第18話『夜の中で』
走る最中、夜間の情景に映る禍々しき怪物の影たち、その物量にロアは壮絶な覚悟を決めた。ロアとアンナが樹を踏み台に跳躍した瞬間、巨大なコウモリに、鰐の尾を生やした〝
「――――ッッ」
「〝
〝幻想の怪物〟が大口を開ける。ロアは魔弾を放たれるより早く、魔法を起動。
閃光煌めき、〝幻想の怪物〝幻想の怪物〟の口内を貫き通す。絶命して落下する〝幻想の怪物〟に一瞥も向けず、次に来る敵に刃を振るった。
蝶々のような〝幻想の怪物〟だった翼を切り裂かれ蝶々もまた落ちていく。
「凄い……! 詠唱なしでどうやって魔法を
「俺の魔法だ! 詠唱を省略できる!」
「何それずるじゃん!」
「問題ない! 向こうも充分に反則だ!」
しかし、こうも視界が悪いと後手に回る。
土地鑑のあるアンナがいなければ、立ち回りが杜撰だったろう。
何より、アンナを狙う〝幻想の怪物〟をロアが討つ。
「いい餌だ……!」
「ちょ、何か酷いこと言ってない⁉」
ロアの辛辣な評価に感づいたのかアンナが指摘するが、ロアは無視して次に来る敵を殺し続ける。何時しか魔力の粒子で夜闇が照らされるほどになっていた。
そして、全容を見せる虹色の城!
ねじくれたようなその外観! 城というよりもむしろ塔だろうか。
「拝していた敵は総て、殺した……行くぞ」
「……!」
二人が一歩を踏みしめるよりも速く、虹色の城の門がひとりでに開き、深いその影から人が歩み出てきた。緊張を高める二人に反して、そのローブに身を包んだ者はフレンドリーに声を発した。
ロアではなく――。
「アンナ、大きくなったね」
ローブを静かにおろして、その面を晒す。
「……っ⁉」
暗かろうと、見紛うワケも無いその面を、アンナはみた。
見てしまった。
途端泣き崩れるアンナ。
「
「どういうことだ⁉ 賢者マーリンは死んだのではないのか――!」
その目でマーリンの死を見ていないロアは、思考を巡らせた。怖ろしいほど早く、深く。
最悪な事態までも想像を巡らせた。
真坂死を偽装した⁉ 黒幕は賢者マーリン……? だとするなら矢張り目的は世界の転覆か――⁉ あり得るのか? そんなことが。
その最中畢竟な事だが、彼は動きを硬直させた。
その瞬間を――狙われた。
「……っ」
「ロア……?」
アンナは見た、腸を抉られたロアを。
触腕によって抉られた腹を冷静に見る。俯瞰する。
「お師様! ロアを治療して‼」
「…………」
この触腕は魔法による産物だ。誰によるものだ? 決まっている、眼前の賢者以外に居ない。為らば矢張り賢者は存命なのか? 魔法の大原則死者は魔法を使えない。
いや可笑しい。もし黒幕が賢者ならば、この杜撰な魔法はなんだ?
虹の空を見上げる。
そもそもこの様な虐殺や、家畜小屋のような搾取をする必要もなく、一夜でアルプ大陸を陥落させる事が出来た筈だ。為らばなぜそれをしない? なぜこうも迂遠な方法をとる⁉
答えは明白。
「――賢者の偽物」
「すこ~し違う」
賢者の口が僅かに裂ける。そこから漏れ出る声はグリンガルドのモノだった。
「どういうこと……? あなたお師様に何をしたの⁉」
「殺したわ」
「……っ、そんなわけ! だって眼の前に――っ」
あっけらかんと言うグリンガルドの言葉を必死に否定する。そう、
お師様はきっと操られているだけだ。そうに違い。
きっと生き延びていたんだ……。
「本当よ、本当よ、噓じゃないわ」
凄惨に笑いながら、グリンガルドは言う。
「ウソよ! あなたは噓つきだって聞いたわ!」
「そ~なのよね、如何してか昔から本当のコトしか言ってないのに、信じてくれなかった」
如何してなのかな? グリンガルドは頤に指を中てる。
「じゃあ、事実を見せてあげる」
賢者の身体が大きく撓んだ。
「お師様⁉」
そのまま膨張を続け、しまいにはローブを複数の触手が破った。そしてその中の賢者の身体が露になる。ロアとアンナは絶句した。
幾つもの触手を纏い、顔の半分がマーリンでもう半分がビオラ、左胸にオルテンシアの顔が張り付いた賢者だったモノの成れの果てがそこにはあった。
「……っ!」
ロアは苦悶の声をあげながら、触腕を引き抜く。
ダメだ。完全にアンナの心が折れた。
眼前の悪意の塊はロアが破壊しなければならない!
剣を抜き、その頚部を刎ねようと魔力を熾した瞬間――アンナがロアを手で制した。
「アンナ……」
「……わたしが、やる」
涙を流しながら、嗚咽を漏らしながら。アンナは不退転の決意をもって眼前のモノを睨めあげた。
「先に行って……すぐに追いつくから」
「……、いいんだな?」
「……行って」
アンナの瞳を見た。その涙にぬれた瞳を見た。
その決意の固さに、言葉は不要だとロアは首肯だけをして走った。
幸いにも門は敵が開けてくれた。
ロアが今すべきことは、グリンガルド即座に殺すこと――。
アンナにあの人形を破壊させない――!
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