第5話 死別
ギルベルトが静かに本を書棚に戻す横で、ミナトが語りかけた。
「でも、そんな形で魔法を使ったらやっぱり問題だよ。
きっと村の人間は……。」
「察しがいいな……。
その通り。村の連中は俺を、そして母さんを恐れた。
『魔法使いの小僧』そして『魔女』の母親。
そう言ったレッテルを貼られるのはあっという間だったよ。
こうなると、今まで好意的だった墓守の夫妻も、地主のオヤジさんも、揃って距離をとろうとする。
これが決定的になったのは、母さんが流行り病に倒れた時だった。」
「そういえば以前言っていたな。
どんな病気だったんだ?」
ギルベルトが振り向きながら問いかける。
その問いにミナトがそっと答えた。
「自分が生まれるちょっと前だったんで話に聞いた程度なんですけど、かなりひどい風邪だったらしいです。
罹ると長い間発熱して、一気に体力を奪われるって……。」
「そうだ。
だが、決して治らない病気じゃなかった。
解熱剤と十分な栄養、それに体温を下げない工夫。
これだけあれば、問題なく治すことができるものだった。
だが俺の風評は。まず薬の入手を妨げた。
医者に行っても『魔女んとこのガキにやる薬はない。』とにべもない。
栄養を摂ろうにも、食料は売ってもらえない。
寒さを何とかしようにも、薪すら用意できない。」
ミナトとギルベルト――二人は俯いて、レオンハルトの顔を見ようとしていない。
いや、できないのだ。
あまりに酷い迫害に、言葉を失っている。
「その状況を知った墓守のおばさんは急いで薬を用意してくれた。
だが、それも手遅れだった。
あの人が家の扉を開けたその時には、もう母さんは息を引き取っていたんだ。」
レオンハルトは少し言葉を区切り、天井を仰いでため息をついた。
瞳はどこか潤んでいる。その時の記憶が、彼の心を揺さぶっている。
「母さんは最期にこう言い遺した。
『父さんを憎んではいけない。恨んではいけない。辛くとも赦しなさい。
貴方は優しい人になりなさい。正義を尊ぶ人になりなさい。
それができるだけの知恵と知識を身につけなさい。』と。」
レオンハルトは強く瞳を閉じた。
眦が濡れている。零すまいとしたはずの涙が滲み出てきた。
「そして今わの際に『あなた、レオン、ありがとう。』と言って笑顔で逝った。
俺は泣いた。自分の軽率な行動で迫害を加速させ、その結果母さんを死なせたことを悔いた。
同時にこの村の全てを憎み、恨み、滅茶苦茶にしてやりたいとも思ったよ。
だが、その時にできた事といえば、『火口』と『照明』、それに不完全な『衝撃』の魔法だけだった。
『衝撃』では、家どころか藁山を吹き飛ばすのがせいぜいで、『照明』は人を脅かすことしかできない。
『火口』で放火したくても、小火になるのがオチだ。
悔しかった。
本当に力が足りないと身につまされた。
強くなりたい、と心の底から願っていた時、伯父を名乗る男がやってきて、相応しい所へ連れて行ってやると、そう持ち掛けてきたのさ。」
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