第28話 梅雨うつうつ
梅雨の雨粒は細かくて、曇り空からいつまでもしつこく、しつこく降ってくる。
私は屋敷の窓から庭を眺めています。
午前中だというのに薄暗い庭で、イジュは楽しそうに庭仕事をしています。
庭師がクヌギ村へ行っているので、代わりを務めているのです。
そんなことをしなくても、庭師にも部下がいますから数日いなくても困りません。
でもイジュは責任感が強い働き者ですから、他に仕事がなければやってしまいます。
細く細かい雨の中、濡れることなど気にならない様子のイジュは、笑顔で紫陽花の根元にしゃがみこんでいます。
草取りをしているのか、花を眺めているのか。
窓の内側から見ているだけの私には彼が何をしてるのか分かりません。
ただイジュの楽しそうな様子だけは伝わってきます。
庭師に代わり土いじりをするイジュは、主の配偶者にはとても見えません。
だからといって彼を馬鹿にしてヒソヒソクスクスするような使用人はいません。
ここに居るのは躾の行き届いた使用人ばかりだからです。
それでも、なんとなくモヤモヤします。
庭師も立派な仕事ですが、私に付き合わされて王都まで来て庭いじりをしているイジュは幸せなのでしょうか?
私は彼を不幸になどしたくありません。
王都など退屈で、上品な人たちに囲まれていると窮屈とか肩身が狭いとか、嫌な思いをしていなければいいのですが。
村で畑仕事をしている方がよかったのなら、どうしましょう。
植物相手ならどんな仕事でも楽しい、とイジュは言ってくれますけれど。
私としては……二人でいると楽しい、のほうを強化したい気持ちがあります。
そのための王都への旅行にしたいと思っていたのですが、私たちは楽しめているでしょうか?
夫婦だからといって、夜伽が全てというわけではありませんが。
やはり夫婦なら、何もないというのもおかしいように思います。
それよりもなによりも。
この人の子どもが欲しいな、とちょっと思ったりもしているのです。
私がイジュとの子どもが欲しいと感じている、ということは、夫婦としての相性もいいと考えてよいのではないでしょうか。
私たちは幼馴染ではありますが、ちょっと色々飛び越えすぎちゃっているような気もしています。
エリックさまの言う通り、私とイジュの関係は、私とイジュで作っていかなければいけません。
相談は出来ますが、誰かを頼るような問題ではないのです。
結婚、という形をとったらなんとかなる。
そんな甘い考えが私になかったとは言いません。
だとしても……ちょっとイジュはガードが硬すぎませんか?
私とイジュで関係を作り、私とイジュが幸せならそれでいい。
それでいい、だけのことなのに……。
子どもに関しては、やることやらないできませんよね。
本で勉強しました。
いつになったら子どもはできるのでしょうか?
その前に、イジュとどうやって絆を深めていったらいいのでしょう。
いつになった子どもができるような物事の運びになるのでしょうか?
どうやって……。
ん、結婚初夜とかいうシステム。
あれって意外と役立つシステムだったんですね。
タイミング逃したら男と女は平行線。
とっかかりが掴めません。
ウジウジ、うつうつと悩む今日この頃です。
何か考えねば、と思考ばかりが空回りして遅々として前に進まないこの感じ。
いかにも梅雨時という感じでイヤですね――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます