第20話:銃オタク
「藤堂くんは、どんな銃が好き?」
「あー、今まで触れたことがなかったので考えたことがないですね」
カタログや部屋に飾られている銃を見る。
詳しくないのでよく分からないが、やはり銃身が長いのは取り回しが悪そうだ。
「バババーってたくさん撃つ感じのと、パンパンって感じのハンドガンならどっちが好き?」
「ハンドガンの方がいいですね。いや、俺の場合スキルがあるので併用しても大丈夫かも。この部屋よりもだいぶ大きいですし、持ち運びに問題はないですし」
「……んー、あっ!」
先輩は少し考えてからスマホを操作し、何かを検索してパシパシと動画を指差す。
「ミニガン! オススメ! 毎秒100発撃てる!」
先輩のスマホを見ると、とんでもなくゴツイ銃火器が光を放ちながら建物をぶっ壊していた。
「……ど、どこがミニ……?」
「戦闘機のバルカン砲よりミニ」
「比較対象がおかしい。というか普通に買えるもんなんですか?」
「……メーカーに問い合わせれば、たぶん」
「値段は……?」
「2000万ぐらい」
……そんなに持ってたら、探索者なんてやらないよ。
というか毎秒100発って弾薬代で赤字になりそうだ。
……まぁ、それだけの威力があればあの【血吠え】も倒せそうではあるが。
「ミニガンは今は諦めるとして、アサルトライフルはいいかも。普通の探索者は弾薬切れを嫌がるけど、藤堂くんなら使える」
「まぁそれはそうですね。……あの拳銃が全然効かないぐらいの相手を倒せるようなやつってありますか?」
「んー、あるよ。銃の威力は火薬の量で決まって、その火薬に耐えられるぐらいごっついやつ」
なら単純にそれを使えば……。
探索者があまり銃を使わないのは、スキルが強いというのもあるが荷物が嵩張るからだ。
ダンジョンに深く潜れば潜るほどに収入が増えるが、その分だけ食料などを持ち込む必要があり、食料に加えて弾薬やらもとなるとかなり重くなる。
それに銃を撃つ頻度もかなり多いのですぐに使い切ってしまう。
その上、収入のためには魔石も拾う必要があり……という具合に銃を持つほどの余裕がない実情がある。
「……アリだな。強い銃で倒すのも。最悪、弾薬代の採算が取れなくともスキルの中においていくだけでも保険にはなる」
「それに、かっこいいしね、ゴツイ銃」
「まぁ、それもありますね。まぁ、普段使いするならやっぱり拳銃ですかね」
「持ち運びやすいしね」
「あ、持ち運びと言えば、先輩の言う通りホルスターはあった方がよかったですね。咄嗟に引き抜けるかどうかはかなり重要に感じました」
俺がそう言うと川瀬先輩は頷く。
「レッグホルスター、オススメ、抜きやすい」
「あー、先輩がふとももに巻いてたやつですか」
「ん、これ」
先輩は棚を開けて取り出す。
「先輩と違ってズボンだからなぁ。どうなんでしょうか」
「普通、ズボンの上からだよ。制服だからスカートの中にしてるだけで」
「ああ、なるほど……。ふともものベルトだけでちゃんと留まるものなんですか? それなりに銃って重いですけど」
「うん。でも主流は腰からも固定する。私はフル装備のときは腰にもガチャガチャ付けるから」
川瀬先輩は俺の目を気にせずに、パジャマにしているらしい体操服のハーフパンツの上からベルトを締めて、立ち上がって俺に見せる。
「ほら、結構ちゃんと固定されてるでしょ?」
先輩は脚を曲げたり伸ばしたりしたあと、俺にホルスターに触ってみるよう手でジェスチャーする。
直接身体に触れるわけでもないが、女の子の脚についているものに触れることに対して若干引け目を感じながら触ると、確かにかなり強く固定されていて簡単にズレることはなさそうだ。
「もっと強くしてもズレないよ」
「ああ、はい」
言われるがままにホルスターを掴んで下に下げようとして、川瀬先輩の若干だけドヤ顔に変わっている表情を見る。
たぶんお気に入りの装備なのだろう。
そう思いながら下に引っ張ったそのとき、ずずず、とズレていく感触がする。
先輩の顔は見る見る赤くなっていき、焦ったように俺へと手を伸ばす。
「ぁ……や、やぁ……」
いつもは肌に直接ベルトを巻いていたのに、今はハーフパンツ越しに巻いた。その違いのせいだろう。
ベルトはハーフパンツにはちゃんとついていたが……レッグホルスターのベルトに絞められているとはいえど、腰はゴムで固定されているだけの体操着。
「あ……あぅぅ……」
川瀬先輩は顔を真っ赤に染めて両手でジャージの裾を握って必死で下に引っ張る。
ずるずると、川瀬先輩の着ていたハーフパンツが俺の手によって引き下げられてしまっていた。
ホルスターのついていた片側だけだが、川瀬先輩の細い腰が露わになり、クールそうな顔立ちの割に少し子供っぽいピンク色の下着が覗いてしまっていた。
必死にジャージを引っ張って隠してはいるものの完全には隠れきれておらず……。
俺は川瀬先輩の焦りと羞恥が混じった表情に、慌てて手を離す。
「す、すみません」
「……へ、へいき」
とても平気ではなさそうな紅潮した顔色で先輩は言う。
ベッドから毛布を取って体を隠すように被って、モゾモゾと毛布の中で服を整えていく。
気まずさのなか、何を言えばいいか考えていると、先輩は気を取り直そうと「おほん」と咳ではなく声で言って、それから赤さの冷めない頬を俺に向ける。
「……い、いつもは肌に付けてるから、ズレないから。ズボンの上からでもズボンをベルトにしたら」
「あ、はい。覚えておきます」
「わ、忘れて」
「いや、先輩の下着の話ではなくて……」
というか、簡単に忘れられるような光景でもなかった。
顔を紅く染めている先輩と目が合い、すぐにお互い目を逸らす。
……話、何か話を……。と考えるも、元々別におしゃべりが得意というわけではないし、川瀬先輩も物静かな方なので会話が保たない。
ポケットに入れていたスマホを見る。もう夜中の3時だ。
寮と学校は近いとは言えど、そろそろ寝た方がいいだろう。というか、今から寝ても寝不足だろう。
「あー、そろそろ夜も遅いですし、俺も部屋に……」
と、言ったところで、ちょこんと先輩の手が俺の服を摘む。
「……もう、帰っちゃうの?」
まだ話し足りない……というような様子。
「お邪魔じゃないですか? 流石に……」
「ううん。あっ、そうだ。触ってみる?」
「先輩にですか!?」
「……銃にだよ」
微妙な空気が再び流れる。
「あ、あー、そうですね。詳しくはないですけど、銃はカッコいいので色々触ってみたいですね」
誤魔化すための言葉は、半分ほど先輩の機嫌を取るためのものだったが、もう半分は本音だ。
嬉しそうにバタバタと銃を取り出して俺に触らせて、説明をしていく。
本当に銃が好きらしく、銃の説明に関してだけは饒舌だ。
当然だが、結構色々あるものだなと感心しながら銃を触らせてもらい、そのあとは先輩の憧れの銃や欲しい銃などの話を聞かされているうちに……朝日がカーテンの向こうから差してきていた。
……夜中の間ずっとオタ話を聞かされていたのは……果たしてお泊まりと呼んでいいものなのかだろうか。
それにしても……眠い。
立ち上がろうとしたが、疲労のせいか上手く立たずにそのまま床に倒れ込む。授業まで、あと二時間は寝れるだろうか。
あまりの眠気に負けて、床に寝転がったまま目が閉じていく……。川瀬先輩も眠気の限界が来たのか、カタログを広げたまま脚を投げ出して眠っていた。
……ダンジョン明けの徹夜はダメだ。疲労に勝てない。
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