 その通りだ。


 結局、私はルーちゃんに何もできずに終わった。心の距離は縮まらなかった。


 「わん!」


 「え! ぺろぺろ待って!」


 ぺろぺろがいきなり駅の方に走り出す。


 「ルーちゃんも来て!」


 「え? いや⋯⋯力強っ」


 私はルーちゃんを引っ張ってぺろぺろを追い掛ける。

 小さい頃から格闘訓練を受けているので身体能力がルーちゃんよりもかなり高い。

 そのためペースが合わず、辛そな声を漏らしていた。


 「ごめんルーちゃん!」


 「え? な、なんでぇぇぇえええ!」


 ルーちゃんの腰を右腕に、膝の裏を左腕に置いて抱っこする。

 そのままぺろぺろを追いかける。


 ぺろぺろは1台の荷台に侵入して行った。

 私も追いかける。


 「ぺろぺろ待って!」


 「お、降ろしなさい!」


 荷台に乗り込むと、ガチャンと音が鳴って移動する感覚に襲われる。


 「動いちゃった!」


 しかもかなりの速度である。

 魔法少女のステッキはあるので、変身して脱出すれば身バレの問題は無いか?


 「でも人が多いし、外に出るまで待機かな。⋯⋯と言うか、何これ。土人形?」


 どこか魔法少女に似ているけど、顔とか違うしなんだろうか?


 「降ろしなさい!」


 「ああ、ごめん」


 ルーちゃんを降ろすと、忌々しいモノを見る目を向けて来る。

 ぺろぺろの方を確認すると、おすわりをして私を見ていた。


 「ぺろぺろどうしたの? いきなり走り出してびっくりしたよ」


 「わん!」


 「ぺろぺろが反応したって事は⋯⋯ヤベーゾ?」


 「え! ヤベーゾの気配を感じたの?」


 「わん!」


 キリッとした顔とハッキリと自信のある鳴き声。

 ぺろぺろがこう言う顔をする時、高確率でヤベーゾの怪人か怪獣が現れる。


 この荷台から降りられない理由ができてしまった。

 ルーちゃんもやる気を見せ、ステッキを取り出した。


 「どこらからでも来なさい。ワタクシが成敗しますわ」


 「⋯⋯これ商人が使う列車。運転手も含めて複数人の人が乗ってる! 今すぐに停止させて避難させないと!」


 「勝手にしなさい。ワタクシはヤベーゾを待つわ」


 「⋯⋯っ! 魔法少女はっ! ⋯⋯いや、うん。分かった」


 魔法少女は人々を護るための行動をするのであって、敵を倒すのが本分じゃない。

 だけどルーちゃんはただ、敵意を剥き出しにしてそのタイミングを待っていた。

 だから私だけでも、助けれる人を助ける。


 「ジャベリンの方が信頼されてるか。【変身】」


 私はヤベーゾが現れる前に避難させるべく、行動を始めた。

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