第4話:そして追放へ

 卒業すれば高卒資格を取得出来ると聞いていたので、普通の高校のカリキュラムに加えてダンジョンの探索もあるのだろうと思っていた。


 だが、実際に授業の予定を聞いてみるとまったくと言っていいほど通常の学校らしさがない。


 授業は基本午前中しかなく、その内容もほとんどダンジョンのことばかりなようだし、何よりも出席日数の概念がない。


 というのも、数日や数週間泊まり込みでダンジョンに潜ることもあるため、探索者学校として模範的な『迷宮探索に積極的な生徒』の方が出席日数が足りなくなりがちという問題があるため、いっそのこと単位は試験のみという形に落ち着いたそうだ。


 学校という体だが、正確に表現するなら『三年間全力でダンジョン探索をサポートしてくれる施設』という方が適切かもしれない。


 そういう説明を受けて自由時間……正確には先程までの授業も別に聞かなくてもいいそうなので常に自由時間ではあるが。


 隣の気弱そうな19番の生徒が深く落ち込んでいた。


「ど、どうしよ。ま、魔石の提出って……。もうみんなパーティ組み始めちゃってるし、そもそも僕みたいなやつと組んでくれる人なんていないし……。と、藤堂くん、佐伯くん」

「お前らと三人集まったらまたテクノブレイカーズって呼ばれそうで嫌……。それに今日は先約があるから、先輩に呼ばれてて」


 気弱そうな男子は俺の服の袖を掴む。


「僕らテクノブレイカーズの友情は不滅……そうだよね?」

「一瞬たりとも友情が芽生えた瞬間がないんだよなぁ」


 などと三人で話していると俺のスマホが鳴り、二人を押しのけて廊下に出てから電話にでる。


『やほやほー、ヒナ先輩だよー』

「ああ、どうも。こっちも授業終わったんで合流しますね。どこに行けばいいですか?」


 電話越しのヒナ先輩は自慢げに『ふふーん』と笑い、俺の耳にそれが二重に聞こえてくる。


「どーん!」


 俺の背中にヒナ先輩のタックルが入り、振り返ると彼女は楽しそうに笑いながら電話を切る。


「やっほー、可愛くて優しいヒナ先輩だよー」

「後ろからタックルはマジでやめてください……」


 まあでもわざわざ迎えに来てくれたのはありがたいなと考えていると、教室の扉からいつもの二人が俺の方を見る。


「と、藤堂くん。そ、その人は……」

「さっき言ったお世話になった先輩だよ」


 気弱そうな生徒は教室から飛び出して俺に掴みかかる。


「っ! び、美少女じゃんか!? えっ、こんな可愛い先輩にお世話になってるの!?」

「いや、まぁ、そうだけど」

「ふざけんなよ……!」

「ええ……マジギレしてる……」


 もう一人の男子生徒の佐伯も出てきて、俺の肩をポンと叩く。


「藤堂、お前はテクノブレイカーズから追放だ」

「永遠に不滅じゃなかったのかよ、友情。二分ぐらいで消えたぞ」


 いや、いいけども。いくらでも追放していいけども。


「え、えっと……ごめんね、トウリくん借りてくね?」

「くっ……先輩、藤堂の代わりに入りませんか? 俺たちテクノブレイカーズに」

「テクノ? パーティ組んでるの?」

「コイツらの妄言は気にしなくていいです」

「あ、うん」


 もう先輩を連れてさっさと行こうとすると、佐伯が俺無視してグイグイとヒナ先輩に言う。


「俺は佐伯宏です。先輩は……」

「あ、うん。山本です」


 あ、ヒナ先輩は山本って苗字なんだ。佐伯には名乗るんだな。


「山本先輩、名前まで可憐だ……」


 そうか……? 言うほど山本って可憐な印象受けるか……?


「えっと、これからダンジョン探索? 無理しないようにね」

「はい! ……よし、行くぞ、鷲尾!」

「えー、う、うん。じゃあまた……山本先輩。藤堂」


 テクノブレイカーズから追放されたからか呼び捨てになってる……。


 二人と別れて先輩の隣をついて歩くと、先輩は苦笑しながら俺に言う。


「えっと、楽しそうな友達だね」

「友達じゃないですよ。いや、本当に、まったく。それで、荷物持ちってどこに行くんですか?」

「うちのグループの買い出しだよ。昨日言ってた探索者の補助をしてる学校にまで」

「店じゃなくてですか?」

「あっちが練習で作った武器とか道具とか売ってもらってるの。安いし質もいいからオススメだよ」


 ……入学前に武器を色々買い込んじゃったんだよなぁ。

 俺のスキルならたくさん持ち込めるので無駄にはならないだろうと考えて。


 まぁこれから得できるぐらいに考えておこう。


「毎学期の始めの方に軽トラ借りて先生にお願いして運転してもらってたんだけど、今日はトウリくんがいて助かったよー」

「軽トラで買い出しですか。結構買うんですね」

「まぁ武器とか重いし、長い間探索するなら保存食とかも必要だからね。と、着いたよ。私の所属ギルドの【仲良し迷宮探索同好会】にようこそ!」


 別校舎の最上階。

 最上階のその一室というわけではなく階段の先にある防火扉が閉められて、その扉に【仲良し迷宮探索同好会】と札がかけられていた。


「……一階丸ごと乗っ取ってるんですか、これ、学校の許可降りてるんですか?」

「えっ、多分降りてないよ。不法占拠だね。どうぞどうぞー」


 中に入る……というよりか、防火扉の先の廊下に入ると、ヘッドホンをかけたショートカットの少女が廊下の壁に背をもたれかけて銃の整備をしているのが見える。


「あ、やっほー、昨日言ってたトウリくんだよ」

「お邪魔します」


 少し目がこちらに向いて「ども」とだけ言って視線が元に戻る。


「ミンちゃんは照れ屋だなー」

「……みんな先輩のこと待ってますよ」

「あ、うん。じゃあこっちこっち」


 ヒナ先輩に連れられて教室に入ると、数人の男女がソファや椅子に座って勉強したりゲームしているのが目に入る。


 教室の本来の形からは大きくずれて、端の方では畳が敷かれてこたつが置かれていて、また別の方にはソファやテレビがある。


 好き勝手に居心地がいいように改造されてるな……。と、半ば呆れながら見ていると、先輩達の視線がこちらに向かう。


「じゃっじゃーん! こちら昨日話していた藤堂トウリくんです」

「あー、藤堂です。今日は荷物運びの手伝いにきました」

「トウリくんは希少な空間系スキルを持っているからね。みんなで買い物して、トウリくんのスキルで運ぶって感じで、自己紹介とかお話は向かいながらしようか、じゃあれっつらごー!」


 ヒナ先輩のこの調子はいつも通りなのか、誰も気にした様子もなく立ち上がってゾロゾロと移動しようとし、俺はそれを見て引き止める。


「あれ、全員で行くんですか?」

「そりゃ荷物運ぶのも大変だし、各々買いたいものもあるだろうし。どうかしたの? あ、ヒナ先輩とふたりでデートしたかった?」

「いえ、俺のスキルの中に入れば電車賃とか浮くので。ここでスキルの中に入って、現地で出たらいいかと」


 俺がそう言うと先輩たちが目を開いて俺を見る。


「えっ、俺、何か変なこと言いました?」

「いや……えっ、そこまで出来るの? てっきり物を保管しておけるだけかと思ってた」

「普通に入れますよ。この人数だと若干手狭ですけど、まぁ電車よりかは快適かと」

「すっごい便利……」


 そう言えば昨日はちょっと物を取り出したり収納しておいたぐらいで直接中に入ったりはしていないから、スキルの性質を勘違いしていたのか。


 俺がスキルを発動して扉を開くと、ヒナ先輩をはじめとして何人かがスキルの中に足を踏み入れる。


「うわー、なんか普通の部屋だ……」

「空間系スキルって初めて見るけどすげえな……」

「あ、電気とか水道は俺の魔力を使うのであまり使いすぎないでくださいね。明かりぐらいなら問題ないですけど。魔力切れで倒れることになるので。あと、部屋の破損とかも」


 先輩達がおっかなびっくりという様子で中に入っていき、ヒナ先輩がひょこりと出てくる。


「あれ、ヒナ先輩は中で待っとかないんですか?」

「案内もあるし、一人で移動させるのも忍びないしね。それにしても便利なスキルだねー」

「まぁ使い勝手はいいですよ。おーい、一回扉を閉じますねー。着いたら開けるんでー」


 と声をかけてから扉を閉じると、そこに何もなかったかのように扉が消えて俺とヒナ先輩だけが残される。


「……これ、例えばトウリくんが開けなかったらどうなるの?」

「そりゃ餓死すると思いますけど。まあでも、スキルを使ってる感覚としては俺が死ねば中のものが外に出てくる感じがするので、先に中の人が「出せー」って暴れたら、極度の魔力の枯渇で俺が死んで外に出られると思います」

「そっか……。よし、じゃあ行こっか。トウリくんお待ちかねのデートだね」

「……そっすね」


 ヒナ先輩に連れられて、俺は学校を後にした。

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