第3話 寝室

 シャワーを浴び終えた二人は、めいめいベッドに腰かけた。


 シーツにはかなりの皺が寄っている。

 いったん床に入って、ひとしきり愛を交わし終えたところなのだろう。


 髪を丁寧に拭っているミナトに、レオンハルトが話しかけた。


「本当に色々と世話になっているな……。

 今までは考えもしなかったことが立て続けだ。」


 体を拭き終えたレオンハルトは素裸になり、シーツの中に入る。

 ミナトもタオルを床に落とし、こちらも素裸でシーツに潜り込んだ。


 そのまま彼女はレオンハルトに語りかけた。


「でも、ほら。前にも言ったよね?

『こんな程度じゃお礼にならない』って。

 確かにお礼とかそう言うのはもう通り越しちゃってるけど、やっぱりレオンに悦んでもらえるなら、あたしもとっても嬉しいから。」


「そうか……。」


 ランプの灯りを細め、部屋を暗くするレオンハルト。

 月明かりがカーテンの隙間から差し込むのが解る。


 ミナトがレオンハルトの胸にしなだれかかってきた。


「えっと……。」


 もごもごと口ごもるミナトを見て、レオンハルトは首を傾げた。


「どうした?」


 ミナトのしなやかな栗色の髪を優しく撫でながら、レオンハルトは尋ねる。

 ややあって、ミナトはおずおずとした口調で彼に言った。


「あのさ……あなたの子供の頃の話を聞きたいの。

 色々とイヤなコトばかりだったんだろうから、無理にとは言わないよ?

 でも……できれば、あなたのことできるだけ知っておきたいから……。」


 弱々しくなっていく語尾を聞き、レオンハルトは苦笑する。

 上目遣いに表情を窺っているミナトに、彼は静かに答えた。


「そうだな。君には知っておいてもらいたいこともある。

 だが、今ここで話すには長くなってしまうからな。

 幸い明日は学術院全体で休みになる。

 ひと眠りしたところで、ゆっくり話そう。」


「ホントにいいの……?」


 再びミナトがおずおずと尋ね返す。

 レオンハルトは苦笑の表情を崩すことなく、再び口を開いた。


「構わんさ。

 それに父さんにも聞いてもらいたいということも多分にある。」


「お義父さんに?」


「ああ。確かに憎しみはなくなった。

 だが、苦労させられたことに対しての恨みはそれなりに残っている。

 少しは当て付けておかないと、全部が全部終わらせるわけにはいかんのでね。」


 それだけ言うと、レオンハルトはミナトと唇を重ね、そのまま枕に頭を預けた。

 ミナトも苦笑いをして、シーツを肩まで引き寄せる。


 ゆっくりと更けていく夏の夜。

 月明かりが煌々と帝都を照らしていた。

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