第33話『楽しきかな』

 翌日、ロアたちはまたもや街を散策していた。

 ガニシュカも同行したかったようだが、公務が残っていてフェーに連行されていた。

 街の散策に出て早々にアンバー率いる三莫迦に絡まれた。

 ロアは、出会い頭にボコボコにした。

「ぶへぇ⁉」

「いきなりなにすんだ⁉」

「そうだぞ‼」

「え? だって喧嘩売りに来たんじゃないのか?」

「そうにしたってもうちょいやり様があるだろうが⁉」

 あまりのロアのやり様に、不満を爆発させる三莫迦。ロアは、頬斯いてめんどくせーと呟いていた。というか、先に絡んできたのは向こうだろうに。

「正当防衛だろ?」

「先制攻撃っ‼」

「同じようなもんだろ? ほら攻撃は最大の防御?」

「それ唯の通り魔だろ⁉」

 アンバーの絶叫が響いた。

 素晴らしいツッコミ力だった。

「それで何の用だよ? 俺達是から食っちゃ寝するんだけど」

「著しく暇っ!」

 ツッコみすぎてぜぇぜぇと息を吐いているアンバー。

「くっ、此間はよくもいいように、やってくれたな!」

 ぶっとばしてやる! そう意気込んでロアに向かっていくアンバー。それに続いていくトレバーとトルモン。

「それ~!」

 ロアがにこやかに拳を振るった。ボコボコであった。

 顔中に青あざとこぶを作って倒れ伏す三莫迦をツンツン指でつつくアンナ。

「大丈夫~?」

「天使か?」

「女神~」

「好きです」

「……?」

 調子のいい三莫迦に困り顔のアンナ。全く愉快な奴らだと笑ってしまう。

 それから何かと彼らは絡んでくるようになった。

 その度に撃退されて、帰っていく。

 それが結構楽しかった。


 夜アンバーは貧民街の路地裏を歩いていた。

 彼は貧民街出身で、子供の頃から貧民街流の処世術で今まで生きてきた。それが出来ないものから死んでいく。それが許せなくて、彼は必死に努力した。

 皆笑えるように強くなった。

 是迄喧嘩で負けたことは無かったのだ。だが奴、ロア・ムジークに完膚なきまでに負けた。気持ちい位に負けてしまった。

 それはアンバーが憧れる姿そのままで、羨望の眼差しを、憧憬を抱いていた。

 楽しかった。こんなに喧嘩が愉しいと思ったのは初めてだった。

「だけど流石に、疲れたな……」

 何せ容赦ない。ボコボコにし過ぎだ。

「……?」

「――――」

 何やら麗しい歌声が聞こえてきた。此処は貧困街で、さらに普通の者が近寄らない裏路地だ。こんな場所でこのような美しい……天女のような歌声が聞こえるなんて有り得ない。

 自然とアンバーは声の方へ歩んでいた。

 優しく仄かに、声は反響して、アンバーの耳朶を震わせた。

 どれほど歩いただろうか、結構な距離を歩いて辿り着いた場所は、アンバーでさえ知らない廃教会だった。草臥れた廃教会の中で歌う灰色の髪の天使のような少女が、麗しく讃美歌を歌っていた。

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