第3話 スライムさんのこと

 シーアはスライムを連れて孤児院に帰る。院長先生にこのスライムの事を相談しなければと思っていた。

 スライムは上機嫌で猪の魔物を運んでいる。ぷぴぃぷぴぃとまるで歌っているようだ。

「そうだ、名前を付けないと」

 シーアはスライムをじっと見つめる。スライムは期待に満ちた目でこちらを見返した。

「うーん、ハニュ。ハニュはどう?」

 シーアが名前を付けると、ハニュは飛び跳ねて喜んだ。ずいぶんと感情豊かなスライムだなとシーアは思う。

 

 ハニュを連れて孤児院に戻ると、院長代理のアンナさんにたくさんのお肉を喜ばれた。

 ハニュに関してはお友達ができたの?とその程度だった。アンナさんは少し天然なところがある。

 お肉をアンナさんに任せるとシーアは急いで院長先生の所へ行く。

「院長先生。シーアです」

「あら、シーア。どうしたの?」

 シーアは院長先生にハニュの事を説明した。不思議なスライムを従魔にしてしまったと。

「それは……シーア、ハニュの能力に関しては誰にも話してはいけないよ。そんなスライム聞いたこともない。従魔になるスライムも珍しいのに、そんなレア個体だと知られたら悪人に狙われるわ」

 ハニュから恐怖に震える気配を感じた。従魔契約してからハニュの感情が伝わってくるようになって、もうシーアはハニュの事を普通のスライムだとは思えなくなっていた。

 シーアはハニュを膝の上に乗せて撫でる。

「ハニュ、外では普通のスライムのふりしてね。できる?」

 ハニュが高速でプルプル震える。頑張ると言っているようだ。

「本当に言葉がわかっているようだね……昔スライムを従魔にする方法を研究をしていたけど上手くいかなかったという話を聞いたことがあるよ。スライムは魔力が潤沢だからね。魔法使いなら魔力タンクとしてみんな従魔にしたがる」

「知能が低いから従魔契約を理解できないんでしたっけ?稀にしか成功することがないって習いました」

 ハニュを見ているとそんな感じは全くしないが、一般的なスライムはそうらしい。シーアはむしろハニュの方から従魔になりに来たように感じていたので驚いたのだ。

 

 話をしていると、院長先生が咳き込んだ。肺を悪くしているため、時折発作の様に咳が止まらなくなるのだ。シーアは院長先生の背中を擦る。

 するとハニュが治癒魔法を使った。院長先生の咳がみるみる収まり、蒼白だった顔色も元に戻ってゆく。

「驚いたよ、ハニュは治癒魔法も使えるのかい?楽になったよ、ありがとう」

 院長先生がハニュを撫でる。ハニュは胸を反らして得意そうだ。

「……ハニュ、それあとで教えて!」

 シーアは院長先生が寝たきりになってから、自分の不甲斐なさを痛感していた。治癒魔法がちゃんと使えれば、院長先生は苦しまなくて済むのにと。

 ハニュを従魔にしてから、シーアは自分の中に魔力があふれるのを感じていた。ハニュの魔力が常時シーアに供給されている感覚だ。今なら治癒魔法も使えるだろう。

 ハニュは心得たというように頷く。

「明日からハニュの魔力を有効に使う方法を勉強した方がいいね。ハニュは人目のある所では魔法を使えないだろう?」

 院長先生の言葉にシーアは頷く。

「ハニュ。明日から特訓に付き合ってくれる?」

 ハニュは任せてと言うようにプルプル震えた。

 

 院長先生の部屋を後にすると、二十人ほどいる孤児院の仲間達と夕食だ。今日ハニュが狩った猪が食卓に並んでいる。

 子供達はみんなハニュに興味津々だった。

「お姉ちゃん、そのスライム飼うの?大丈夫?」

 ハニュは普通のスライムのふりをしているのか大人しかった。シーアが従魔にしたのだと説明するとみんな不思議そうにしていた。従魔が何かよくわかっていないのだろう。しかし安全なのはわかったらしく、ハニュに触れてはその感触に驚いていた。


 ハニュが食卓の料理を物欲しそうに眺めていたので取り分けてやると、感激したように食べ始める。シーアに、喜びと悲しみが入り混じったような複雑な感情が伝わって来て不思議に思う。

 スライムは雑食だから何をあげてもいいはずなのだが、シーアはこれからもちゃんとした料理をあげようと思った。

 ハニュを普通のスライムと同じに扱うのは何か違う気がしていた。伝わってくる感情から考えて、恐らくハニュは人間並みに賢いのではないかと、シーアは思っている。

 従魔と言うより友達ができた気分だ。シーアは美味しそうに料理を頬張るハニュを見て、これからの生活が楽しみになった。

 

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