第23話 お父さんが危ない……
「お父さんが危ない……」
「今は社務所にいるんだよな?!」
コクコクと頷く輝夜の手を取って拝殿まで戻ろうとして、途中で輝夜は地面に転がっている直刀と鞘を二本とも拾い上げる。
「そんなもの危ないよ。切れ味が良すぎる」
「うん。でも、なにがどうなっているかわからないから……、自分の身は自分で守りたい」
「わかったよ。でも、一本だけにしてくれ。ちゃんと鞘に入れてよ、危なっかしくって」
確かにこれで終わった訳じゃない。俺は一本は取り上げたけど、輝夜の覚悟を肯定して拝殿まで洞窟を戻っていた。
拝殿まで戻ってきて、八咫烏の躊躇ない破壊行動、その惨状に絶句した。
賽銭箱のある正面から突入したようで賽銭箱は真っ二つに割れ、格子扉から奥の畳まで拝殿場所は台風が通り過ぎたように畳も障子も祭具もズタズタになって飛び散っている。
国家秩序を敵に回すことも是とする。いや、すでに八咫烏は国家中枢を取り込んでいるからこそできるのか?
敵の思惑を探ろうする俺と違って、放心したように足を止めた輝夜を促し、俺たちは右手にある社務所に向かうため扉から外に出た。
(ここまでする必要があったのか?)
そんな疑問を飲み込んで社務所にたどり着いた。
社務所の外観は拝殿のように破壊された後もなく、平然とした佇まいだ。しかし、探知するまでもなく中から漂う瘴気で空気が淀む。
俺は三辰を油断なく構える。左手に直刀を持っているため、基本の構えである真ん中の月辰を挟み、天辰と星辰のつなぎ目の根元を持ち槍のように構える型ではなく、ヌンチャクと同じように、日辰と月辰を重ねて右手で持ち、右わきの下に星辰を挟んだ状態で警戒している。
「アンチグラビティ!! ベクトルシフト!!」
たたら神の加護全開で、気分はカンフー映画の往年の大スターだ。空手の猫足立ちになり、襖戸に近づくと左手の刀の刃先を取っ手にひっかけ一気に開く。
襖戸の死角から飛び出してくる黒装束、さっきのサバゲーコスプレと違って本格的だ。その本気度は服装だけでなく、その動きは鍛えられた上段者のそれだ。
直刀一本の間合いから俺は黒装束の方に星辰を加重加速して最速の一撃を脳天に繰り出す。
その一撃と同じタイミングで繰り出された上段からの打ち下ろし、片手と両手、半身の差で俺の星辰のほうが僅かに早く黒装束の脳天に達した。手応えを感じる間もなく後方に加速。
俺の顔面の数ミリ先を切っ先が通過していく。それと同時に俺の周りを飛ぶ形代が爆散した。この回避するためのアクセルブーストの負荷に全身が総毛立っている。
そんなことを噯(おくび)にも出さず、振り出した星辰を引き寄せ、右わきで星辰を受け止める。
左手に持っていた刀にヌンチャクの動きが阻害されるため、バンドに刺して、ヌンチャクを左脇下を通して左肩の上部で左手受け止める。そして、その反対でも受け止めるヌンチャクの基本的な取り回し(ただしその速さは目にもとまらない)を決め、右肩にヌンチャクを担いでいつでも打ち込める基本の型で、正面の敵らしき女を正視する。
年の頃は三〇代か? 性格の悪さが顔に出ているのにその色気には逆らえそうにない。傾国の美女っていうのはこういう女を云うんだろう。そんな女の紅を引いた唇が開く。
「やれやれ愛宕がやられるとは。それなりの手練れを連れてきたはずなんじゃが……」
女は飄々と俺に語りかけてきた。愛宕とはさっき俺が額を割った鬼人のことのようだ。
「愛宕は八咫烏に歯向かう者を始末するために造られた神童組(スターシード)の一人なんじゃが……。ヌンチャクと言ったか、遠心力による加速、持ち手を止めて引いても慣性で棍はさらに加速して額を叩き割る。腕は互角じゃが、武器の優位性に命を救われたのう」
俺は女の言葉を苦々しく感じていた。
女の言うとおり、この勝負は紙一重だった。もし、俺が持っていたのが刀だったら、愛宕って奴と切り結ぶとお互いに同時に額に達して、そこで刀を躱すために後方にステップすれば、薄皮残して致命傷を与えることは出来なかったに違いない。
「大覚も連れてくるべきじゃったか? 金鵄(きんし)がなにやら企んでいたので、そちらへやったんじゃがな」
さっきの一瞬の出来事さえ何がおこったか正確に捉えているこの女は? 俺の中で最上級の警戒音が鳴り響く。
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