練習問題3 長短どちらも:問2

 ナッツの殻で磨いた床は照明を受けて鈍く光り――かがり火のように演出した魔力灯のシャンデリアは、対照的な二者のシルエットを浮かび上がらせていた――相対する一方である彼女は低く姿勢を保ち、使い込まれた舞台を音高く蹴り飛ばし、殆ど宙を駆けるように身を躍らせて再び板間を踏み込み、なんにせよ決着をつけるべく死闘の幕を切って落とす――迎え撃つのはかつて男だったもの、宇宙を喰らった真なる怪物だ―その意識の在り処は既に怪しく、もとの怪人じみた容貌すらうかがえぬほど、その形状は人から崩れ、死体のような血の気のなさも相まって脂肪の山といった様相を呈している―しかし怪物もまた、彼女の闘志に呼応したかのように奇怪な叫び声を発して水死体のごとく膨れ上がった腕をのたりともちあげ、その軌道に追従するように黒い光が湧きおこってバチバチとはじけたのを、こちらへジグザグの軌道で迫りくる女めがけて稲妻として断続的に放ち、しかし彼女は見事な足さばきでそれらの殆どすべてを回避することに成功する――左肩をかすめていった瞬間だけは顔を歪めたが、それだけだ――しかし生まれた隙を狡猾な巨獣は逃さず、全霊でもって舞台のすみずみにまで網目のように放電を巡らせて小鹿のごとき女を――かつて意志ある時代に興じていた狩り遊びのごとく――仕留めんとしたが、彼女は今や遅しと懐に忍ばせた白い短剣を抜き、ありったけの神霊の加護を込めた一撃を怪物めがけて投げ放ち、黒色の雷ごと空間を切り裂いた灰銀の刃がいびつな前腕をバターのように切り裂き、持ち主たる怪物が絶叫した隙を突いて彼女は剣の間合いまで接近した――愛剣を抜き放って死蝋のごときぬらぬらと光る身体を袈裟掛けにするまでには一呼吸もかからない――ぱっと上がった血の珠が彼女の顔を濡らしたが、その両の眼が閉ざされることはなく、かの怪物の最期を見届けるべくしっかと開かれた天藍石の瞳は生白く膨れ上がった身体がのたうつ様、真っ二つに裂けた身体からうごめき湧きだす肉塊――化け物の本性が姿を現したのを余さず映していた。

(855字)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る