　公園内にある池が通報のあった事件現場だった。

　楕円形の形をしているその池は、建築された複数の柱の上部が連結され列をなして並んでいる、いわゆるコロネードに囲まれており一建造物としての歴史と芸術を感じさせる。

　だがこの日は違った。そのコロネードの柱の一つに、腰あたりの高さでロープを三重に巻かれ、磔のような形にされた人間の死体が発見されたという。

　公園内に入ると、立ち入り禁止を意味する幾多の黄色いビニールテープが既にあちらこちらに張り巡らされていた。すれ違う数人の警官と挨拶を交わしながらモーリスとマルセルは池に向かって歩く。やがて多くの制服警官が密集しているのが確認出来た。

「やぁ、ご苦労様」

　こちらの存在に気づき、前方から声をかけて来たのはマルセルの上司でありモーリスと同地位にあたるメグレ警視だった。

「かなり酷いです」

　言いながらメグレは顎で、柱にくくり付けられている遺体を指した。

　遺体は顔の左半分が皮膚ごと抉られ、その傷口からは薄ら白い骨が見える。

「確かに酷いですね」言いながらマルセルは横にいるモーリスに目をやった。その表情はひどく驚いた顔をしている。

「どうしました？お知り合いですか？」

「…いや、あまりにも残酷すぎて驚いているだけだよ。メグレ警視、鑑識の結果は出ていますか？」モーリスがメグレに尋ねる。

「あぁ。ちょっと待ってください」

そう言うとメグレは「おーい」と鑑識の人間を大声で呼んだ。身長180センチ、体重100キロの巨漢から発せられる声は、太く迫力がある。

　周りが木々に囲まれていることもあってか、はたまた深夜の公園だからか、メグレの大声はいつも以上に響き渡っている気がした。

　モーリスと階級こそ同地位であるが、メグレはモーリスより歳は下だ。そんなメグレのことを出世志向の強いモーリスのほうは常にライバル視しているようにマルセルには見えた。

　やがて鑑識分析官がやってきて鑑識結果の説明がなされた。分析によると死因は顔の損傷ではなく射殺で、至近距離から心臓一発の即死。殺した後で柱に遺体をくくりつけ、顔の皮膚を抉っているだろうとのことだった。

　加えて遺留品の中の財布からはジャポン〈日本〉通貨の金と身分証もあったことがメグレの口から報告された。

「凶器や抉られた皮膚は？」

　マルセルがメグレに顔を向ける。

「いや、どちらも見つかっていない」

「目撃者はどちらですか」

「今はあそこのパトカーの中にいる。遺体発見時のショックが大きくてずっと震えている。パリ第3芸術大学の生徒で公園をランニング中に遺体を見つけたようだ」

「警視庁には？」

「あぁ、これから一度来てもらって再度取り調べを行う。その後、問題なければ家に帰そうと思う」

　そこでモーリスが会話に入ってきた。

「もし良ければ私に取り調べをやらせていただけませんか」

「モーリスさんが？…ええ、もちろん構いません」

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