4手のための幽奏幻想曲

とりにく

プロローグ・出会い

 薄暗い室内に、夏の日差しが窓から斜めに差し込み、埃っぽい空気中に光の筋を作っている。その中央、グランドピアノの前に座っているのは、半透明の姿をした少年だった。

 俺は目を疑った。まばたきを繰り返し、目をこすってみる。だが、幻覚ではないらしい。少年の姿は薄れることなく、そこにいた。彼は優雅に最後の音符を奏で終えると、ゆっくりとこちらを向いた。陽の光が彼の姿を通り抜け、夢のような光景を作り出している。

 少年はにっこりと笑った。俺の心臓が大きく跳ねる。恐怖?驚き?それとも別の何か?判断がつかない。


「な…何だよ、お前…っ」


 動揺を隠せず声を荒げた。自分の声が震えているのがわかった。冷や汗が背中を伝う。そんな俺はよそに、少年は立ち上がり、優雅な仕草でお辞儀をした。


「僕は藤堂律。音楽室の天才美少年ピアニスト幽霊さ」

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