Paris 不屈
「マルセル」会議を終えた部屋の外でメグレ警視はマルセルを呼び止めた。
「残念だがそういうことだ。君も通常の業務に戻ってくれ」
「特別捜査チームの編成要員は決定しているのですか」
「あぁ。もう決まっている。私はそこに入る」
「メグレ警視、お言葉ですがヨシムラは必ず戦力になります。事件解決の為には彼女も捜査チームに加えるべきです」
「マルセル警部、この決定は彼女の所属するインターポールも共有している決定事項だ。それに忘れてはならないのは彼女は研修生。単独での捜査権も無いよ」
メグレはマルセルの肩をポンと叩き「君もあまり頑張りすぎるな。クリスマスまでに片付けられる業務は片付けて娘夫婦とゆっくり過ごすといい」と言葉を残し去っていった。
反対側の廊下の向こうではヨシムラが数名の捜査員に囲まれている。近づいてみると同情の声がヨシムラに浴びせられていた。
「ヨシムラ、残念だが上の決定だ。仕方ないよ」
そんな声がヨシムラを包む。マルセルに気づいたヨシムラは元気のない笑顔で同僚たちに「ありがとう」と答えると、マルセルに「ちょっと」と促し廊下の隅へ誘った。
「マルセル警部、先程の件ですが」
「あぁ。理不尽な決定だ」
「いえ、違います。ナスリの件です」
「何?」
「やはりナスリは自殺することを覚悟していた。計画的だったかどうかまではわかりませんが、その線が濃厚だと思います」
「何が言いたい?」
「ナスリは自分がキリタニを殺していないにも関わらず、遺体をわざわざ運んだ。そして自殺した。そこがずっと引っかかっているんです。ナスリにとって、そんなことをしても何の得もありません。つまり…」
「つまり?」
「ナスリの行動には何か意味があると思うんです。何というか、メッセージのようなものが」
「メッセージか。パリレ・ブルーに遺体を運ぶことがか?」
「いえ、それ自体は意味はないと思います。ああいった行動を取ることによってナスリは警察が自分の身辺を調べることを計算に入れた。その目的は家宅捜索」
「家宅捜索か」
「はい。そして見つかったのがコカの葉です。彼は我々にコカの葉を見つけて欲しかったのではないでしょうか」
「何の為に?」
「もちろん真相究明の為です。つまりキリタニを運んだのは彼の望んだ行動ではなかった。仕方なく、ああいう行動を取るしかなかった」
なるほど。もしかするとヨシムラの推測は外れているのかもしれない。しかし事件解決の為に視点を変えてみるのも手だ。だが…。
「しかしヨシムラ。もう捜査は…」
「続けますよ」
「続ける?」
「はい。当然です。納得できないので」
「君は強い女だな」
マルセルはヨシムラの頑固さ、いや意志の強さに思わず笑った。
「けれど君はもうリヨンに戻らなければいけない。先程のメグレ警視の話ではインターポールにも共有されていると言っていた。捜査権ももう無いだろう」
「ふふ。有給取ります」ヨシムラの返答は、どこかマルセルの期待通りのものだった。
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