第1章 幼年期
第1話 エルドニア
「俺が生まれたのは、帝国の北東部にあるエルドニアという寒村だ。
特にこれという特産品があるわけではなく、強いて言えば避暑地として人気がある。その程度の村でしかない。」
「そうだな。
私も夏になるたび、避暑であの村を訪れていた。
美しい景色と冷涼な気候は夏に最適だった。」
レオンハルトの言葉を補足するようにギルベルトが口を開いた。
その言葉を聞いたレオンハルトは、さらに説明を続ける。
「夏はそれでもいいが、冬は厳しい。
雪が降れば凍える程に冷え込むし、そうでなくとも、強い吹きおろしが村全体に襲い掛かる。
おかげで土が吹き飛ばされ、残るのは赤土ばかりだ。
農村としての収穫量はみすぼらしいの一言になる。」
「ん……そこまでは思慮が至らなかった。
確かに冬のエルドニアの話は聞いたことがない。
レオンハルトの説明を聞き、ギルベルトが静かに答える。
どことなく、悔恨の表情を窺わせる。そんな声音だ。
「俺はそんな村に生まれた。
それだけならば、ただ貧しいだけの家というだけの話だったが、問題は母さんの家の連中だ。
母さんは不義の子を産んだということで家から勘当され、祖母の旧姓であるフォーゲルの姓を名乗る形になった。」
レオンハルトの声が沈み込んでくる。
そんな重くなった言葉の底に怒りが抑え込まれているのは、ミナトにも十分感じ取ることができた。
レオンハルトは心を落ち着けるために、長い間を取った。
その沈黙を破るようにギルベルトがポツリとつぶやく。
「アルトマイヤーの姓を名乗らなかったのは、それか……。」
「ああ。」
短いレオンハルトの返答の中には、怒りを超えた憎しみが満ち満ちている。
その暗い感情の発露に耐え切れず、ミナトは自然とレオンハルトに尋ねていた。
「その……アルトマイヤーってどんな風だったの?
とてもいいようには思えないけど……。」
レオンハルトは瞳を閉じてため息をつき、なんとかドス黒い感情を押しとどめようと努力した。
ある程度心も落ち着いたのだろう。
再び瞳を開き、静かに言葉を続ける。
「あの連中の事を口にするのは心底業腹だが、母さんと俺がどう迫害されていたかを語るには避けて通れない話だ。
少し脇道にそれるが、連中のことを説明しよう。」
レオンハルトはそう言うと、言葉を選んでポツリポツリと語り出した。
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