第22話 魔王の煮える怒り/国王の娘の野望

 「魔王様、如何なさいますか?」


 秘書の魔族に心配される魔王。

 部下から報告されている資料に頭を悩ませていた。


 「弱い部類の上流魔族と言えど、奴らには思念がある。裏切るなど考えもしなかった」


 次々と魔族を派遣してはその消息を断ち、次に確認された時にはヤベーゾの配下として戦い魔法少女に敗れている。


 「おかしいだろ。どうして悉く寝返る! そして何故魔王軍では無く普通に王国を襲っているのだ! ヤベーゾが何を考えているか理解に苦しむ!」


 「お紅茶を用意しますね」


 「た、頼めるか?」


 最近、魔王には悩みがある。

 この頭のおかしいな連中ヤベーゾである。


 派遣した魔族を全て問題を起こす前に捕縛しては何らかの手で寝返らせ、王国を襲わせている。

 王国を守るために捕縛しているのではなく、自分達の戦力にしているのだ。

 しかも、報告によれば全力を出させずに魔法少女に倒されていると言う。


 (王国を敵視しているようには見えん。内側から王国を崩せるはずだからな。報告通りの強さ、ならばな)


 騎士の妨害に魔族の殺傷よりも難しい捕縛、その強さがあれば王国を落とす事ができるかもしれない。

 しかし、そんな被害は今のところ出ていない。


 魔王軍の敵なのは確かだが、王国とはどちら側なのか未だに不明。


 (だいたい魔法少女って。魔法を使う少女ならそこら中にいるだろ。なんでわざわざこんなコスプレをさせてまで戦わせる?)


 ヤベーゾも分からないがスゲーゾも分からない。


 (それに怪人とか怪獣ってなんだよ。魔族と何が違うんだよ。偽るなよ。魔族だろ)


 愚痴ならいくらでも出て来る。


 「だが、そろそろ邪魔だては我慢ならんな。上流の中でも星魔に近い実力者を数名送り込め。星魔の動員も許可する」


 「はは。ではそのように通達して参ります」


 「頼んだ。そろそろヤベーゾ共に痛手を負わせ魔王軍の恐ろしさを骨の髄まで刻み込んでやろう。くーはっはっは!」


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 「陛下失礼します!」


 ここは件の王国。

 ヤベーゾとスゲーゾにより疲弊している国王の部屋にノックも無しに娘が入って来る。


 「アメリア。ノックはしなさい。そしてもっと静かに落ち着いて行動しなさい。王家たるもの⋯⋯」


 「今は関係ございません。このままでは王国は衰退します。今すぐにでも魔法少女とヤベーゾの対策を強固なモノにしなくてはなりません!」


 「うむ」


 アメリアの言っている事は痛い程理解できる国王。


 今の王国は国内に現れるヤベーゾの手の者に襲われ、その全てに魔法少女が対処している。

 そのせいで、王国騎士と言う国を護る兵士達の信頼が低下している。


 「国民は自分の目で見て感じたモノに心が惹かれます。急ぎ魔法少女にコンタクトを取り王国所属にしなくては、我らの信頼が地に落ちます」


 「できたら苦労はせん。どこらかともなく現れて問題を解決して接触する前にその姿を消す。神出鬼没の連中だ。さらに認識阻害のせいで奇抜な服装にも関わらず未だ発見されない」


 「ですが、何とかしなくては。騎士達の離職率も上がっています。子供の就職人気ランキングで常にトップだった騎士も年々下がり続けています」


 そこを気にするのは少しだけ子供っぽいなと、荒んだ心に癒しが入る。

 暖かくなった心を凍らせるようにアメリアは続ける。


 「騎士達にヒアリングを行いました。過半数の人が国民からの侮蔑の眼差しが辛いと言っていました。それだけ護りたい方々からの冷たい視線は辛いのです!」


 「うむ」


 決死の思いで護る国民から必要とされていない現実は酷なモノ。


 それを解決する方法は単純明快だ。

 騎士が怪獣や怪人を倒せば良い。

 だが簡単では無いから、今に至っているのである。


 騎士達の妨害、魔法少女のありえない速度での対処。

 そのせいで揺らぐ国への信頼。


 「街に出れば魔法少女に尊敬を向ける人が多く居ます。⋯⋯良くないのが、『魔法少女なら対処してくれる』と言う考えが広がっている事です」


 怪人、怪獣が国内で暴れでも命を落とした者は誰一人としていない。

 そんなのは敵の気分次第だと言うのに、国民は魔法少女が護ってくれているおかげだと思っている。


 「素人どころかプロですら、怪人と魔族、怪獣と魔獣の区別は付きません。できるのは魔族や魔獣の種類を全て頭に入れた博識の人のみです」


 それが何を示すのか、アメリアが続ける。


 「もしもこのまま魔法少女への信頼が高まれば、国外で現れた魔獣や魔族に対しても魔法少女がいるから大丈夫だと勘違いし、身を守る行動を控える可能性があるのです!」


 もしも、魔獣などに襲われた時は騎士が到着するまで国民は自らの手で命を守るしか無いのだ。

 だが、今や魔法少女が1分も経たずに対処してしまうので、逃げると言う逃走本能や生存本能が低下した人が増えている。

 本当の一大事が起こった場合、国民は魔法少女が来てくれると思い込み逃げず⋯⋯命を落とす事だろう。


 「避難訓練や防衛訓練⋯⋯定期的に開かれる身を守る訓練に参加する人も減っています。今すぐにでも、どんな手を使ってでも、魔法少女とコンタクトを取る必要があります!」


 アメリアの熱弁を聞いた国王は静かに、息を吐いた。

 既にその考えへ至っているし行動もしている。

 しかし実を結ばないのだ。


 「陛下⋯⋯そろそろあの騎士団を再編成するべきでは無いでしょうか。自身も学園に入学できたので、騎士部で有望な人を集めるつもりです。今世界は新たなステージに進もうとしています。どうかご決断を」


 「⋯⋯既に声は掛けている。その上で自由にさせている」


 「え?」


 「アメリアの言う騎士団は問題児が多いが強い。対魔獣戦にしても対人戦にしても優秀だ。個々が才能に溢れ強い。⋯⋯だから自由にさせている」


 「い、意味が」


 「魔法少女へのコンタクトが重要と言ったな。最初から考えている。だが何かしらに妨害される事もある。今のままでは無意味。平行線だ。故に、自由にさせ国民と同様の生活をさせ⋯⋯運が良ければ接触ができる」


 敢えて自由に行動させる事で突発的に発生するヤベーゾの悪事への対処と魔法少女の接触を計画していた。

 根本は運に頼る行為で堅実的とは言い難い。

 だが、今は神頼みでもなんでもするべきなのだ。


 「手段は選ばない。だが魔法少女は普通の犯罪や災害に対処はしない。誘き出す事は困難。この手しか、最適解は無いのだ」


 「⋯⋯お父様」


 「アメリアの国を思う気持ちは十分に理解できる。だが事を焦り周りが見えなくなると失敗する。何事も俯瞰し冷静に見極める必要があるのだ。⋯⋯まだ、魔法少女が人間の味方だと決まった訳でも無い。ヤベーゾが人間の敵だと決まった訳でも無い。騎士の離職率は福利厚生や給金の増加で食い止めるつもりだが⋯⋯難しいやもしれん。アメリア、もう良いか? 我々には我々のできる事を最大限やる、それだけだ」


 「⋯⋯はい。失礼しました」


 アメリアは言い返さず部屋を後にした。


 (やはり父は簡単に出し抜けない⋯⋯か。人々の信頼を自身に向け新たな王に⋯⋯と計画はしているがまだ無理か)


 アメリアは8歳の頃から今までずっと考えていた。

 魔法少女が初めて戦ったあの日からずっと考えていた。


 (魔法少女をどうやったら取り込めるのかしらね? 彼女達の知名度や信頼度を手中に収めれば王への道は短くなる)


 アメリアは自分の部屋に入る。

 そして誰にも教えてないカラクリを動かし、壁を開ける。

 壁の向こうに新たな壁。


 そこには国の地図が俯瞰図として描かれていた。


 「お父様は本当に優秀だ。無能であってくれた方がこちらとしてもやりやすいのに迷惑な事ね、本当に」


 壁の地図には赤い点と怪人か怪獣の写真が貼ってある。

 ⋯⋯この壁は毎回更新されている。

 怪獣と怪人の出現位置と魔法少女の対処までの時間。


 「場所の共通点は人の少ない場所⋯⋯だけど最近は学園付近が多い」


 出現位置の傾向などを一人で記録し考察する。

 誰にも情報は提供してないし協力してない。

 全てを一人で行い、魔法少女を取り込む。


 そのためにやるべき事。

 単純だ。


 「タイミングは自身が学園に入った時期⋯⋯つまり、怪人共を呼び出すヤベーゾの誰かが同級生にいる!」


 それだけでは無い。

 むしろ本命はこっち。


 「魔法少女の出現速度から見て魔法少女も同級生の可能性がある。出現した方向から考えて新しい魔法少女は貴族では無い」


 どちらの勢力も学園に潜んでいる。

 予想では無く、確信している。


 「魔法少女だけじゃない。ヤベーゾだって取り込んでやる。2つの勢力が手に入れば、国民の支持が操作可能⋯⋯絶対に、絶対に暴いてやる。魔法少女、ヤベーゾ!」


 悪魔のような高笑いがアメリアの部屋を覆い尽くした。

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