純愛カプ厨鑓煙珍歩郎は寝取りたくない
国丸一色
鑓煙珍歩郎って名前はどう考えても終わってる
身長は180cmを優に超え、190cmにも届かんばかりの巨躯。鎧のような筋肉を身に纏う、その鍛え抜かれた肉体はまるでプロアスリートのごとし。もちろん股間も超一流。ゴリゴリの金髪ツーブロで、顔も野性味あふれるワイルドな男前。スマホの連絡先には女の子のアドレスばっかり。
名は体を表すというか、どう考えてもあだ名がヤリチンかチンポか苗字からとってヤリモクにしかならなさそうな脳みそ湧いたこの名前が、今世における俺の名前だ。
苗字はこの際だからまあいいよ。でもこの名前はおかしいだろ。珍歩郎て。チンポとしか読めねえよこんな名前。バカなのか俺の親は? 顔が見てみてえわ。
――と言いたいが、それは叶わない。俺に両親はいないのだ。なんでかって?
それは俺が、NTR廉価エロゲ『僕の大好きな彼女たちが知らない間に金髪ゴリマッチョのヤリチンに寝取られていた件について』の竿役、鑓煙珍歩郎であるからに他ならない。
そう、俺はなんか知らんが気づいたらこの世界に転生していて、鑓煙珍歩郎としての生を歩んでいたのだ。その時の衝撃があまりにも大きすぎて、かつての名前ももう忘却の彼方だ。
だが、この世界が『僕の大好きな彼女たちが知らない間に金髪ゴリマッチョのヤリチンに寝取られていた件について』であることは、確かに記憶がある。NTRゲーが好きな前世の親友が身もだえしながらプレイしていたのを覚えているからな。
「鑓煙珍歩郎ってなんだよこの名前適当すぎだろwww」と親友とともに爆笑していたのも遠い昔のことのように思える。いまや俺がその珍歩郎だ。泣ける。
まあそんなこんなで鑓煙珍歩郎として第二の生を歩んでいるわけなのだが、ここがNTRエロゲの世界ならさぞや俺は爛れた酒池肉林ライフを送っているんだな、うらやまけしからん……なーんて感想を抱く諸兄もいることだろう。
だが、決して、そんなことはない。
――なぜなら俺は、純愛厨だからだ。
寝取り寝取られとかマジで無理。ちんちん萎んじゃう。
えっちっていうのはさ……。男女が結ばれるっていうのは、そこに確かな愛情と信頼の積み重ねがあってはじめて抜けるわけ。そこに寝取りだの寝取られだのは純愛のじゅの字もねーじゃん。いや場合によっては純愛寝取りもあるかもしれないよ?
でも鑓煙珍歩郎に純愛寝取りは無理だろ。名前からしてこいつヒロインを手籠めにするためだけに生まれてきたセックスモンスターだからね。ドスケベ・ザ・エッチセックスだから。
女の子をトロフィー代わりにするとかさあ、自分の性欲を満たしたいがために抱くとか、そういうんじゃないのよ、えっちって。
もっとこうさ、年頃の男女がずーっと胸に秘めてきた思いを、信頼を、尊い感情を、二人で確かめ合うかのようにまぐわいあう――そういうのがいいわけ。わかる?
俺は純愛がいいの。彼氏がいる女を抱くとか、そういう趣味は全くないんだよ。
でもさ、この世界は残酷なんだわ。
俺が鑓煙珍歩郎である限り――世界が俺に寝取らせようとしてくる。
この! 純愛厨の! 俺に! 寝取れと! 言ってくる!
こんな惨いことがあるか!? こんな残酷なことを許していいのか!?
答えは否! 否! 断ッッじて否!
だから俺は、今日も逃げる。
俺に彼女を寝取らせようとしてくる男、あるいは俺に寝取られようとしてくる女が組み合わさった、知り得る限り最高に頭がおかしいカップルからな――!
「珍歩郎、聞いてる? おーい」
「珍歩郎くん? 大丈夫?」
「……ん? あ、おお。わりい、二人とも。ちょっと意識飛んでた」
「まったく、どうしたんだよ珍歩郎。最近ちょっと多くないか?」
まあ、確かに少し長いモノローグだったかもしれねえな。
俺は今、とあるカップルと放課後下校の真っ最中だ。
こちらの顔を覗き込むように視線を飛ばしてくるのは、このNTRゲーの主人公でもある
身長は170cm弱。中肉中背。やや童顔寄りでこれといった特徴がない平介は、俺が珍歩郎としてこの世に生を受けてからはじめての友人でもある。
そして平介の少し後ろで同じくこちらを少し心配そうに見つめているのが、このゲームのメインヒロインで、平介の幼馴染みかつ彼女である美少女、
一緒に歩いてる三人の名前、平介と、歌恋と、珍歩郎だぞ。俺だけ浮くだろ。浮きすぎて成層圏突破しとるわ。
歌恋はさすがエロゲでメインヒロインを張るだけあって、かなりの美少女だ。エロゲらしくピンク色のストレートロングの髪の毛と、制服の下からでもわかるほどの巨乳、そして安産型のデカケツ。言ったらなんだが平介と並ぶとつり合いが取れないレベルで顔立ちの整ったスーパー美少女だ。
「……んで、何の話だったっけ?」
「まったく。この後どっかに遊びに行かないかって話だよ」
「中間テストも終わったから、カラオケでも言ってパーっと遊ばない?」
ああ、そうそう。中間テスト終わったんだったっけな。
だから俺たち三人はウキウキ気分で下校しながら、カラオケのある繁華街へやって来ていて――。
「じゃああそこのカラオケボックスにしようよ」
「さんせーい。歌恋ちゃん、二人をラブソングでメロメロにしちゃいますよ~」
「あ、お、おう」
あれよあれよという間にカラオケボックスに入店し、手続きをはじめる平介。冴えない見た目の割にこういうところは手際がいいんだよな。
平介がちゃっちゃと諸々の手続きをすまし、店員からマイクと伝票を受け取ると、俺たちは三人連れ立って指定されたカラオケルームに向かい――、
「――やべ。ごめん二人とも、俺、今日ちょっとどうしても外せない用事があるんだった!」
「えー。平介くん、それって彼女であるわたしよりも優先すべきことなの?」
「ごめんって! ばあちゃんが危篤なの忘れてた!」
んなもん忘れんな。いや嘘なのはわかってっけど。
「歌恋も、珍歩郎も、これ絶対埋め合わせするから、今日は二人だけで楽しんでおいてよ! じゃね!」
言って、入室してから五分もしないうちにあたふたと消えていく平介。残される篠塚歌恋と、鑓煙珍歩郎。
クソみたいな嘘はともかくとして、俺は平介の手際の良さに内心舌を巻いていた。あいつ……速攻で隙を作って寝取りシチュエーションを整えやがった……!
ご丁寧に机の上にはスマホまで置いていってやがる。しかも録音アプリまで立ち上げ済みだ。これ、首尾よく行ったら録音した内容でシコる気だろあの寝取られ趣味野郎。
クソバカがよ……! 歌恋みたいな可愛い彼女がいてどうして寝取られ趣味に走れるんだアイツ。一回締めてやろうか……。
「……平介くん、行っちゃったね」
そして、歌恋が音もなく俺の隣にやって来る。いやおかしいよね。さっきまで向かいに座ってたしわざわざ隣に来る必要ないだろ。そのまま一定の距離保っててくれよなマジで。
「珍歩郎くんと二人きりになっちゃったね」
「あー、まあな? でも平介も彼女を放っておくなんてよくねえと思うっつーか、そもそも歌恋も彼氏以外の男と密室でふたりきりは避けといたほうが無難だと思うぜ」
「どうして?」
どうしてもなにもねえだろ。間違いがあったらコトなんだよ。普通は。
って言いながら制服のリボンほどくんじゃねーよバカ! 寝取られ趣味っていうかこれじゃビッチじゃねーかバカ! 淫乱ピンクが!!
ああブラウスのボタン外し始めやがった! 俺は純愛厨だけど処女厨にも片足突っ込んでるからそういう不義理は許せねーんだってマジで!
「ま、まあともかく、平介がいねーんならカラオケにいる意味もねーし帰らねえか? な、歌恋? な?」
もう冷や汗だらだらだ。
言いながら、俺は歌恋のブラウスのボタンを留めてリボンも結んでやる。まったく甲斐甲斐しい男だ。これが純愛厨のあるべき姿だとは思わないかね。
平介と歌恋は傍から見てもお似合いのカップルなんでもうそのままいい感じに行ってくれ。わざわざ鑓煙珍歩郎の毒牙にかかろうとしないでいいから。
「……わかったよ、珍歩郎くん。出よっか」
「そうか、わかってくれたか」
ありがとう、歌恋。
都合十分も滞在していなかった気もするが、こうして俺と歌恋はカラオケボックスを後にした。
「……ところでね、珍歩郎くん」
「ん?」
そうして歌恋と連れ立って繁華街を歩いているうち、彼女はとある建物の前で足を止めた。
そこは入り口が巧妙に壁で隠されていて、ネオンできらきらと七色に光っているまるでお城のような建物で、すぐ傍には2h休憩4000円の立て看板が並ぶ――、
「――平介くんとの本番のために、どうやって部屋を借りるのかちょっと勉強したいなー、なんて。付き合ってくれる、かな?」
「付き合うわけねえだろ!!」
――ラブホテルの前で恥ずかしそうに俯く歌恋に吐き捨て、俺は逃げた。もうこいつらホントバカ! 淫乱ピンクに寝取らせ趣味のクソ馬鹿野郎!
なんでこんな特殊なプレイに巻き込まれてんだ俺はよ! なにが悪いんだ! 俺の名前か!? 鑓煙珍歩郎とかいう、この名前が悪いのか!?
ああそうさ。これは、前世ではゴリゴリの純愛厨だった俺が、俺をダシにいちゃつきたがる寝取らせ趣味のバカップルどもと戦うハートフルラブコメディだ。ファック!
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