第21話 ロケハン

 ロケハンという名の、旅行が八月三日に訪れた。

 俺は、いま欲情という性欲と格闘している。

 ……そのわけは——。


「うっ、はあ、はあ、んっ」


 こんなにも喘いでいるのは、秋月だ。現在、海水浴に来ていて秋月の背中に日焼け止めを塗っているのだが、例によって彼女は体に触れられるのが弱い。

 そして、俺も股間が痛い。


「はあ、ありがとっ。じゃあ泳いでくるわね」

「ああ。行ってこい」


 彼女は豊満な胸を揺らしながら海に入っていった。

 すると肩を小突かれた。振り返ると顔を真っ赤にしている大竹がいた。


「えっ? どうした?」

「菜穂ちゃんの肌に触れて、嬉しがってるんじゃないわよ」


 俺の恋人が、ぷんすかと怒っている。

 両手を合わせて俺は謝った。もう勃起は収まった。


「ごめん。ごめん」


 そしたら大竹は俺が座っていたレジャーシートの上に座って、持っていたカゴの中からサンドウィッチを取り出した。


「ありがとう」


 サンドウィッチを齧ると、マヨネーズの酸味とマスタードの辛みが舌を転がった。美味い。咀嚼していると彼女は羽織っていたパーカーを脱いだ。胸は控えめだ。もう一度言う。胸は控えめだった。


「今、失礼なこと考えていたでしょ」

「い、いやあ……」

「胸が小さいなあ、とか。ごめんなさいね、菜穂ちゃんのほうが大きいもんね」

「いや、違うんだ。俺は尻とタッパのでかい女が好きなんだ」

「どっちとも私とは違うじゃない。このアホ‼」


 ふん、とそっぽを向く大竹。俺はその様子もどこか可愛くて笑った。


「なに笑ってるのよ」

「いや、可愛いなって思ってさ。さすが俺の恋人だ」


 すると大竹の顔が真っ赤になった。「ば、馬鹿にしてんじゃないわよ……うう、本当に思ってる?」


「ああ。最高の恋人だあ」

「ああ‼ 菜穂ちゃんが‼」

「えっ、どうした」


 突然、大竹が海のほうに指差した。秋月が溺れているのかと、視線を海へと移すと頬に違和感が起こった。やわらかい感触が触れてきたのだ。その数秒後、俺はキスをされたのだと感じた。彼女のほうを見ると、照れながら上目遣いで、「ファーストキス、どう?」と訊ねてきた。いや、どうと言われても……困るんだが……。


「いや、その、俺もこういうの初めてだったから……」


 俺も照れてしまって彼女のほうから目線を逸らしてしまった。

 ぎこちない空気が流れる。


「ふたりとも、なにしてんの?」


 自販機でジュースを購入してきていた、水穂が様子を窺ってきた。


「いや、別になあ。ねえ、大竹」

「そ、そうだねえ。俊くん」


 すると穿った目で「本当にい?」と訊ねてきた。


「まあ、別にキスしようが“挿入”しようが、どっちでもいいんだけどね」

「えっ、挿入とか、キモイ」

「……」

 沈黙が、少しのあいだ場を占領した。

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