『知らないの?身バレは加速する』


は、はろはろ〜。普通の少女で、ノマちゃんです。


……何やってんだろ私。美少女兄貴の癖が移って来てるじゃん。きっとさっきまで兄貴と電話してたせいだ。まぁ、あんな闇堕ち寸前みたいな声で電話を掛けられたら誰だったら出ると思う。


他は知らないけど、私は出てしまった。頼られるのは何げに嬉しかったからかもしれない。その時に何か不思議な気持ちになったのは見なかったふりをする。






『兄貴はさ、配信辞めたいの?』


配信が嫌になった見たいだけど、それにしては急だなと思ったので聞いてみた。何があったか聞きたいけど、どうせ嫌な事があったに決まってるし聞いて兄貴が嫌な思いするだろうからそこは敢えて聞かない。


「うーん、分からん」


『分からんって……。そこは大事でしょ。辞めたいのか、それともその気持ちに嘘付いてでもお金の為にやるのか。でも、それって結局変わらないよね』


「変わらない?」


『そう。会社の歯車の一員として、命が尽きるまで御社の為にと薄っぺらい笑顔でペコペコ頭を下げて誠意を尽くす会社員前の兄貴と』


だって、それは本気でそう思ってるのか?って話だし。


「そうしないと社会は生きていけないからだろ。自分の好きな事だけをして生きていけたら、どれだけ良い事やら」


深いため息。まるで、私がワガママを言ってるみたいだ。昔の自分を思い出す。小さい頃ワガママを言う私に対して、仕方無く私に従ってくれたっけ。


『じゃあ配信と前の仕事。どっちが好き?選ぶとしたらどっちがやりたい?』


「……まだ配信かな。どっちかって言ったら。一番は何もしたく無いけど」


『じゃあ、少なくとも"美少女兄貴"としての自分がサラリーマンの自分よりは好きなんでしょ?』


そもそも美少女兄貴って何だよ。私から言ったとは言え変なの。いや、変なのは突然美少女になった兄貴か。


「まあ、そう言う事にはなるな」


『じゃあ自分の好きを優先しなよ。私もそっちの方が好きだし、最悪お金なら何とかするし。ってお父さんが言ってたよ』


「お、おう。ありがとう。……ん?待って?親父が言ってた?ま、まさか配信の事話したのか?」


『うん、言った』


「ああああああ終わりだ。終わったぁ!!!!」


『うるさっ。何?』


「もう、俺やっぱ配信出来ないわ。実の親に見られながらあのキャラやるのキチいよ……親の前で「はろはろ〜美少女ちゃんだよ〜」なんて出来るか!」


『あ……あぁ、それはドンマイと言うしか。だって、しょうがないじゃん!兄貴が実家に帰らず、お金だけ振り込むせいで「アイツの所行くんだったら写真撮ってこい」って言われて。それでこの間の写真見せたけど、駄目だったから個人情報がバレてる兄貴って分かる配信を見せるしか無かったんだもん』


「だもんじゃない。どいつもこいつもプライバシー踏み荒らしやがって!」


『元は兄貴が悪い!』


「確かに帰らなかったのは俺が全部悪い!本当にごめん!!でも、どうにかならなかった?」


『じゃあ何か方法あった?』


「それを言われるとな……」


でしょ?まぁ、確かに相談すべきだったとは思うけど昨日の今日だったし。それに兄貴は、基本電話出ないんだよね。


「まぁ、バレたのは親父だけか?だけだよな」


願う様な兄貴の声。今度は確実に何かが捩れる様な音がした。そして、私は知らないフリを続けた。


『事後報告でごめん。お母さんにもバレてる』


「あーあ。あああああああああああ」


『お母さんはそれを知ってすぐ、「ウチの子供はVt◾️berなのよ!」って自慢しに行っちゃってさ。珍しくお父さんがキレてた。あれはY◾️uT◾️berだって』


「……もう実家行けねえじゃん」


『ごめんね』


「なぁ、妹」


打って変わって真剣そうな声色に、私は少し緊張しながら返事を返した。


『何?』


「お前も配信者に『ならない』だよなー」


なるわけ無いじゃん。たまに兄貴の動画に出る程度で十分。たまにコメ欄で騒がれたり、最近出てないって言われて思い出される程度で充分。元々目立つのもそんな好きじゃないし、それで良い。


『まぁ、でももし本当に辞めたくなったら言ってよ。どうにかするから』


そう言って電話を切った。これはお父さん達だけでは無く、私も含めてそう思っている。

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