第53話 俺は居ても立っても居られなくなり
俺は居ても立っても居られなくなり、なりふり構わず、瘴気を体内に取り込んだ。
「究極奥義!! 金剛穢落ち!!」
俺の体は一回り大きくなり、額から青白く輝くダイヤモンドのような角が生えてきた。
しかし、俺が「金剛穢落ち」を発動する前に、玉藻も動いていた。化けクジラに向かって、両手を向け何らかの術は発したのだ。
「毒尾痺縛(どくびひばく)!!」
九尾の一つが槍の刃先みたいに尖ると巨大な化けクジラに向かって伸びていく。そして、ブリーチングと呼ばれる背面ジャンプの瞬間に、頭頂部に突き刺さったように見えた。
しかし、俺の「金剛穢落ち」もすでに発動している。
体内に存在する幽子と取り込んだ瘴気に含まれる反幽子は意思に関係なく衝突して、対消滅により生体エネルギーを生み出す。もう、化学反応みたいなものだ。
俺はそのエネルギーを制御して一時的に身体能力を爆上げした。そしてその副作用として鬼人のような容姿になった。
「うおりゃーーーーーーっ!!!!!」
三辰を振りかぶり玉砕覚悟の吶喊(とっかん)体制に入っている。三辰と一体となった俺の強化された体ごとぶつかる加重加速の一撃は刹那の時間で音速を超え、隕石の大気圏突破後の速度を凌駕する。
「隕石爆弾(メテオエクスプロージョン)!!!!」
何が起こったかわからんけど、腹をこちらに向けて浮かんでいる化けクジラの腹の上に体ごとぶち込んだ。
その衝撃で、腹の上と海面を割る二重のクレーターができ、俺も化けクジラと一緒に海の底へのダイブした。
当然、そこを中心に巨大な津波が生まれ、想像だか地獄と天国の領域を」分けていた砂嘴は津波に洗わせ完全に崩壊した。当然、どす黒い赤い津波に乗って多くの魔物や肉片が天国側の海に流れ込んでいる。
俺は早々に飛び上がってその様子を見ていたが、化けクジラの方はなかなか浮上してこなかった。
数度の満ち引きで山と谷にとなった海の表面がやった穏やかになったところで化けクジラの方は背中側を向けてぽっかりと浮かんできた。そして、噴気孔から瘴気と一緒に何か白い布のようなものを吹き上げていた。息を吹き返したのか?
さっき暴れていたのは、鼻が詰まって呼吸できなかっただけみたいだが、化けクジラは一息吹いただけでぐったりしているし、その背中にやっと載るとへばっている玉藻もいる。
尻尾が頭頂部に突き刺さったまま、底まで沈んだ化けクジラに付き合って波に揉まれ翻弄されたようだ?
ずぶ濡れで衣服が乱れたまま、空に浮かんだ俺達を見上げる目には怒りが燃えている。
まだまだ戦意喪失していないか……。
しかし、その視線を辿った先は化けクジラが噴き出した白い布の方だ。
「?」
俺自身も疑問に思ったのは一瞬で、俺もその白い布を見ていると不安や憎しみがこみ上げてムカムカしてきた。生理的に受け付けない!?
本能が忌避する感情に、俺は即決で排除を選択していた。俺は白い布に向かって跳び掛かるのはほぼ同時だった。
その考えは玉藻も同じだったようだ。身体強化された体は音速で布切れに向かっている。
二メートルほどのサラシのような布を挟んで対峙する形になった俺と玉藻。玉藻の九尾が広がると俺に向かって先制攻撃を仕掛けてきたんだが……。
「なるほど、尻尾の先に毒針が仕込んであるのか!」
こんな分析が出来るのも、玉藻の攻撃先は例の布切れなのだ。ただ、電磁気力による斥力の反発、または反重力による反発か? するどい九尾の攻撃を、布はヒラヒラの尻尾を軽やかに躱して一つも当たらない。
結果、俺の方に針の生えた九尾が襲い掛かってくる。俺も三辰で尻尾を弾くが、ふさふさに見えた毛はすべてが針になっていて、三辰で弾くたびに針が折れて、動物の毛が舞うように飛び散り針が俺を襲ってくる。避けきれずに針が付き刺さるために、受けたところがどす黒い赤紫に変色し、壊死したり、呼吸困難になったり、痺れて動けなくなったり……。
遅れて飛んできた形代が受けた毒を肩代わりして解毒する間に俺も毒に侵されてしまう。
俺も周りを飛んでいる形代も、「金剛穢落ち」して身体強化後はスピードについてこれなくなっている。やっと追いついた形代もどす黒い色に変色してドロドロになって消えていく。
この毒は神経毒、こいつは出血毒に溶血毒、麻痺毒、キノコ毒に植物毒のアルカイド……。
自然界の毒のオンパレード。しかも化けクジラでさえ致死量だ。さっき、化けクジラにぶち込んでいたのは麻痺毒か……。
九尾攻撃はかなりの広範囲に及ぶ。それを躱す布切れは瞬間移動のように空間を移動する。それを追う俺のアクセスブーストも肉体の底上げをしている「金剛穢落ち」にも関わらず、肉体的には限界に近い。
それより九尾の攻撃を真剣に避けようとしない俺がヤバい。どうしてか、目の前の布切れのほうに意識が持っていかれ、玉藻の方はおろそかになっている。
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