卵焼き

結音(Yuine)

定番。それは、なくては ならないもの。

「あぁ~! ない! ない!」

 突如、教室に響いた声。


 昼食時。

「どうしてぇ~?」

 泣き声にも似た叫び声。


 何事か⁈ と、クラスメイトの視線が集まる。


「……入っていない」


鮎華あゆか、どうした?」


 弁当箱のふたを手にいつまでもしょげている女子に優しく声を掛ける男子。ただ、ひとり。


「くすん。あのね、入ってないの」

 ひとまず、着席して、鮎華あゆかが答える。


「だから、何が?」

 クラスメイトの疑問を代表するかのように、男子がく。


「……たまごやき」


 え⁈ と、男子が覗き込んだ弁当箱の中には、確かに、黄色く丸まったは入っていなかった。


「卵焼きの入っていないお弁当なんて、お弁当じゃない……」

 あ~あ、と、落胆した声を漏らしながらも、

 空腹には勝てず、弁当をつつき出す鮎華あゆか


鮎華あゆか、卵焼き 作れるの?」

 どこからか、質問が飛んできた。


鮎華あゆか、自分で作ればいいじゃん」

 と、さっきの男子がつぶやいた声だけ、鮎華あゆかの耳は拾った。







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