第31話:一旦休み
少しスキルの中で休んでから、六人の役割と実力を確認していく。
まず現役探索者の三人の中で一番分かりやすいのは鷺谷である。
純粋に丈夫かつ力強い戦士らしい戦士。
スキルは『纏っている物を操る』というものらしく、分かりやすく強力な前衛と考えていいだろう。
欠点としてはコミュニケーションが不得手で、常にスキルで鎧を動かしているため長時間稼働し続けるとバテること。
探索者としてのランクはB級……通常の探索者が辿り着ける最上位である。
次に黒路千代。
高速、高精度、無音、強力な毒を持った大量の蜂に変身するスキル。
マトモな生物系モンスターには滅法強く、攻撃役として非常に強い……が、欠点としてどくの効きにくいモンスターには無力に近い点だ。
スライムとサイクロプスならサイクロプスの方が弱いとは彼女の弁である。
探索者としてはC級。ふつうのベテランの探索者程度の実力者。
だが、そもそもランクを分けている探索者組合が出来る以前が主に活動していた時期らしく、現代のランクが正確に実力を反映できているかは微妙である。
そして最後にコウモリだが……。
スキルは超音波感知。名乗っているコウモリと同じような形で真っ暗な中でも周りを見ることが出来るとか。
欠点としては戦闘能力が極めて低い……というか、素人同然なことである。
明らかにこの場にそぐわないぐらい弱い。
だが……冒険者のランクはA級。非常に優れた探索者が功績を残したときのみ認められる特殊なランクである。
それを認められたのは日本では三十人程度しかいないらしく……名前だけで言えば、この中でも圧倒的な大物である。
……戦闘力は全くないが。
「……A級って、コウモリがか。一瞬で負けてたのに。虚言じゃないのか……? 本名でもないんだろ」
「はっ倒すぞ」
「んー、一応ではあるが本当じゃぞ。索敵に加えて地図の作成や鍵開け、物資の調整に作戦立案、そして確定申告やアベックに人気のイタ飯の下調べ、探索に必要な技能をあらかた高水準で持っている」
「最後はいらなくない?」
まぁつまりはハイスペックな便利屋というところか。
「『全ての探索者は俺が通った後の道を歩く』というのが彼の格言での」
「やめろババア。人が若かったころのイキリ発言をバラすな」
「ふふ、たった十年前ではないか」
黒路の笑う声を聞いていると、コウモリがびしっと俺を指差す。
「あのな、スキルってのは精神が影響しているんだ。俺のスキルは索敵向きで、一番前を歩くのが適している。それは誰も足を踏み入れたことのない場所に、誰よりも前でその地面を踏むことが最高にカッコいいと思ってるからだ」
コウモリはふんと鼻を鳴らしながら続ける。
「戦って倒すのは俺の仕事じゃない。俺の仕事は誰も踏んだことのない地面を踏んづけることだ。だから、あんなんで勝ったと思うなよ」
「……ああ、それでコウモリはA級とかいう化け物探索者なのに、これに志願してきたのか。新しいダンジョンだからか」
……なんというか、案外分かりやすいやつだなと少し笑ってしまう。
「悪いな、俺が先にいくらか地面を踏んじゃったけど」
「これからは俺の後ろを歩け。分かったな」
これから……ね。つまりは今回のパーティメンバーとして認められたということでいいのだろう。
「大人気ないのお、坊」
「うるせー、全く……。……藤堂って言ったな」
「俺か、ああ、そうだけど」
「可愛げのねえガキだ……。あのな、お前のスキルは戦闘向きじゃない。俺と同じでサポートだろ、簡単なことなら教えてやる」
「簡単なこと?」
「マッピングとか鍵開けとか、スキルがなくてもこなせる技能があるだろ」
……俺のことが気に入らないのではないのか? と、思っていると、黒路がニヤニヤ笑いながら俺に言う。
「負けず嫌いなんじゃよ。自分が勝てるところで勝負をしたいだけ。気にせず習うとよい」
「ああ、なるほど」
それから少し休んでから地上に戻り、本日は解散となる。
明日のことだけ話してさっさと帰っていくコウモリと鷺谷を見送ったあと、何故か残った黒路と目が合う。
「どうかしましたか?」
「ふむ、この姿だと宿は取れなくての。そなたのスキルを貸してくれぬかと」
「あー、いや、俺のスキル、俺以外は扉を出したり出来ないので閉じ込められてしまうし、外と中で連絡も取れないので……」
会長の方を向くと会長はコクリと頷く。
「僕の方で宿をお取りするよ。とは言っても……この近くにはあまりないから、少し遠くになってしまいそうだけど」
「学生寮とかは空いとらんのかの?」
「結構騒がしいのであまり休めないかと。それに空き部屋にベッドはないので……」
「構わんよ」
「いや、流石にそういうわけには……」
結構ワガママだなと思いながら、仕方なく提案する。
「……あー、じゃあ、俺の部屋に泊まりますか? 俺は自分のスキルで寝るので」
「いいのか?」
「まぁ、マジでなんもない部屋ですし。風呂は……あれ、そういや女湯って男湯の隣ってわけじゃないな。どこにあるんだろ」
「寮の最上階にありますよ」
「ああ、だいぶ離れたところにあるんですね」
そういや、川瀬先輩の部屋も高い階だし、女子が上の方で男子が下の方として固められているのだろう。
黒路を俺の部屋まで案内している途中、寮のエレベーターの前で川瀬先輩と会う。
「あ、藤堂くん」
「こんにちは、川瀬先輩は……買い物帰りですか?」
川瀬先輩の手には紙袋が握られていて、先輩はコクリと頷く。
「ヒナさんと行ってきた。羨ましい?」
「まぁ少し」
「そっちの子は?」
「黒路さんです。スキルの影響で幼く見えますけど、俺たちよりも年上の現役の探索者ですよ」
「ふむ、黒路千代じゃ。そちらは……アベックかのう?」
「あべ……。うん、そう」
「先輩、言葉の意味が分からないのに適当に頷かないでください」
不思議そうに首を傾げている先輩に言う。
「今日、宿がないから俺の部屋に泊まってもらうんですよ」
「藤堂くんは……どうするの?」
「俺は自分のスキルの中に泊まろうと。会長のおかげで快適ですし」
俺がそう言うと川瀬先輩がいいことを思いついたとばかりに俺の手を引く。
「前みたいに、泊まっていく?」
「えっ、あー、いや……」
「……ダメ?」
あまり表情は変わっていないもの声はすごく残念そうな様子で、俺の心臓が申し訳なさで締め上げられる。
「いや……ダメというわけじゃないんですけど、明日は朝からちょっと生徒会でダンジョンに潜るので、あんまり夜更かしは出来ないので」
黒路がニヤニヤと俺たちを見る。
絶対関係を勘違いしているな……。
「いいよ。寝てても」
川瀬先輩はやってきたエレベーターに入り「開」のボタンを押しながら俺達がエレベーターに乗るのを待つ。
「……本当にただ寝るだけなのであんまり意味はない気はしますけど、なら、はい」
川瀬先輩の手でエレベーターが閉じられる。
閉じられたエレベーターの中で先輩は楽しそうな笑みを浮かべる。
「ふふ、藤堂もやりおるの。ほれ、ババアがこづかいをやろう」
そう言ってから、黒路は俺の服を引いて屈ませると、こそりと耳打ちする。
「お泊まりするなら、学生のうちはちゃんとするんじゃぞ?」
「はっ倒すぞクソババア」
黒路を俺の部屋にぶち込んだあと、川瀬先輩の部屋に向かう。
とりあえず……川瀬先輩を夕飯に誘うか。
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