卍プ卍ラ卍カ卍ノ卍ン卍
2023年のバンコク。コールセンターで働く日本人女性、奈々子は家賃3000バーツのプラカノン運河沿いの古びたアパートに引っ越してきた。そこは都会の喧騒から離れた静かな場所だった。しかし、そのアパートはどこか不気味な雰囲気を漂わせていた。奈々子は引っ越し当初から奇妙な現象に悩まされる。夜中に誰かがドアをノックする音が聞こえたり、鏡に映る自分の顔が歪んで見えたりする のだ。
ある日、奈々子はアパートの住人から、このアパートでは過去に何人もの住人が失踪したり、不可解な死を遂げたりしているという噂を聞く。特に、日本人女性が犠牲になるケースが多いというのだ。奈々子は不安になり、インターネットでアパートについて調べ始める。すると、あるブログ記事を見つける。それは、「プラカノン運河に棲む悪霊」と題された記事で、その中で、古い黄色の扇風機が呪いのアイテムとして紹介されているのでした。奈々子は自分の部屋にも同じ黄色い扇風機があることに気づく。それは、埃をかぶり、色あせた黄色をしていた。奈々子は恐怖に襲われる。
翌日、奈々子は仕事帰りにプラカノン市場に立ち寄る。市場は活気に満ち溢れ、様々な屋台が軒を連ねていた。そこで、彼女は偶然にもあのブログ記事に書かれていた黄色い扇風機を売る不気味な老婆に出会う。老婆は薄汚れた衣服をまとい、髪は白く乱れ、目は奈々子の心の奥を見透かすように鋭かった。老婆は奈々子に扇風機を買うように執拗に勧めてくる。
「この扇風機は特別なものじゃ。涼しさをもたらすだけでなく、運を呼ぶ力があるんじゃ」
老婆は歯のほとんどない口でそう言った。奈々子は扇風機に引き寄せられるような感覚を覚えたが、すぐにその不気味さに気づき、背筋が凍った。奈々子は老婆から逃げ出すように市場を後にした。
奈々子の不安は募るばかりだった。アパートでは奇妙な現象が続き、夜中に「暑い」という女性の声が聞こえることもあった。ある夜、奈々子は恐ろしい夢を見た。夢の中で彼女は、長い黒髪の美しい女性に誘われるように、暗い運河の中へと引きずり込まれていく。
奈々子は、このアパートにまつわる謎を解明し、自らの身の安全を守るため、本格的に調査を開始する決意をする。
奈々子の調査と扇風機の謎
奈々子は、アパートで起こる奇妙な現象と、日本人女性が犠牲になるという噂、そしてブログ記事で紹介されていた呪いの扇風機との関連性を疑い始めます。彼女は自分の身の安全を守るため、そしてアパートに隠された謎を解明するために、本格的な調査に乗り出す決意をします。
調査の糸口
奈々子は、まずアパートの過去の住人について調べ始めます。管理人や近隣住民に聞き込みをする中で、過去の住人の多くが不可解な死を遂げていること、そしてその死には必ず「古い黄色の扇風機」が関わっていることを突き止めます。
例えば、事故物件に住むことになった日本人お笑い芸人ユウタは、霊が憑いた黄色い扇風機に遭遇し、恐怖体験をした挙句、アパートから逃げ出しています。
また、「横綱不動産」を経営する日本人実業家大田太郎は、ポンおばさんの警告を無視して扇風機を使い続け、階段から転落死しています。
さらに、アメリカから来たバックパッカージョン・スミスも、扇風機を使った後に姿を消しています。
これらの情報から、奈々子は扇風機が単なる家電製品ではなく、何らかの超自然的な力を持つ呪いのアイテムであることを確信します。
扇風機の起源
奈々子の調査は、さらに扇風機の起源へと進んでいきます。彼女は、古文書や専門家の協力を得て、扇風機の由来を調べ上げます。そして、驚くべき事実を突き止めます。
扇風機は、第二次世界大戦中に、ナチスの科学者クラウス・シュミットによって作られた悪魔召喚装置だったのです。
クラウスは戦後、バンコクに逃亡し、古道具屋を営みながら、扇風機を使って悪魔召喚の研究を続けていました。
しかし、ある日、扇風機は謎の存在に盗まれてしまいます。
奈々子は、クラウスの扇風機が、その後どのようにしてプラカノンのアパートにたどり着いたのか、そしてなぜ呪いのアイテムと化したのかを解明しなければなりません。
プラカノン運河の伝説
奈々子の調査は、プラカノン運河に伝わる古い伝説へと繋がっていきます。
伝説によると、かつてプラカノンにはメナークという美しい女性が住んでいました。
メナークの夫は戦死し、彼女は悲しみのあまり、自ら命を絶ってしまいます。
しかし、メナークの魂は成仏することができず、プラカノン運河を彷徨い続けていると言われています。
奈々子は、メナークの伝説と扇風機の呪いとの関連性を疑い始めます。そして、彼女は、アパートの管理人であるポンおばさんから、驚くべき事実を聞かされます。
ポンおばさんの告白
ポンおばさんは、若い頃、中国系タイ人男性と恋に落ち、彼との間に子供を身ごもっていました。しかし、男性はポンおばさんの日本留学を反対し、彼女を傷つけようとします。揉み合いの末、ポンおばさんは誤って扇風機で男性を殺してしまいます。
絶望したポンおばさんは、メナークの魂の力を借りて、恋人を扇風機に封印します。
その結果、扇風機はメナークの魂と恋人の魂、そして他の多くの魂を閉じ込めた呪いのアイテムと化してしまいました。
ポンおばさんは、自らの過去の罪を悔い、扇風機を使わないように警告を発し続けていたのです。
奈々子の決意
奈々子は、扇風機にまつわる真実を知り、恐怖に震えます。しかし、彼女は同時に、扇風機に閉じ込められた魂を解放し、呪いを解く決意を固めます。
奈々子の前に立ちはだかるのは、プラカノン運河の悪霊、ナチスの残した闇の遺産、そして彼女自身の心の恐怖です。果たして彼女は、扇風機の呪いを解き、自らの運命を変えることができるのでしょうか?
奈々子の闘い
古びた黄色い扇風機から漏れ出る不気味なタイ語の囁き。プラカノン運河に面したアパートの一室で、奈々子は身震いを覚えた。ポンおばさんから聞いた恐ろしい真実が、今も彼女の耳に残っている。
「この扇風機には、多くの魂が閉じ込められているのよ」
ポンおばさんの言葉は、重い石のように奈々子の心に沈んでいった。窓の外では、濁った運河の水面が夕陽に照らされ、不気味な輝きを放っている。
奈々子は深いため息をつきながら、扇風機を見つめた。ナチスの科学者クラウス・シュミットが遺した忌まわしき遺産。その中に閉じ込められた魂たちの苦しみを、彼女は見過ごすことができなかった。
「私が、あなたたちを解放します」
決意を固めた奈々子の前に、最初に現れたのは大田太郎の幽霊だった。かつてこのアパートの住人だった彼は、事故死したとされていた。しかし、その真相は違った。
「俺は殺されたんだ」と太郎は怒りに震える声で語った。「あの扇風機に。誰も信じてくれなかったが、あれは事故じゃない」
奈々子は静かに頷いた。「ご無念だったことと思います。でも、もう大丈夫です。私が真実を明らかにし、あなたを救い出します」
太郎の姿は次第に薄れていったが、その悲しみと怒りは部屋に残り続けた。奈々子は決意を新たにする。扇風機に囚われた魂たちを解放するため、彼女は行動を起こさなければならない。
次の日、奈々子はクラウスの研究資料を探し始めた。アパートの古い書庫を探る中、彼女は一冊の革表紙の日記を見つけた。そこには、クラウスが所属していたナチスの秘密結社「アーネンエルベ」での研究記録が克明に記されていた。
日記には、おぞましい実験の詳細が記されていた。クラウスは、人間の魂を封じ込める装置の開発に携わっていたのだ。その集大成が、この黄色い扇風機だった。
「なんて残酷な」奈々子は震える手で日記を閉じた。
その時、廊下から物音が聞こえた。振り向くと、幼い少年の姿があった。ユウタだ。彼は震える声で語り始めた。
「僕も見たんです。あの扇風機が勝手に動き出して、そこからタイ語の声が…」
奈々子は優しくユウタの肩に手を置いた。「怖かったよね。でも大丈夫。私たちで、この呪いを解きましょう」
しかし、事態は思わぬ方向へと展開する。アーネンエルベの残党が、扇風機の存在を嗅ぎつけたのだ。彼らは、クラウスの研究を完成させるため、扇風機を奪おうとしていた。
奈々子は、ポンおばさんの助けを借りて、扇風機を守る結界を張った。そして、プラカノン運河の浄化も始めた。運河に住む水神への祈りを捧げ、地域住民たちの協力も得た。
特に重要だったのは、メナークの魂との対話だった。夫を待ち続けるメナークの無念は、運河全体に暗い影を落としていた。
「あなたの気持ちは分かります」奈々子は静かに語りかけた。「でも、もう十分です。安らかに眠ってください」
メナークの魂は、長い沈黙の後、ゆっくりと頷いた。その瞬間、運河の水面が輝きを増したように見えた。
しかし、最大の試練は奈々子自身の中にあった。幼い頃に経験したトラウマから、彼女は人を信じることを恐れていた。孤独な闘いを選び、誰にも助けを求めようとしなかった。
その壁を破ったのは、意外にもユウタだった。
「奈々子さん、一人で戦わなくていいんです。僕たちがいます」
その言葉が、奈々子の凍りついた心を溶かしていった。彼女は初めて、本当の意味で人を信じることができた。
そして運命の夜が訪れた。満月の光を浴びた扇風機が、突然激しく振動し始めた。アーネンエルベの残党が、最後の攻撃を仕掛けてきたのだ。
しかし今の奈々子は、もう一人ではない。ポンおばさん、ユウタ、そして地域住民たちが、彼女の周りに集まっていた。彼らの祈りと想いが一つになり、扇風機に向けられる。
激しい光の渦が部屋を包み込む。奈々子は必死で呪文を唱え続けた。そして、一瞬の閃光の後、全てが静かになった。
扇風機は、もはや不気味な囁きを発することはない。閉じ込められていた魂たちは解放され、プラカノン運河に平和が戻ってきた。
タイの朝日が昇る中、奈々子は運河を見つめていた。彼女の心には、もう恐れはない。確かな強さと、人々との絆が宿っていた。
大田太郎、ジョン・スミス、そしてメナーク。解放された魂たちの安らかな眠りを祈りながら、奈々子は静かに微笑んだ。
これは、一人の少女が自分の恐れを乗り越え、真の強さを見つけた物語。そして、プラカノン運河の闇に光を取り戻した、勇気の記録である。
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