妹を救うために泣きゲーを作ります。妹はちなみに鍵っ子です。

大瀧潤希sun

第一章 エロゲーとはなんたるか。プロとはなんたるか。

第1話 俺がノベルゲームにハマったきっかけ

 俺――竹達たけたつ駿しゅんは、その当時十歳だった。

 感動系ノベルゲームの金字塔、「Key」から生み出されたゲームがアニメ化され、それを食い入るように見ていた。

 いつも同じところで泣き、いつも同じところで笑う。

 原作は十八禁だったから両親から購入の許可はもらえなかったけれど。


 だがそれから八年が経ちもう普通に十八禁のゲームも出来るようになる年齢となった。必死にバイトして買った最新機種のゲーミングPCで、八年前のゲームをプレイする。そのことがどこか趣が感じられると思いニヤリと笑う。


 そして一週間、徹夜してヒロインたちを攻略していった。親父には「受験生がなにやっているんだ」と怒鳴られ、担任に休学届けを出すことを伝えるとき、その理由のことを馬鹿正直に「女生徒と交流(性行為も含まれる)」と言うと、冷めた目で笑われた。


 とまあ、様々なことがあったが俺は無事にメインヒロインを攻略し、ハンカチで目元を覆った。雫が頬を伝う。

 

 ――ああ、なんて素晴らしいんだろう。

 

 俺もビジュアルアーツにいつか入社したい。

 ネットでKeyの公式サイトを眺めていると、ある欄に目を奪われた。


「自作PCゲーム募集。賞金一千万円」


 俺はすぐに部屋を飛び出した。親父の書庫に俺が以前百回近く読み込んで、練習しまくったプログラミングの本があったはずだ。


 家の地下からそれを見つけ、ペラペラとめくる。


 まだ言語は覚えている。英語で羅列された文章を見てはそう思う。


 俺はそのとき、自分の腹のなかで熱意を感じた。訴えたいメッセージもある。


「やってやるよ。俺の才能を認めさせてやる」


 今の次期は五月の始め。締め切りは来年の三月。


 なんとか、間に合うか?

 しかし、問題がある。シナリオと絵師の存在だ。俺はシナリオを作れないし、絵も描けない。

 だから俺は、まずはシナリオライターを探すことにした。


 ネットで募集しても詐偽かなんかだと思われて相手にしてもらえない。作家のDMに相談をもちかけても無視される。そんな状態だった。


 ◇


 市立蒼ヶ峯あおがみね高校。俺は教室で友人のたちばな幸助こうすけと談笑していた。

 彼とは小学校からの付き合い。無類の漫画好きで、なかでも「ハガレン」や「闇金ウシジマくん」をこよなく愛しているらしい。


「PCゲームを作りたいって?」


「ああ、そうなんだよ」


 橘は顎に手をやって、「それ、今やることか?」と眉間に皺を寄せた。


「どういうことだよ」


「俺らが今やるべきことって、生産性のオタクとしてゲームを作るんじゃなくて、受験勉強だろ。そりゃあ俺だってお前が作ったゲームやりてえよ。でも今じゃない。大学時代や、そしてお前がビジュアルアーツに入社した時だって嫌になるほどゲームを作れるだろ。だからまずはさ――」


「そうだよな。受験も大切だ。でもいまはゲームを作りたい。理由はちゃんとあるんだ」

 それを伝えると、橘は何やら複雑な表情を見せたが、

「だったらもう止めはしない。出来上がったら俺に遊ばせてくれ」

 彼は笑ってくれた。


「ありがとう。でも、ちょっと障壁があってな」


「なんだよ」


 橘は小首を傾げた。


「シナリオライターと絵師がいないんだ」

 腕を組んで橘が唸った。「それはまずいな。あ、そう言えばこの学校に小説家がいるっていう噂があったな・・・・・・」


 俺は食い気味に彼に問いかけた。

「まじかよ。どこのクラスだ!?」

「まあ落ち着けって。・・・・・・あっ、思い出したわ。でもそいつやめとけ」

「何でだよ」


「そいつ、痴女だから」


 ・・・・・・は?


 ◇


 夕方、図書室に訪れる。

 すると空間にひとりの女子生徒がいた。万年筆で原稿用紙にカリカリと何かを書いている。俺はその子に近づいた。


「君が秋月あきつき菜穂なほさん?」


 女子生徒は切れ長の目でこちらを窺ってくる。その際にロングの黒髪が揺れる。彼女はアイドルかモデルをやっていると言われても、信じてしまうほどの美貌だった。


「だれ?」

「俺は竹達。ちょっと君にお願いがあって来たんだ」

「なに?」

「俺と、ゲームを一緒に作ってくれないか? 君が小説家なのは聞いた。だから頼む!」


 頭を下げて俺はお願いした。すると秋月は嘆息を吐く。


「いいけど、ひとつだけ条件がある」

「なんだよ」

「私の犬になりなさい――」


 ニヤリと意地悪な微笑みを、秋月は見せた。

 

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