ミライヘノツバサ
秋乃晃
PULL THE TRIGGER
フォワードの座長を一年間やり遂げて、朝ドラに出演したり、マンガ原作の実写版映画の主演をしたりして、順調にキャリアを積み上げていたのに、とある作品のオーディションに向かうために乗った飛行機が墜落した。飛行機に乗る前、空港でアイツが送ったメッセージが最後。次にアイツを見たのは、その事故のニュースだった。
魁は望月勝利を演じていたけれども、魁は演じていただけであって、望月勝利ではない。望月勝利なら、生還していたかもしれない。
遺体は発見されていないが、だからといって生きて帰ってくるわけでもない。太平洋のどこかにはいる。見つけても、蘇りはしない。
主人公を演じていた役者が亡くなって、あの『仮面バトラーフォワード』の十周年記念企画は立ち消えになった。俺もファンと同じぐらい楽しみにしていたが、望月勝利のいないフォワードは考えられない。ジャガイモがないのにコロッケを作ろうとしているようなものだ。
と、思っていたところに、一本の電話がかかってくる。当時は助監督だった男。十年経った今は、現在放映中のシリーズでメイン監督だ。順調に出世している。
「……フォワード、やるんですか?」
『やるから、近衛っちに連絡したのさ。勝風といえば、もう一人の主人公ポジションじゃない』
「魁がいないのなら、俺、やりたくないです」
『そう言うと思ったよ』
わかっているのなら、電話しないでほしい。魁の葬式には、この人も来ていたじゃないか。
『いたんだよ。サキガケが』
何を言っているのかわからない。
まあ、世界にはそっくりの人間がいるというし、そっくりさんを連れてきた――という線は、あるか。
『詳しい話をしたいから、撮影所まで来てくれないか。サキガケも同席させる。いつがいい?』
「わかりました。すぐに行きます」
『すぐ? ……ああ、わかった。控え室をおさえておくよ』
電話を切った俺は、先に入っていた午後の予定をキャンセルする。
魁を騙るニセモノとの対面のほうが優先だ。
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