Paris 銃撃
公園の次は目撃者とされる男のアパートへ向かうこととなった。
「なんか感じることあった?」助手席の愛子が振り返り後部座席の佐倉に問いかける。
「俺は超能力者じゃないんだ。そんなこと言われても具体的に答えることは出来ないよ」
「あら?探偵としての直感みたいなのは働かなかったの?」運転席の吉村が口を挟む。
「探偵ではありません。看板出しているわけではないので」
「似たようなものじゃない。あんたうちの店の送迎とお客さんからの依頼のおかげでご飯食べれているんじゃないの」
出た。確かに愛子には感謝しかない。しかしこの明らかな恩着せがましさが逆に佐倉の自由を奪っているのも事実だ。
「弟くんはお姉さんに頭が上がらないんだー」吉村が佐倉の心を読んだかのように口にする。
「当たり前じゃない。この子は私が見捨てたら生きていけないもの」
俺は奴隷か…。それにこの歳になっても「この子」扱いされるのは不快で仕方ない。
「あ、愛子、着いたわよ」
吉村は車を脇道に停車させた。目の前には大きなショッピングセンターが建っている。
「ありがとう寧々。じゃあゆうちゃん、ちゃんと寧々の言うこと聞くのよ」
「おいおい、どこに行くんだよ」
「ショッピングって言ったじゃない。くれぐれも寧々の邪魔だけはしないように。じゃあ後でね」助手席のドアを閉め、愛子は軽やかに歩いていった。
「良かったわね。強くて綺麗なお姉さんがいて。海外で堂々と一人で歩ける日本人女性なんてそんないないわよ」
「じゃあ、何も心配せずに放っておいて次に行きましょう」
佐倉は吉村に運転を急かした。
吉村に連れて来られたのは築何十年も経過していそうなボロアパートだった。
「ここはさっきの公園と違って私は以前に来たことがあるの。その時の家宅捜索で部屋の中からコカの葉が見つかったの」
「コカの葉ね…」
吉村の後ろに続き階段を登る。
「もう警察はここにはいないんですか?」
「そうね。基本的には家宅捜索の時に家の中の目ぼしいものは持ち出しているわ」
「じゃあ何の為にこっちに来たんですか?」
「あれ?君の希望じゃなかったの?」
「ちっ。そういうことか」愛子の仕業だ。やる気を無くした自分を刺激させる為に、わざと事件現場や目撃者の家を訪れるように吉村に頼んでいたのか。正直、佐倉が感傷的な気持ちになることはなかった。
佐倉に説教しながらも結局は愛子が吉村に迷惑をかけているのではないか。
「ま、いいわ。とりあえず入ってみましょうか」
吉村がドアノブに手をかけたその瞬間だった。
バン!バン!バン!
背後から衝撃的な音が飛んで来た。見ると部屋の扉に穴が開いており、そこから火薬の香りがする。狙われた。
「伏せて!」
吉村が佐倉の頭を手で押さえる。
「狙われてる!」
バン!バン!バン!
先ほどと同じリズムでまた銃弾の雨が容赦なく飛んでくる。
カン!カン!カン!
それと同じく階段の鉄の手すりがリズムよく弾を跳ね返す。
吉村と佐倉は手すりの陰にやっとの思いで隠れた。そっと確認すると向かいのビルの屋上に人影が見える。
「おいおい、この国じゃ日本人はみんな拳銃で歓迎されるのかよ!」
「そんなわけないでしょう!」
「刑事だろ!応戦しろよ!」銃弾を浴びながら、佐倉も吉村に言葉を浴びせる。
「休暇中!持っていないのよ!」
銃弾の雨が止まらない。まさしく絶対絶命のピンチだ。
パン!パン!パン!
その時、これまでと明らかに違う別の銃声の音が聞こえた。吉村がその音に反応して手すりの壁から顔を出す。
「馬鹿!伏せろって!」
「マルセル警部!」
吉村の表情が一瞬で明るくなる。
「同僚よ!助けに来てくれたわ!」
「同僚?」
見ると大柄な男が、地上から向かいのマンションの屋上に向かって拳銃を発砲している。
「(ヨシムラ!今のうちに降りてこい!)」何かを男に言われた吉村が佐倉の手を引っ張る。
「急いで降りるのよ!」
銃撃戦の攻防を耳にしながら佐倉と吉村は身をひそめながら階段を駆け下りた。
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