第27話『幕間3』

 ――イーリス大陸、アイネ王国外れ。

 港町・ビア。


 ビアは外津海での漁業を生業とした町である。

 人口は少なく五千人程度だ。

 名産品は魚とエールである。

 ビアの町の中心にどんと構えられた酒場『アイスヴァン』。

 看板に『どんと来やがれ』と書かれていた。

 何とも剛毅な印象を与えるが、いつもと違い活気が無い。

 それは一人の客のせいだった。

 その男とは『勇者』 であった。

「……」

 黙々と酒を飲む彼を見て、さすがの彼ら騒げない。

 普段は槍が来ようが、剣が来ようが構わず騒ぐ彼らだが、流石に意気消沈した勇者の前だと騒げないらしい。

「マスター、お代わり」

「そこまでにしときな、今日どれだけ飲んでんだよ」

「良いんだ」

「よくねえだろ」

 スキンヘッドの大将が苦言を呈したが、ナハトは聞く耳を持たない。

 彼は今日既に十五本以上を空けており、良いも完全に回っているはずだった。

「酔わねぇんだよ。もっときつくて悪い酒をくれ」

「阿保が、悩んでる客にそんなもん出せるか!」

 どれだけ飲んでも、痛みが消えない。

 どれだけ飲んでも酔えやしない。

 夜を迎えるたびにあの日がぶり返す。どうしてあんな事に為ったのか。

「どんだけオレはクソ野郎なんだ」

「そのクソ野郎がこれ以上悪化しないように、そこまでにしときな」

 スキンヘッドの大将がロアのエールを取り上げる。

「そいつは無理な話だろ? 見てみろこのクズを」

 自嘲して言う。

 酷い隈に、荒れた髪、無様に生えた無精髭。

「とんだクズだろ?」

「やめてくれよ『勇者様』。見てて辛い」

 勇者か。何が勇者だ。

 スラム街で育った浮浪児が随分尊大な呼ばれ方をした者だ。

 貴様の性根なぞあのころから何も変わってない癖に。

「あんたは世界を救ったじゃないか。好いじゃねぇか、子育てが失敗したぐらい。何も終わってねえだろ? 逢いに行けばいいじゃねえか!」

「逢う資格がねえよ」

「親に無いならだれに在るんだよ‼」

「……っ」

「すくなくとも、ここで酔っ払ってるよか素敵だぜ?」

 大将がニヒルに笑って見せる。

「あんたいい奴だな」

「まあな、王都で宣伝してくれや」

「そうさせてもらうよ」

 諦めるのは確かに早かった。如何して話し合うことをしなかった。そう自分を責め続けて、ロアを追うコトから逃げていた。

 それ自体が自分の弱さだっていうのに。

「ありがとう、マスター」

「は、真坂『勇者様』に礼を言われるとはな!」

 ガハハハッ。豪快に笑う。

 ナハトはカウンターに金を置いて出ようとした。

 彼の背後から声を掛けられた。

 聴きなれた声だった。

「ちょっとはマシになったかい? ナハト」

「ガルガリ……っ⁉ それにお前はウォルフ!」

「……」

 そこに居たのは聖賢ガルガリと、特待生ウォルフだった。

 ガルガリは、不敵な笑みを浮かべてナハトの肩に腕を回した。

「逢いたかったぜ『勇者様』!」

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