第33話 異変

 それは突然起きました。


 イジュにペンダントを渡し、庭師からの報告に明るい未来を感じた私は神殿で祈るため馬車に乗ろうと、ご機嫌で部屋から出ようとしていました。


 その時です。

 私の胸に強い衝撃が走りました。


「あうっ」


 私は思わず呻いてその場にしゃがみこみました。

 息が詰まって呼吸が上手くできません。


「どうしたアマリリス? 大丈夫?」


 うずくまって固まっている私を、駆け寄ってきたイジュが心配そうにのぞき込みます。

 私は返事に詰まり、困惑していました。

 異常を感じましたが、なぜなのかが分かりません。


「アマリリス! アマリリスはいるか⁈」


 そこにエリックさまが叫びながら飛び込んできました。

 明らかに異常事態です。

 うずくまったまま見上げれば、エリックさまの青ざめた顔が目に映ります。


「もしや?」

「その、もしや、が起きた」


 エリックさまが苦い顔をしています。

 イジュが私とエリックさまを見比べて困っていますが、いまはそちらに気を遣っている場合でもありません。


「結界、ですね?」

「ああ、イレーナが異常を感じたと。場所はクヌギ村の辺りだ」

 

 大聖女イレーナさまの聖力は特別なので、結界の状態をチェックする能力も高いのです。


「やはりそうなのね」


 私は胸を押さえながらつぶやきました。

 

 日頃から祈りを捧げている場所と聖女は繋がりが深いのです。


 だからクヌギ村での異変が私の体調に影響を及ぼしたのでしょう。


 イジュの手を借りて起き上がる私に、エリックさまは言いました。


「アマリリス、我々は急ぎクヌギ村へ向かう。一緒に来てほしい」

「わかりました」


 エリックさまがクヌギ村に向かうというのなら、同行するのが一番早いです。


「伝令で隣村から聖力石を急ぎクヌギ村へと回すよう依頼したが。それで間に合うとは思えない」

「そうですね。魔獣でも入り込んでいたら、結界が強化されていても危険であることに変わりはありません」


 神殿の聖力石に何かあったのなら、代わりのものを置けば結界は元に戻ります。

 しかし、入り込んでしまった瘴気やら魔獣は処理しなければいけません。


「クヌギ村あたりの結界は複雑ですけど、私が王都へ来る前に確認したときには異常はなかったのですが。王都の神殿からの護りだけでは足りませんけど、聖力石が設置してあるから安全なはずなのに……」

「あっ!」


 思い当たる節があったのか、エリックさまの顔がサッと青ざめました。


「なにか心当たりが?」


 私の言葉に、エリックさまはバツが悪そうに答えました。


「いや、アマリリスがこちらにいるからとクヌギ村にはを付けたのだが……」


 私は自分の表情が苦虫を嚙み潰したようになっていくのを感じました。

 聖力石の力について理解していない人にとっては、お金の方に価値を感じたことでしょう。


「それは失敗でしたね。あの村は現物支給でないと」

「すまない、アマリリス。私のミスだ。馬車は手配済みだ、急いでクヌギ村に行こう」


 出ていこうとする私たちに、イジュが言いました。


「心配だから、オレも行く」


 私の本心としては、イジュにはこのまま屋敷に居てもらったほうが安心なのですが。

 彼の意思を無視するのも違うと思ったので、判断はエリックさまに託します。

 

「そうか。なら一緒に行こう」


 エリックさまの一声で、イジュも同行することに決まりました。

 こうして私たちは、エリックさまの用意した馬車に乗り、急ぎクヌギ村へと向かったのでした。

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