第13話 友達の友達女子に気に入られた話
「ギガセン?」
「ああ。駅前の施設だ。シフトもわりかし自由だし、終わったらそこでそのまま遊べるぜ! 女子とか誘って割引で楽しめるぞ。同じ年の奴も多いから栗城も行きやすいはずだ! 行けるだろ?」
「今日の放課後って、結構急な話だな」
「そこはしょうがない」
五月の連休からアルバイトをする――そんな話を安原としていたが、話はとんとん拍子に進みバイト先は今日の放課後にでも面接したいという。
五月まではまだまだ余裕があるとはいえ、バイト先によれば連休中にいきなり入るよりも今から慣らしてもらう方がいいという判断らしい。
「そういうことなら行くけど。安原はもうシフト入ってんだろ?」
「まあな。バイト仲間に可愛い子多いし、すでに楽しいからな」
「お前ってそういう奴か」
席が決まった時から女子ばかり見る奴だと思っていたが、かなり軽い奴だった。
「そりゃあな。そういう楽しみがないと……だろ?」
……という話を休み時間に使いまくり、気づけば昼休み時間。
「えー?
今日も笹倉姉は学校を休んだ。昨日の時点で本人から聞かされたので分かっているが。
それはそうと、妹の青夏と付き合いを始めたという噂はクラスの一部女子の間で話題になった。その関係で、俺と青夏は堂々と一緒に学食に来ている。
姉が登校してきたらその時はどうするかを考えるらしく、今は周りにあえて見せつけるようにしてご飯を食べている。
「今日は面接に行くだけで始まるのは来月の連休だね。けど、多分今月末からかな」
「アルバイト先って女子が沢山いる?」
「それはまだ何とも……」
仮なのか本気なのか分からない交際なのに、そこが気になるのか。
「ふーん……。もしかしてだけど、彼女探しでバイトするの?」
「ぶふっ!?」
思わず水を噴き出しそうだった。
……っていうか、やましい気持ちはないはずなのに。
「何でそこで焦るの? 図星だったりして?」
「え、いや、青ちゃんと俺、付き合いだしたよね? それなのに、彼女探しでバイトとかただのろくでなしだと思うんだけど……」
「うん。冗談だよね。幸多くんは嘘がつけない子だし、分かってるよ?」
完全に年下扱いされてるんだよな。
「……それに、幸多くんはお姉ちゃんが好きだから他の女子とかに興味ないと思うんだよね」
「俺、何も言ってないよね?」
「うん。でも、分かるし!」
笹倉の妹である青夏から、俺が姉のことを好きだという疑問をぶつけられた。その答えを俺が言うことはなかったが、青夏はその答えに自信を持っている。
しかも、好きだと確信しながら今は何故か俺と付き合いを始めた。何らかの狙いがあるのは確かだが、俺の立場は非常に弱く、クラスの女子の問題もあって何も言えるわけもない状態だ。
まぁ、今のところ恋愛的要素が皆無だから深く考えないようにしてるけど。
「それはそうと、青ちゃんはライネとかしてるの?」
「ライネは~……クラスの子とたまに。あんまり使わないかなぁ」
「そ、そうなんだ」
学校で会う以外に青夏とやり取りするとなると、ライネが一番いいはず。姉のことも訊きやすいし、誰かにばれることなく動けそうだしな。
「んー? 何でそんなこと訊く……ははぁ、幸多くんは不安なんだね?」
「え?」
「ちゃんと付き合ってるって実感がないからだよね?」
「まぁ……うん」
正直言ってそれもある。何せ笹倉姉を気にしてる自分がいるわけだし。
「そっか。じゃあ、はい!」
そう言うと青夏は俺にスマートフォンの画面を見せてきた。
「えーと、これで登録完了……と」
すぐに読み取り、名前が出てきたのを確認して画面を閉じた。
「じゃあ今夜にでも報告聞かせてもらうね!」
青夏はバイト面接後の連絡を入れろという言葉を俺に残し、昼休みはそこで終わった。
――そして放課後。
「……ってことなんで、オレの友達の――ほれ、自分で紹介してくれ」
安原に連れられ、駅前のギガセンにやってきた。面接と訊いていたのに、俺の前に姿を見せたのは同い年にしか見えない女子が一人だけ現れただけだった。
「あ、えーと、俺は栗城幸多です。基本は土日で、連休中はいつでもいけます」
安原と違って平日に入るつもりはない。これには笹倉グループとの兼ね合いがあるからだ。
「ふ~ん? そっかそっか。栗城君ね。カラオケとボーリング、どっちがいい?」
「えっと……仕事ですよね?」
「それしかなくない? で、どっちやりたい?」
そりゃあそうだ。
ギガセンはかなり大きめの施設。六階建てのビルになっていて、地下はボーリング、二階以上にカラオケとかが入っている。
安原によると、本人の希望があれば実際に入る仕事が決まるのだとか。長期でやる場合は全てやることになるらしい。
「そうですね、俺はボー……」
「じゃあ、栗城君はウチと同じカラオケで決まり! 安原ぁ! いいよな、それで」
「いいんじゃね?」
有無を言わさずに決められてしまった。
「んじゃ、栗城君。来週末からウチと一緒ってことでよろー!」
「あ、はい」
決定事項だけ言われてあっさりバイトが決まり、速攻でその場は解散になった。安原も今日はシフトに入ってないようで、途中まで一緒に帰ることに。
「……あの人、同い年に見えたけど本当は?」
「一応同じだ。名前教えるの忘れたけど、あの人は永井って人だ。一応、オレの友達だ」
「永井? どこかで聞いたことがあるようなないような……」
友達の友達女子か。
「それはともかく、良かったな! オレの友達に気に入られたぞ! シフトとか楽に出来るから、その時にでも話そうぜ!」
そう言いながら安原と別れた。
駅前から少し歩けば文世ロードに行けるので、軽く何か買って帰ることにする。いつもの適当な買い物を均一ストアで済ませて家に向かおうとすると、見知った二人が俺に駆け寄ってきた。
「栗城くん、お買い物?」
「幸多くんだ~! 終わったの?」
まさかの笹倉姉妹とは。
学校を休んですっかり回復したのか、笹倉姉による笑顔の破壊力が戻っている。青夏は姉に負けず劣らずな笑顔を俺に向けているが。
「夕食をちょっとね」
「そうなんだ」
「無事に終わったよ、青ちゃん」
「やったじゃん! 後で遊びに行っていい?」
姉と妹でそれぞれ別の会話になっているな。
「栗城くんとせいちゃん……何のお話?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます