モキュメンタリー

関係者インタビュー：「家族の記録」

　…あの家族も、よく嫌がらないよな。

　密着ドキュメンタリーでね。

　サラリーマンの父親にパートの母親。

　幼稚園の子どもの一日をカメラで追っていくの。

　ナレーションによれば現代の理想の家族とは何かというテーマらしくてね。　

　何気ない朝食に始まって。

　家族で就寝（しゅうしん）するまで。

　父親が会社に行くついでにゴミを捨て。

　母親が子どもを車で送り、パートに行く。

　ありふれた日常で。

　その様子をカメラが追うだけ。

　…本当に良くやるよ。

　奥さんがカメラマンに気を使ってね。

　夕食に誘う場面もあったけれど、断っていた。

　撮影スタッフは確認できただけで三人。

　話し方からするに大学生だ。

　彼らは毎日のように家族を撮影し、動画に投稿し、近く半年になる。

　…そうなんだよ。学生の家から依頼が来てね。

　動画が投稿されて以降、行方不明らしい。

　で、こちらで調べた結果。

　この動画が見つかった。

　…家に行けば、良いのではと？

　難しいだろうね。

　なぜなら、調べてもこんな場所は無いから。

　父親の通う会社の名前も。

　母親の勤めるスーパーも。　

　子どもの通う幼稚園でさえ。

　該当（がいとう）する場所がない。

　あげく、街では家族以外の人間は映らない。

　背景を見ても一度も人が映り込まない。

　…こんなことってあるか？

　帰宅時の父親の後ろの舗装された道。

　スーパーから出てくる母親の背景。

　車一台はおろか、ひとっこひとり映らない。

　…一応、彼らの親御（おやご）さんにはこう言っているよ。

　息子さんは大丈夫です。

　動画を毎日投稿されているので、とね。