第7話 合否

 ミナトが窓を開け放ち、空気を入れ替えた。

 今さっきまで場を覆っていた暗い雰囲気も、これで一気に追い払われたように感じられる。


「オッペンハイマー教授の元では、俺は質問攻めだった。

 リーマン先生の愛弟子というだけで珍しい存在なのは間違いなかったが、それでもかなり根掘り葉掘り聞かれたな。

 特に自分の魔導学に関するセンスは驚異的だったため、リーマン先生も交えて様々な議論をぶつけ合った。

 最後には『学術院に落ちても、私が面倒を見る!』などと、教授が言い放ったぐらいに俺は気に入られたよ。」


「そして今でも気に入られている。」


「ああ。」


 ギルベルトとレオンハルトの言葉少ないやり取り。

 だが、その中にある安心感を汲み取り、ミナトはそっと微笑んでいた。


「半月後の入門試験では、俺は注目の的だった。

 なにせ、弟子を取らないと有名なリーマン先生の愛弟子がやってきただけでなく、その弟子の年齢は十一歳。

 おまけに魔導学部の若きエース、オッペンハイマー教授の肝煎りだとあっては注目が集まらないわけがない。

 逆に周りの入学希望者はプレッシャーでいっぱいだっただろう。

 もしここで落第となれば、幼年学校でお遊戯を学んでいるような年齢の幼子に負ける形になるんだからな。」


 レオンハルトは、どことなく底意地の悪そうな笑みを見せて言った。

 ミナトは、その言葉を白けた顔で受け止める。


「確かに十一歳の入門生は寡聞だが、聞かない話ではない。

 それこそ、そういった幼年学校で手に余るほどの学力を持つ少年がやってくることも、稀にだがあった話だ。」


「確かにその手の話は俺も結構耳にした。

 だがほとんどのケースでは、入門生になったはいいが、そこから鳴かず飛ばずで結局中退するということばかりだったはずだ。」


「う……む……。」


「結果を話そう。俺は当然合格した。

 そうでなければ今の俺はない。

 一部には、俺が不正をしたという口さがないでっち上げを騒ぎ立てる者もいた。

 だが、不正には厳しいと名高い学術院だ。

 そんなでっち上げはすぐにでも沈静化する。

 俺は一発勝負に打ち勝った。

 それは同時に、リーマン先生からの卒業を意味する。

 涙をこぼしていた俺に、先生ははなむけとしてこう激励してくれた。」


 レオンハルトは一旦言葉を切り、瞳を閉じてその時のことを思い出す。

 そして恩師の言葉を一言一句違えることなく、滔々と語り始めた。


「『これからお前は、自らの目で見、耳で聞き、肌で感じねばならん。

 友は助言はするだろう。先達は道を指し示してくれるはずだ。

 だが、お前の手を取って引いてくれる人間は、もうどこにもいない。

 自らの腕で切り拓け、自らの脚で歩め。

 それが学究の徒として選んだ道なのだからな。』」

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