第23話 エリックさまの心遣い
エリックさまは神殿内に執務室を持っています。
今日はそこにいるということで、 神殿に顔を出したついでにエリックさまの所へも行ってみました。
落ち着いた雰囲気の執務室には、少々派手目の応接セットがあります。
私が勧められるまま金色の細工が華やかな椅子に腰を下ろすと、エリックさまも正面の椅子に腰を下ろしました。
そして開口一番。
「相変わらず、見事なピンク色の髪だねぇ~。んー、結婚生活が上手くいってないのかな?」
「はい」
言い訳のしようがないので、素直に受け入れます。
私はうなずきました。
「仲良くはしているのですが……」
「ん、仲良く違いだね」
そうなのですか、やはり。
がっくりとうなだれる私の前に、綺麗にラッピングされた長方形の物が置かれました。
「忘れないうちにコレを渡しておくよ。イジュ君へのお土産だ」
「ありがとうございます」
私はエリックさまから綺麗にラッピングされた物を受け取りました。
「イジュ君も聖女さま相手で戸惑っているのだろうけど。聖女も普通に女性だからね」
フフフと笑うエリックさまは、聖女とも色々な経験があるのでしょうけれど。
一般の平民は、配偶者となる方以外とは、色々な経験はしないものだと思います。
……多分。
「屋敷はどうだった? 気に入ってもらえたかな?」
「はい。素晴らしすぎて、私には勿体ないお屋敷でした」
「フフフ。キミは自分を過小評価しすぎだよ」
そうでしょうか?
疑問に思いつつ、出された紅茶を一口、いただきます。
やはり屋敷で飲んだ紅茶と同じ味がしました。
あらゆるものがエリックさまの使われている物と同じものだったらどうしましょう?
出費の額にめまいがします。
「ですが、聖女としてのお役目が出来なくなった私に、価値はあるのでしょうか?」
幸せを祈られるのは嬉しいですが、色々と良くしてもらい過ぎるのは気が引けます。
「んー。そこが気になるなら、これから価値を作っていけばいいんじゃない?」
「価値を作る?」
それは一体、どのようなことなのでしょうか?
「キミは聖女として様々な人たちと知り合った。その人脈というのはね、使い方によってとても力を持つものなのだよ」
「人脈、ですか」
「王族とのつながりもあるし、聖女をはじめ神殿とのつながりもある。領地に関しては執事に管理を任せてあるが、そちらの人脈も使おうと思えば使えるはずだ」
たしかに、様々な方とのつながりはありますが。
それをどう使えばいいのでしょうか?
「キミが何をしたいか。それにもよるのだけれど……私としては、クヌギ村に貢献してもらえるとありがたいな」
「エリックさまが、ですか?」
私はクヌギ村の出身ですから、地元に貢献できれば嬉しいですが。
エリックさまがそれを希望するのはどうしてでしょうか。
「クヌギ村は王国の外れの方にあるけれど、王都から極端に離れているわけじゃない。あそこの結界が緩んでしまうのは、国としても都合が悪いのさ」
「あっ……」
そうでした。
だから私が聖力に目覚めた魔獣騒ぎの時、王都からの支援はとても早かったのです。
まだ遺体の処理が終わっていない血の匂いも生々しい時期に、エリックさまは村へと訪れました。
「クヌギ村を国の端にある田舎の村として扱い、人口の少ない場所のままにしておくほうがいい、という意見もあるが。発展させることで目が行き届きやすくなり安全を保ちやすくなる、という考えもある」
「そうなのですね」
「守る方法は、キミが聖女で居続けること以外にもあるのさ。キミを尊重させる方法もね」
「……え?」
どういうことでしょうか。
「金と力を手に入れて、周りをひれ伏せさせてしまえばいいのさ、男爵さま」
エリックさま。
キラキラしながら物騒なことを言わないでください。
でも……それも面白そうですね!
「クヌギ村には結界を守るための予算をつけてあげるからさ、キミはしばらく王都で今後のことを考えてみたらいい」
確かに、聖力が込められた聖力石ならお金で買えます。
いずれ力を失うであろう私が、早々に村へと戻る必要などないかもしれません。
「私にできること、あるでしょうか?」
「ん、きっと沢山あるよ」
「何も思い浮かびませんが……」
「それこそイジュ君と二人で考えたらいい。夫婦なのだからね」
エリックさまが、ニヤニヤ笑いながら私を見てきます。
そこは、そんな艶っぽい雰囲気出してくる所ではないと思いますよ、エリックさま。
エリックさま……表情で私をからかって赤面させようとするのは止めてください。
あぁ、もうっ。
恥ずかしいっ。
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