第3章 学術院

第1話 飛び級

「さて……ここからは学術院の話になる。

 このペースなら恐らく夕方近くまでこの話が続くだろうな。」


 レオンハルトは、執務机の椅子に腰かけつつ話し始める。

 ミナトは新しく紅茶を淹れ、スコーンを用意してきた。


「だが、少し変だな。」


 ギルベルトがレオンハルトに向け、疑問を投げかけた。


「君の年齢から逆算して、入学はもう少し早い時期でなければ齟齬が生じてくる。

 やはりそうなると……。」


「ああ。飛び級だよ。

 どうやら入学試験の基礎学力でかなり高いスコアを弾き出したらしい。

 おかげで入学直後に飛び級の勧めを受けた。」


「飛び級ってことは、入門生を一気に終了ってことなのかな?」


 ミナトが紅茶を啜りながら尋ねてきた。

 レオンハルトも紅茶を一口啜り込み、その問いに答える。


「いや、流石に入門生としての二年分を全て飛び越すことはできない。

 二年次の授業は結構高度な内容になるからな。」


「だが君はそれを潜り抜けている。

 それはつまり、基礎学力が十分すぎるものだったことに他ならんだろう?

 ローザとベッカー翁、そしてユリウスの薫陶があったからこそだな。」


 ギルベルトが感慨深そうな声で静かに言った。

 その言葉を聞いたレオンハルトが微笑んで頷く。


「その通りだ。

 母さんだけじゃない。素晴らしい師に巡り合えたことがなによりも大きかった。

 故に一年分、俺は皆より抜け出ることができた。

 全体的な成績としても、上位に入る事も出来ていたしな。」


 そう答えるレオンハルトに、今度はミナトが疑問を呈してきた。


「でも、そこまで優秀だったとすると、色々と嫌がらせとかもあったんじゃない?

 下衆の勘繰りかもしれないけど、優れた他人に嫉妬するなんて話はいくらでもでてくるし、まして学術院ともなれば、プライドの高いお坊ちゃんが多いって感じがするもの。」


「一年次の頭ならそれもあり得た。」


 レオンハルトはミナトの言葉を聞いて、静かに答える。


「だが、二年次となるとそんな下らない事に時間を費やすなど以ての外だ。

 大体、学ぶ事の高度さが一年次の中頃から急激に跳ね上がるからな。

 結果、そう言った嫌がらせをするにしても、無視をするのが関の山だ。

 そして俺はその手の扱いに慣れきっている。

 だから、同級生からの嫌がらせで気を病んだりした、などということは実質的になかった形になるな。」


 再びギルベルトが質問を投げかけてきた。


「上級生からはどうだったのかね?

 同級生はそれで済んでも、上級生の先輩風はどう避けた?」


「簡単さ。

 自分には魔導学部のエース、オッペンハイマー教授がバックについていた。

 これだけで、学院生は震えあがる。

 なにせ魔導学部は、学術院でも一、二を争う大派閥だ。

 その魔導学部の若く勢いのある教授に睨まれるような真似をすれば、学術院での今後が危うい。

 上級生となった連中は、皆そういった計算高さがあったらからな。

 その御威光のおかげで、先輩風なんのそのだったのさ。」


 一通りのレオンハルトの言葉を聞いたギルベルトが、また静かに疑問を呈した。


「だが、君は魔導学部に進んでいない。

 進級すれば自ずと学院生となり、いずれかの学科を専攻することになる。

 今の君は遺跡工学の学術師。自明の話だが、学院生となった時点での専攻は遺跡工学だったのは間違いない。

 そうなると、魔導学部の教授との軋轢が全くなかったとは考えにくいのだが。」


「無論だ。」


 ギルベルトの言葉を聞いてレオンハルトは首を縦に振った。


「次はその辺りを話そう。

 俺が遺跡工学を専攻するに至った経緯についてだな。」

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