モキュメンタリー

関係者インタビュー：「演出」

　…演出ですよね、アレ？

　ええ、ウチは古い映画館でして。

　主にリバイバル上映を中心に。

　最初に建てられたのは明治期だそうで。

　――と言っても、再建ですけどね。

　一度、焼失していますから。

　…ええ、火災が原因で。

　死者も出て。

　新聞でも取りざたされたそうで。

　その後、裏手の病院が土地を買い取って。

　戦後直前まで精神科だったそうで。　

　…建て替えられた理由？

　まあ、ヤバい噂もいくつかあったそうで。

　戦後すぐに解体されて。

　その後、有志（ゆうし）によって映画館として再建されて。

　…まあ、詳しいことは市役所に聞いてください。

　こっちは管理しているだけなんで。

　――というか、学生さんは知っていましたよ？

　だから、あんな演出を入れたと思っていますし。

　…映像、まだ残ってますよね？

　映画館のドキュメンタリーとして撮ってたので。

　それこそ、ていねいに歴史から調べて。

　市役所から公文書館（こうぶんしょかん）まで足を運んで。

　――で、最後にあの数分ですから。

　座席にカメラを固定して。

　客席を見上げるアングルで。

　場面が転換するたびに。

　必ず、席に何人かいて。

　焦げたように真っ黒なひとが一人とか。

　医者と古い服装の女性看護師とか。

　そのたびに学生さんが数人ほど話しかけて。

　慌てて、相手と席を立つかたちで。

　…しばらくしたら。

　学生さんだけが戻ってきて。

　誰もが、虚（うつ）ろな目をしていて。

　火災から帰って来たと思しきボロの格好とか。

　明らかに、患者着と思しき服装で。

　――そこから先は、ただ。

　映画のスクリーンを見つめ続ける感じで。

　そこで、映像が途切れてしまって…

　あの映像が公開される前。

　一応、話をしていたんです。

　客席が見えるようにカメラを仕掛けるから。

　撮影はこれで最後だと。

　完成したら、見せてくれるという話でしたけど。

　静かになったので。

　見に行ったら誰もいなくて。

　――ま、ハロウィンも近いですし。

　広告も兼ねた演出なんでしょうけれど。

　警察にも、そう話していますから。

　今のところは…何とも言えないですね。