第26話『幕間2』
――イーリス大陸、アイネ王国。
アイネ王国の中心に居を構える大貴族ヴァルキュリア。
ヴァルキュリアの歴史は古く、その歴史はアイネ王国建国以前にまでさかのぼる。
ヴァルキュリアは昔、小国の王だったのだ。それが合併による合併でアイネ王国に迎合された。それ故にか、貴族間でもかなり特殊な
そんな大貴族ヴァルキュリアも近年の零落すさまじく、敬意と畏怖を忘れられて久しい。
零落の原因は当主であるサー・ヴァルキュリアの凶荒である。トート家に嫁いだ娘であるヘレンを強姦し、殺害したという噂が流れたのだ。
それから彼の風聞は留まることを知らず、ヴァルキュリアは零落してしまった。
爵位の降格も視野に入っているという噂だ。
ヴィクトリアは王都の石畳を踏みしめながら風を感じていた。
いたるところからロアの悪口が聞こえてくる。
別に構わないだろうに、彼がどんな力を使おうと彼らに関係があるワケでは無いのに。如何してそこまでこだわるのだろうか。
彼に何かされた訳でも無いのに。
「良く分からないや」
決して賢いわけでは無い自分には、答えは見えてこない。
「ロアが居なくなってすごく退屈」
彼は去った。
私を置いて……。
「なんて言うつもりは無いけれど……」
やはり寂しい。
でも、彼の邪魔になるのは嫌だ。
頑張ってるロアは誰よりもカッコいい。
何よりも素敵だ。
なのに其処に自分が割って入って台無しにしてしまうなんて、何というかすごくもったいない。
「あれ……?」
何か、騒ぎが起こっている様だ。
複数の大人に囲まれた少女。
その少女が何かすごく見覚えがあって。
「お姉ちゃん助けて――っ⁉」
「マリーいいいいいいいい⁉」
自分と同じダークブラウンの髪をした可愛らしい少女が大人から逃げていた。
彼女の名はマリー・ヴァルキュリア。
ヴァルキュリア家の末妹にしてヴィクトリアと同腹の妹なのだ。
「何してるの――っ⁉」
「ごめん! 逃げよう――!」
「なんで私まで――⁉ 〝あいつの仲間か〟とか言われてるんだけど⁉」
マリーを追う大人たち、に追われるヴィクトリアという謎の構図が生まれていた。
「――で? どういうことなの?」
「えへへ?」
「えへへじゃない~!」
頬を引っ張る。もちもちだった。
「だってぇ~あいつらお兄ちゃんのこと馬鹿にしたんだもん!」
「ロアのコトを?」
「あいつは魔王の手先に違いないって!」
憤懣やるかたないといった風情を見せるマリー。
彼女にとってロアは英雄なのだ。
彼女が攫われた時に、助けてくれたのがロアだった。
「だからって、大人に喧嘩売っちゃだめよ。ただでさえヴァルキュリアは顰蹙を買ってるんだから」
「そんなの知らない。莫迦親父のせい」
「それは間違いないけど……」
辛辣な評価を下すマリー。
そもそも顔を見た事も無い人に愛着は無い。
「其れでも、あなたが他の人たちと違って飢えず、好きな服を着て凍えずに済むのはヴァルキュリア家のおかげなんだから、表面位は誤魔化しなさい。心ではどう思ってもいいから」
ヴィクトリアはマリーが羨ましい。
ヴァルキュリア家で最初に憶える処世術は束縛だ。
張り付いた笑顔で装飾された気品で、優美な自分を彩るのだ。
だけど、マリーは末娘というコトもあってか、自由に生きれている。そんな彼女のコトを姉妹皆で可愛がった。
「む~」
「まったく……」
可愛い妹なんだから。
「マリーがロアのコトで怒ってくれて凄く嬉しいわ」
大切な妹を抱きしめる。絶対守りたい。
落ちていてくヴァルキュリアとはいつか決別しなければならない。
その際にこの小さな妹はきっと流れに逆らえない。
準備を進めないと。
マリーを大人の悪意になんかに翻弄させるもんか。
「帰ろう」
「うん」
小さな手のひらを包み込む。
決意は脈を打って心臓に伝わった。
優しい日常が砕けるのはそう遠くなかった。
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