第10話 先輩たちの名前は? その一族って言うのは?
「先輩たちの名前は? その一族って言うのは?」
「先輩の名前は焔羅 彩夏(ほむら あやか)さんと氷羅 柊(つらら しゅう)さん。一族の名前は温羅(うら)っていうんだって。羅って梵語っていうの?外国語の当て字によく使われるよね。
その人たちに聞いたんだけど、温羅って岡山だと桃太郎に退治された有名な鬼の名前なんでしょ。先輩たちとは知り合いなの? 祟羅くんは温羅とは関係があるの?」
「‥‥‥」
火と氷に羅か?まさか炎(えん)と水(すい)の生まれ変わりというわけでは‥‥‥。ありえない。そんな苗字、出来過ぎだよ。待ち人がいきなり見つかるって、どんな偶然だよ!
俺は一緒に修羅道に落ちた炎と水と同一人物かどうかに気を取られたせいで返事がおろそかになっていた。ちゃんと答えないと。
「全然知らない人だけど、俺も祟羅だから温羅と関係があるのかもね。鬼の一族の生き残りかも知れないって聞いて驚いた?」
「まさか。私も文学部で古典を先行しているのよ。神話とか歴史書なんて時の権力者が自分たちの都合が良い様に神聖化したり改ざんしたりしているのは常識でしょ」
「そうだね。ご先祖様は桃太郎に滅ぼされた罪のない岡山の先住民か渡来人だったかも」
「そうでしょ。先輩たちは桃太郎伝説の真実って感じで、温羅の子孫らしき人の伝承なんかを纏めて卒論にするみたい」
「桃太郎伝説を卒論に‥‥‥?!」
「面白ければオッケーって感じなのよ。先輩たちのゼミの先生は」
「ふうん。俺も浦さんたちと同じサークルに入ろうかな? 何のサークルなの?」
「ふふっ、奇伝研究会。知的好奇心を満たし、ゼミの卒論にも役に立つすっごいサークルなの。祟羅くんが入るの私は大歓迎だよ。でも、先輩たちが歓迎するかどうかわかんないけど?」
いたずらっぽく笑う竜宮院さんの意図は明白だ。
「わかったよ。先輩たちを喜びそうなネタを提供できればいいんだけど? 退院の時はよろしくお願いします」
「ふーっ、よかった。焔羅さんも氷羅さんもいつになく真剣だったから」
浦さんの声が弾み、安堵の笑みが浮かんでいる。断られるという選択肢は無かったみたいだ。
焔羅っていう人も氷羅っていう人も、俺に会いたがるのは、前世となにか関係があるのか?!
それにしても、浦さんに気を使わせるとは……、焔羅も氷羅も許すまじ!
前世の知識も力も使えるとなれば、理不尽は先輩相手でも負ける気はしない。もっとも強気だったのは奇特な先輩二人に会うまでだったけど……。
◇ ◇ ◇
翌日、退院の手続きを終わらせ、ロビーで竜宮院さんたちを待っていた。約束した時間にロビーからとんでもない誹謗中傷が聞こえてきた。
「祟羅ってやつはどいつだ? 同郷のよしみで来てやったぞ!! それにしても、わざわざ祟るという字を使って製鉄のたたらと関連付けるとはどんな厨坊だ?!」
偉そうな物言いに、苗字は俺の責任じゃないとそちらに目を向けると、金髪に染めたツインテの童顔の美少女が口元を扇子で隠して人王立ちをしていた。
半分しか開いていない扇子の模様はファイヤーパターン?! 上下のデニムはあちこちに破れが大人の女を全力で表現しているようだが、本人はダメージファッションのつもりなんだろうけど、小柄な体系と童顔のためやんちゃガールにしか見えない。
(きた~~~!! やんちゃキャラ!! こいつって前世のままじゃん!!)
「そこのお前、今、失礼なことを考えてないか?」
(俺の内心に気が付いて、間髪入れずにツッコミを入れるツッコミ担当! やはり間違いない!)
俺は懐かしさに、思わずその女性に前世の名前で声を掛けた。
「お前、炎(えん)か?!」
「そう呼ばれた時もあった……、かもしれない。でも、今は女の子らしい彩夏(あやか)って名前があるんだから、そう呼んでほしい」
「……!」
目鼻立ちのハッキリした日本離れした容姿は、渡来人と言われた温羅の面影がしっかりある。俺の方はかなり弥生人の血が優性遺伝したようだけど……。
やや話し方が女の子らしくなった炎にどう応えたら良いのか?と考えていると、遅れて浦さんと一緒に入ってきた背が高くてシュっとした顔の男が口を開いた。
「うむ、世界はそう選択したか?」
(はあっ、世界が選択って、何を大げさに選択したんだ? 炎が女の子らしくなったことぐらいで)
言葉の意味が分からず、ぼーぜんとしているのは浦さんも同じだ。
そんな俺をホリの深い男が大仰に拳を突き出したポーズを決めて睨んでくる。
水(すい)ってやつは前世からこういうタイプだったわ。なんて言ったけ?今なら中二病?!
ああっ、思い出した!!!! 修羅道で三十三天に時空の扉を開けさせ、人道に戻るときにこいつに合言葉を決めさせられたんだった。
今、ここであれを言うの? 確かに修羅道の戦いで強くなったとは思うけど‥‥‥。
期待に満ちた表情でこぶしを突き出してくる水。わかったよ!言えばいいんだろう?!言えば!!
「その選択はやつらには最悪だな。今世(今日)の俺は前世(昨日)の俺を超越している!!」
突き出されたこぶしに俺のこぶしを合わせながらセリフを決めた。
羞恥が限界に達しそうなところで、背中を思いっきり叩かれてよろめいたので、最後まで恰好をつけずに助かった。そこは彩夏(呼べと言われたから名前を呼んでみた。心の中だけど)に感謝だ。
「うんうん、あたしも言わされたんだ。思った以上に恥ずいよな!!」
さらにバンバンと俺や水の背中や肩を叩きだしたので、一緒に来た浦さんはわけがわからずに困り顔だ。
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