第29話:探索試験
「のうのう、藤堂とやら。卒業後の進路は決めておるか?」
「いや……まだ入学して一週間と少しですし」
「えっ、お前、入学して一週間でこんなに偉そうなの? バケモノ?」
俺はバケモノではない。
やはり俺のスキルは探索者受けがいいなと思っていると、案外黒路はスキルに興味があるわけではないらしく、面白そうに俺を見ていた。
「あー、黒路……さんは、探索者として長いんですか?」
「千代で構わんよ? そうじゃのう、長いと言えば長い。けども幸いにして命懸けで金銭を得る必要はなくての、面白そうな話に一枚かませてもらっているぐらいで」
「ああ、長くはあるが密度は低いみたいな」
「密度、ふむ、その表現は面白い。そうじゃの、そのような形と思ってくれればよい」
誰も何もしないまま近くにいたゴブリンが倒れて光の粒に変わっていく。
三人のうちの誰かのスキルだろうが……敵が音もなく突然死しているのはそれなりに怖いな。
「おい、俺たちがずっと仕留めてたら試験にならないだろ」
「小鬼で試験になるわけもなかろう。若い子と話をしたいのじゃ。老人の楽しみを奪わんでくれたも」
コウモリは「都合のいいときだけ老人になりやがって……」と言いながらも無理にやめさせるつもりはないらしい。
黒路と話しながら少し彼女のスキルを考察する。
分かるのは、一見何もせずにゴブリンを倒したことぐらいだ。
……もっと前のスライムやウィスプは高木先輩が倒していたのを見ると、ゴブリンのようなモンスターにしか効果が薄いのか?
考えられるのは……毒とかか? スライムもウィスプも効果が薄そうだし。
毒と仮定して、毒霧、毒針、毒液……。毒霧はないな、流石に説明なしに使うのは危険すぎる。
毒液もたぶん違う。毒針……は、一番ありそうだが、黒路の着物の袖は長く、指の先も見えていないぐらいだ。これで音もなく針を飛ばしたとは思えない。
……現時点で判別は不可能。
いや、違うな。
黒路はわざと俺たちに自分の力を見せている。それを考えると、今の段階でももう少し考察出来るのかもしれない。
「……着物、似合ってますね」
「ん、どうした。儂を口説いておるのか?」
くすりくすり、黒路が笑うと、少し離れたところにいた会長が戦慄した表情で「お、女癖が悪い……!」と呟くが、そういうのではない。
「あー、いや、そうではなく。探索には不向きではないかと思って。今度一緒に買いに行きません?」
「藤堂くん!?」
「ん、相引きのお誘いか。こんな若い子に口説かれるとなるとババアも照れてしまう。でも、これはお気に入りでの。かわいかろ?」
くるりと回って見せる黒路は、自分の幼い容姿がかわいいと理解していて気に入っているようだ。
「まぁ可愛いですけど……あ、後ろもう少し見せてもらっていいですか?」
「藤堂くん!?」
「な、なんじゃ。最近の若い子は積極的じゃのう……。あまり見られると儂も恥ずかしいとは思うのじゃぞ? これでも、心は乙女で……」
「……なぁ、会長さん。知り合いの婆さんが高校生に口説かれてるのを、俺はどんな気持ちで見ればいいんだ?」
「僕には分からない。何も分からないんだ」
という会話を聞きながら、ジッと黒路千代の後ろ姿を見る。
着物の端から覗く脚を見ても若いというか、幼い子供の肌をしているのが分かる。
そして、それからジッと着物に包まれた彼女の尻を見る。じいっと目を細めて観察する。
「の、のう……もういいかの?」
「藤堂……やめてくれ、意地悪を言った俺が悪かった。だから、やめてくれ」
「今、俺は真剣なんだ」
「やめろ。女児の婆さんの尻を真剣に見るな」
小さく薄いが、柔らかそうにぷりっとした形のよい臀部……それを見て、俺は確信と共に頷く。
「なるほど」
「何が!? 何がなるほどなの!? 藤堂くん」
「何を騒いでるんですか、みんなして」
「君がロリババアのお尻をガン見していたからだよ!!」
「……会長、ロリババアは失礼だと思いますよ」
「それはそうなんだけど……!」
会長の横を歩いていた高木先輩が俺を見る。
「……藤堂くん。よくないですよ。そういうのは」
「いや、スキルの考察をしていただけですよ……? おおかた、分かりました」
「へ? スキルの考察?」
「そりゃするでしょ、これから共に探索する相手で、模擬戦もするんですから」
俺がそう言うと、会長とコウモリは心底安心したような表情でホッと胸を撫で下ろす。
なんだと思ってたんだ……。俺が何の意味もなく、女児の尻をジッと見ていたと思っているのか。
「ふむ……ほとんどスキルは見せていないと思うが、なんじゃと思う?」
「あー「蜂」ですかね」
俺の言葉に黒路は目を開き「すごいすごい」と俺を褒める。
「おお、大正解。見せていないはずなのに何故分かったんじゃ?」
「スライムとウィスプはスルーで、ゴブリンだけ倒していたので毒とかそういうものかと」
「ほうほう。それで、毒の中で何故蜂じゃと?」
「着物をダンジョンで着る意味ですかね。基本、洋装の方が動きやすいですし。「気に入っている」という割には着物の中でも一人で着脱がしやすい形なので」
着物というか、ちゃんとした物ではなく作りとしてはバスローブに近しいように思える。
それに……たぶん、それ一枚しか着ていない。
自分の幼い容姿が気に入っているところを見ると、もしかしたら見せたがりな可能性もあるが、おそらくはスキルが理由だろう。
「おそらく……多数の小型の毒を持った生物へ分裂しながらの変身。となると、まぁ蜂かなぁと。見た目が幼いのは、スキルの応用か何かでなんとかしてるんですかね。分裂時に体のよくない部分を分裂体の一部に押し付けられるとかですかね」
俺の推測を聞いた黒路はパチパチと嬉しそうに拍手をする。
「おお、コウモリ、やっぱりこれは掘り出し物じゃぞ」
「そんなもん、俺にだって推理ぐらい出来るわ。わざと教えてただろ、色ボケババア」
「ふむ、じゃあ、コウモリのスキルは分かるか?」
「会長」
分からないのでとりあえずドヤ顔をしながら会長に目を向けると、彼は一瞬だけ困った表情をしてから頷く。
「あー、まぁ、感知系でしょうね。初心者ダンジョンの浅い階とは言えども異変中。現役の探索者がやられているのにヤケに余裕があるので。敵になるモンスターがいないと分かっているのかと。加えて、普通に振り返ったりしているところを見るに視覚強化ではないし、普通に話しているので聴覚でもない。第六感系かな」
「あー、それに体格的に前衛ではなさそうですし、後衛にしては前の方に陣取ってますしね」
会長の尻馬に乗ると、黒路はニヤニヤと笑ってコウモリを見る。
「どうじゃー?」
「ぐ、ぐぅ……。そ、それはそれとして、戦闘力だ、戦闘力! 探索がちゃんと出来るのもアホじゃねえのも分かったよ! さっさと始めるぞ!」
ええ……と、思ったが、おそらくその破れかぶれの様子は演技だろう。
これ以上、自分達の手の内がバレる前にやろうという算段……まぁ、いいか。
会長を見ると、会長は頷く。
「じゃあ、やろうか」
その言葉と共に、コウモリは腰に差していた短剣を鞘ごと手にとってこちらに向かってくる。
不意打ちっ! 大人げねえ!!
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