霧の運河に潜む影:消えたボートと進化の秘密

霧の運河


佐藤麻衣は、タイのチュラロンコン大学に留学して半年が経っていた。バンコクの喧騒にも慣れ、タイ語も上達し、充実した日々を送っていた。そんなある日、タイ人の親友ソムチャイから誘いを受けた。


「麻衣、明日の午後、プラカノン運河でボートに乗らない? 水上マーケットで買い物して、それからワット・パクナムっていう寺院に行こうよ」


麻衣は喜んで承諾した。しかし、その夜のニュースを見て、不安が胸をよぎった。


「プラカノン運河で再び奇妙な事件が発生。今回も原因不明の濃霧の中、観光客を乗せたボートが忽然と姿を消しました。警察は捜査を続けていますが…」


麻衣はソムチャイにLINEで連絡した。


「ねえ、明日の計画、大丈夫かな?」


「大丈夫だよ。昼間だし、そんなに頻繁に起こることじゃないから」


ソムチャイの言葉に安心し、麻衣は眠りについた。


翌日、二人は運河沿いにあるソムチャイのアパート近くの船着き場に向かった。青々とした空の下、運河はのどかな雰囲気に包まれていた。

「ほら、何も心配することないでしょ?」ソムチャイが笑いかけた。


ボートに乗り込んだ二人は、のんびりと景色を楽しみながら進んでいった。しかし、15分ほど経ったとき、突然の変化が起こった。


まるで魔法のように、濃い霧が彼らを包み込んだ。視界は数メートル先も見えないほどに悪化した。


「ソムチャイ、これって…」麻衣の声が震えた。


「落ち着いて。きっとすぐに晴れるよ」


しかし、霧は晴れるどころか、さらに濃くなっていった。そして、不気味な出来事が次々と起こり始めた。


まず、空中に古びた黄色い扇風機が浮かび上がった。羽根はゆっくりと回り、どこからともなく冷たい風を送り込んでくる。


次に、ボートの周りに奇妙な海藻が絡みつき始めた。濃い緑色で、触手のように動く海藻は、見たこともない種類のものだった。


そして最後に、耳を澄ますと、かすかに聞こえてくる囁き声。言葉にならない、うめき声のような、しかし明らかに人間のものではない声が、霧の中から聞こえてくる。


「ソムチャイ、怖い…帰りたい」麻衣は震える声で言った。


ソムチャイも顔を蒼白にしていた。「オーケー、引き返そう」


しかし、ボートを操縦しようとしても、エンジンが動かない。海藻がプロペラに絡みついているようだった。


二人が懸命にエンジンを直そうとしている間に、状況はさらに悪化した。ボートが徐々に沈み始めたのだ。


「助けて!誰か!」麻衣は叫んだが、霧に吸い込まれるように声が消えていく。


そのとき、霧の中から一隻のボートが現れた。しかし、それは助けではなかった。


ボートには、黒いローブを着た人影が乗っていた。顔は見えないが、その存在感は尋常ではなかった。


「お前たちは、我々の実験に巻き込まれてしまったようだな」低い声が響いた。


「あなたたちは誰なの?」ソムチャイが震える声で尋ねた。


「我々は、世界を変える者たち。この海藻は、我々が作り出した新たな生命体だ。人類の進化のための…ね」


その言葉を聞いた瞬間、麻衣の頭に閃きが走った。大学の生物学の授業で聞いた話を思い出したのだ。


「まさか…ポシドニア・オーストラリスの遺伝子…」


黒いローブの人影が小さく頷いた。「よく知っているな。そう、我々はその海草を基に、より強力な種を作り出した。海洋を支配し、そして陸地をも…」


突然、轟音が鳴り響き、水しぶきが上がった。

「動くな!タイ海軍特殊部隊だ!」


霧が晴れ始め、周囲には武装した兵士たちのボートが取り囲んでいた。黒いローブの人影たちは、あっという間に制圧された。


事態が落ち着いた後、麻衣とソムチャイは軍の施設で事情聴取を受けた。


「君たちが遭遇したのは、国際的なテロ組織の一味だ」と、捜査官が説明した。「彼らは生物兵器の開発を進めていた。君たちの証言のおかげで、大きな手がかりを得ることができた」


その夜、ホテルで休む二人に、さらなる真実が明かされた。


「実は…」と、捜査官が口を開いた。「この事件の背後には、もっと大きな闇がある。ナチスの残党が関与しているんだ」


麻衣とソムチャイは息を呑んだ。


「第二次世界大戦後、一部のナチス科学者たちは東南アジアに逃亡し、秘密結社を形成した。彼らは遺伝子工学の研究を続け、最終的にこの恐ろしい生物兵器を生み出したんだ」


「でも、なぜタイの運河で?」ソムチャイが尋ねた。


「タイの複雑な水路システムは、彼らの実験に最適だったんだ。そして、観光地としての人気も、彼らの存在を隠すのに役立った」


麻衣は震える手でコーヒーカップを握りしめた。「私たち、とんでもないことに巻き込まれたんですね」


捜査官は深刻な表情で頷いた。「君たちの勇気のおかげで、我々は大きな一歩を踏み出せた。しかし、これはまだ始まりに過ぎない。彼らの組織は広範囲に及んでいる。我々は引き続き警戒を続ける必要がある」


その言葉を最後に、捜査官は部屋を後にした。

静寂が訪れ、麻衣とソムチャイは言葉もなく見つめ合った。彼らの冒険は終わったが、世界の闇との戦いは続いている。運河の霧の向こうに潜む真実は、彼らの想像をはるかに超えるものだった。


翌朝、麻衣は日記にこう記した。


「私たちが見て、感じて、経験したことは、きっと誰も信じてくれないだろう。でも、これが現実なんだ。世界には、まだ知られていない恐ろしい秘密が潜んでいる。私たちにできることは、真実を忘れず、そして警戒を怠らないこと。運河の霧が晴れても、世界の霧はまだ晴れていない」


そして彼女は、窓の外に広がるバンコクの街を見つめた。穏やかな日常の中に、まだ見ぬ脅威が潜んでいるかもしれない。しかし、彼女の目には決意の光が宿っていた。


この冒険は終わったが、新たな物語の始まりでもあった。麻衣とソムチャイ、そして彼らを取り巻く世界の運命は、これからどのように展開していくのだろうか。


霧の向こうに待つ真実を求めて、彼らの旅はまだ続く。


あれから1ヶ月が経った。麻衣とソムチャイは、あの恐ろしい出来事を忘れられずにいた。二人は約束していた。誰にも話さないこと、そして普段通りの生活を送ること。しかし、それは思っていた以上に難しかった。


ある夜、麻衣は奇妙な夢を見た。霧に包まれた運河、そして水面から這い上がってくる無数の触手。彼女は悲鳴を上げて目を覚ました。


「大丈夫?」隣のベッドで眠っていたルームメイトのリサが心配そうに声をかけた。


「ええ、ただの悪夢よ」麻衣は深呼吸をして答えた。


翌朝、大学の廊下でソムチャイとすれ違った。彼も疲れた様子で、目の下にクマができていた。


「また夢を見たの?」麻衣が小声で尋ねた。

ソムチャイはうなずいた。「君も?」


二人は図書館の隅に座り、小さな声で話し合った。


「もう限界かもしれない」ソムチャイが言った。「誰かに相談すべきじゃないかな」


麻衣は躊躇した。「でも、約束したでしょ。誰にも言わないって」


その時、背後から声がした。「何を誰にも言わないの?」


振り返ると、リサが立っていた。二人は顔を見合わせ、言葉に詰まった。


リサは二人の前に座った。「最近、二人とも様子がおかしいわ。何かあったの?」


麻衣は深く息を吐いた。「リサ、信じられない話かもしれないけど…」


そして、あの日の出来事を全て話した。リサは驚きの表情を浮かべながらも、最後まで黙って聞いていた。


話し終えると、意外な言葉が返ってきた。

「実は…私も似たような経験があるの」

麻衣とソムチャイは息を呑んだ。


リサは続けた。「1年前、私の故郷のオーストラリアで。海岸沿いの町で、突然現れた奇妙な海藻の話を聞いたの。そして、それを調査しに行った研究者たちが…消えたの」


三人は沈黙の中、互いの顔を見つめ合った。

「これは偶然じゃない」ソムチャイが静かに言った。「何か大きなことが起きている」


その夜、三人はリサの部屋に集まった。ノートパソコンを開き、これまでの情報を整理し始めた。


「オーストラリアの事件、タイの運河…他にも似たような出来事はないかな」麻衣が言った。


ソムチャイはインターネットで検索を始めた。すると、驚くべき事実が次々と明らかになった。


世界各地で、奇妙な海藻や突然の霧の出現が報告されていた。そして、それらの地域では必ず、人や船の失踪事件が起きていたのだ。


「これは…世界規模の陰謀?」リサが震える声で言った。


その時、麻衣のスマートフォンが鳴った。見知らぬ番号からだった。


「もしもし?」


「佐藤麻衣さんですね」低い男性の声が聞こえた。「あなたたちの行動を監視していました。今すぐ、その調査をやめなさい」


麻衣は青ざめた。「あなたは誰…」


「それは知る必要はありません。ただ、これ以上深入りすれば、あなたたちの身に危険が及ぶでしょう」


電話は切れた。麻衣は震える手でスマートフォンを置いた。


「どうしたの?」ソムチャイが心配そうに尋ねた。


麻衣は電話の内容を説明した。三人は恐怖に包まれた。


「もう後戻りはできない」リサが決意を込めて言った。「私たちが真実を明らかにしなければ」


ソムチャイはうなずいた。「でも、どうやって?」


麻衣は深く考え込んだ。そして、ふと思いついた。


「あの時、私たちを助けてくれた特殊部隊の人たち。彼らなら、何か知っているかもしれない」


三人は計画を立て始めた。しかし、彼らは知らなかった。部屋の外で、黒いスーツの男が彼らの会話を聞いていたことを。


男はイヤホンに向かって囁いた。「司令部、こちらエージェントK。ターゲットたちが動き出しました。次の指示を」


バンコクの夜景を見下ろす高層ビルの一室で、老人が電話を受けた。


「彼らを見守れ。しかし、まだ手を出すな。彼らの行動が、我々の計画にとって重要になるかもしれない」


電話を切った老人は、窓の外を見つめた。水面に映る月明かりが、不気味に揺らめいていた。

その夜、麻衣は再び夢を見た。しかし今回は、霧の中から伸びてくる手が彼女を掴もうとしていた。彼女は必死に逃げようとしたが、足が動かない。


「助けて!」彼女は叫んだ。


目が覚めると、枕が涙で濡れていた。窓の外を見ると、満月が不気味に輝いていた。


麻衣は決意した。「私たちは、この謎を解かなければならない。たとえそれが、私たちの命を危険にさらすことになっても」


翌朝、三人は特殊部隊の本部に向かった。しかし、そこで彼らを待っていたのは、予想外の展開だった。



麻衣、ソムチャイ、リサの三人は、緊張した面持ちで特殊部隊の本部に到着した。しかし、彼らを待っていたのは閑散とした受付だった。


「すみません、私たちは先月の運河での事件で助けていただいた者なのですが…」麻衣が受付の女性に話しかけた。


女性は不思議そうな顔をした。「運河での事件?そのような報告は受けていませんが」


三人は顔を見合わせた。


「でも、確かに…」ソムチャイが言いかけたとき、背後から声がした。


「君たち、こっちだ」


振り返ると、スーツを着た中年の男性が立っていた。彼は三人を人気のない廊下へと案内した。


「私は佐々木。国際情報局の者だ」男性は小声で言った。「君たちの話は聞いている。ここでは話せない。ついてきてくれ」


戸惑いながらも三人は佐々木についていった。彼らは建物の裏口から出て、待機していた黒い車に乗り込んだ。


車内で佐々木は説明を始めた。


「実は、君たちが遭遇した事件は、表向きには存在しないことになっている。しかし、我々は裏で調査を続けている」


「なぜですか?」リサが尋ねた。


「この事態が、想像以上に深刻で、かつ広範囲に及んでいるからだ」


佐々木はタブレットを取り出し、地図を表示した。そこには世界中の海域に赤い点が散りばめられていた。


「これらの点は全て、君たちが遭遇したような異常現象が報告された場所だ。しかし、公式にはこれらの事件は全て別々の原因によるものとされている」


「じゃあ、私たちが見たのは…」麻衣の声が震えた。


「ああ、おそらく氷山の一角に過ぎない」


車は郊外のとある倉庫に到着した。中に入ると、そこは最新の機器が並ぶ秘密基地のようだった。


「ここが我々の本当の作戦本部だ」佐々木が言った。


画面には様々なデータが表示されていた。海藻の遺伝子解析結果、世界中の気象データ、そして謎の組織の動きを示す情報網。


「我々の調査によれば、この海藻は単なる生物兵器ではない。それは、地球の生態系を根本から変える力を持っている」


三人は息を呑んだ。


「しかし、我々にはまだ分からないことが多すぎる。そして…」


佐々木の言葉が途切れたとき、警報が鳴り響いた。


「警戒態勢!不審者接近!」


モニターには、黒いローブを着た集団が基地に近づいてくる姿が映し出されていた。


「まさか、ここまで…」佐々木は顔をこわばらせた。


突然、建物が揺れ、停電が起こった。非常灯が点灯する中、佐々木は三人に向かって叫んだ。


「逃げろ!地下通路を使え!」


混乱の中、麻衣たちは必死に逃げ出した。地下通路に辿り着いたとき、背後で銃声が響いた。

長い通路を走り抜け、彼らが地上に出たのは運河の近くだった。しかし、そこでも既に霧が立ち込めていた。


「どうすれば…」リサが息を切らしながら言った。


その時、水面から奇妙な光が漏れているのが見えた。


「あれは…」ソムチャイが指さした。


水中には、巨大な円形の構造物が浮かんでいた。その中心から、まるで誘うかのように柔らかな光が発せられていた。


「まるで…ポータルのよう」麻衣がつぶやいた。

三人は決断を迫られていた。追手は迫っている。しかし、目の前には未知の危険が待ち受けている。


「行くしかない」ソムチャイが決意を込めて言った。


手を取り合って、三人は水に飛び込んだ。光に包まれる瞬間、麻衣の頭に様々な映像が流れ込んできた。


遠い過去の地球、巨大な海藻が覆い尽くす海、そして…人類ではない知的生命体の姿。


意識が遠のく中、麻衣は確信した。彼らが直面しているのは、単なる陰謀や実験ではない。それは、地球の過去と未来を巻き込む、途方もないスケールの何かだったーー。


光が強まり、三人の姿は霧の中に消えていった。


運河の水面が静かに揺れる中、遠くで男性の声が響いた。


「ついに始まったか…」


高層ビルの一室で、例の老人が窓の外を見つめていた。彼の口元には、不敵な笑みが浮かんでいた。


光の渦に飲み込まれた麻衣、ソムチャイ、リサの三人は、意識を失った。


麻衣が目を覚ましたとき、そこは見知らぬ世界だった。空は緑がかった紫色で、二つの月が浮かんでいる。足元には銀色の砂が広がり、遠くには巨大な建造物が林立していた。


「ここは...どこ?」麻衣はつぶやいた。


「別の惑星...いや、別の次元かもしれない」横で目を覚ましたソムチャイが言った。


三人が状況を把握しようとしていたとき、奇妙な音が聞こえてきた。振り返ると、ヒューマノイドの姿をした生き物たちが近づいてきていた。しかし、その姿は明らかに地球の生物ではなかった。


「我々は、あなたたちを長い間待っていました」彼らの一人が、テレパシーのように直接三人の心に語りかけてきた。


「あなたたちは...誰?」リサが恐る恐る尋ねた。


「我々は、かつて地球に住んでいた古代文明の末裔です。人類が進化する遥か以前、我々は地球を支配していました」


彼らの説明によると、約2億年前、彼らの文明は地球の気候変動により崩壊の危機に瀕していた。そのため、一部の者たちはこの次元に逃れ、残りは深海に眠ることを選んだという。


「そして今、我々は地球に帰還する時が来たと判断しました」


「でも、なぜ今なのですか?」麻衣が尋ねた。


「人類による環境破壊が、皮肉にも我々の生存に適した環境を作り出しているからです。あの海藻は、我々の帰還のための準備だったのです」


三人は愕然とした。人類の過ちが、思わぬ結果を招いていたのだ。


「しかし、我々は単純に地球を奪い返すつもりはありません」彼らは続けた。「我々は共存の道を探りたいのです。そのために、あなたたち3人を選びました」


「私たちを?」ソムチャイが驚いて聞き返した。


「はい。あなたたちは、我々の存在を受け入れ、理解しようとする精神を持っています。あなたたちが人類と我々の仲介者となってくれることを望んでいます」


三人は困惑した。彼らの話は信じがたいものだったが、同時に説得力もあった。


「でも、私たちにそんなことができるでしょうか?」麻衣が不安そうに言った。


「あなたたちには選択肢があります」彼らは答えた。「我々と協力して新たな未来を築くか、あるいは...」


その言葉の意味するところは明白だった。


三人は顔を見合わせた。彼らの決断が、地球の運命を左右するかもしれない。


「時間をください」ソムチャイが言った。「こんな大きな決断を、すぐにはできません」


古代種族は理解を示した。「3日間の猶予を与えましょう。その間に、我々の世界をよく見て、考えてください」


その後の3日間、麻衣たちは驚くべき光景を目にした。高度に発達したテクノロジー、地球上のどの生物とも異なる生態系、そして彼らの持つ莫大な知識。それは魅力的でもあり、同時に恐ろしくもあった。


最終日、三人は結論を出した。


「私たちは、あなたたちと協力する道を選びます」麻衣が三人を代表して答えた。「でも、条件があります。人類の尊厳と自由意思を尊重し、強制的な支配は行わないこと」


古代種族は彼らの決断を受け入れた。「賢明な選択です。では、共に新たな章を始めましょう」


突如、強い光に包まれ、気がつくと三人はバンコクの運河のほとりに立っていた。周囲は普段と変わらない風景だったが、彼らの目には世界が全く違って見えていた。


その時、空から奇妙な物体が降下してきた。人々は驚いて空を見上げ、パニックが起こり始めた。


麻衣たちは理解した。彼らの本当の仕事は、ここから始まるのだと。


彼らは深呼吸をして前に踏み出した。人類と古代種族の共存という、未知の未来に向かって。


しかし、それは容易な道のりではないだろう。古い秩序と新しい現実の衝突、人々の恐怖と不信、そして両者の利害の調整。全てが彼らの肩にかかっていた。


空には不思議な色の霧が広がり始め、運河の水面には見たこともない生き物たちの姿が見え隠れしていた。


新たな時代の幕開けー。


麻衣は空を見上げながら、心の中でつぶやいた。


「私たちの物語は、まだ始まったばかり」


はるか遠くの高層ビルの一室で、例の老人が満足げに微笑んでいた。


「全ては計画通りだ」彼はつぶやいた。「さあ、新たな世界の幕開けだ」


老人の背後には、古代種族に似た姿の存在が立っていた。彼らは無言で頷き合った。


運河の霧は、新たな謎と冒険を包み込みながら、静かにバンコクの街を覆っていったーー。


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