第8話 そして陰陽師最大に見せ場が
そして陰陽師最大に見せ場が、安倍晴明による金毛九尾の妖狐玉藻前退治だ。
これも吉備真備の死後130年後にもかかわらず、吉備真備の影が見え隠れする。
詳細は除くが、鳥羽上皇の寵姫だった玉藻前の正体は金毛九尾狐で、天竺、中国で悪行を重ね、日本でも呪いと疫病で民を苦しめたが、安倍晴明に正体を見破られ、下野那須野で射殺され殺生石になったという話だ。
この玉藻前は「若藻」という一五、六歳の美少女に化け、吉備真備の乗る遣唐使船に同乗し、日本に渡ってきていたという記録がある。天竺、中国で失った神通力を取り戻すまで、金毛九尾狐を匿ったのは八咫烏以外考えられない。
これは八咫烏の自作自演の決定的証拠で、結局、常世と現世を六芒星で繋ぎ瘴気を召喚し、魔人・魔物を使役する陰陽師たちが我が物顔で過ごす京都は、悪鬼外道の常世の魑魅魍魎が跋扈する魔都となったのだ。
そして武士が台頭する鎌倉時代以降、八咫烏は完全に地下に潜ったのだろう。裏天皇の金鵄として表の舞台に影響を与えつつ、影から表天皇を操ったのだろう。
権力者(=征服者である武士)が八咫烏の呪術を恐れたため、武力を持たない天皇が、武士を相手に一三〇〇年間も権力を維持して生き延びられたのだ。
だけど、なぜ、影の支配者に徹しなければならかったのか? 疑問は残る。
そして令和の時代も八咫烏陰陽道は影で天皇及び日本を牛耳っている。
陰陽道で常世と現世を繋ぎ、常世からあふれ出る瘴気を呪術に利用する。いや、溢れだしたんのはここ最近の話? だとしたら、何かきっかけとなるものがあるはずだが……?
前世の勘が言っている。京都の地形は東西南北に陰陽道でいう呪脈が流れ、その流れを利用することで大きな封印結界を張り、京都という器の中で、どんどん瘴気が濃厚になっている。
それこそ、三日前に起きた事故が、近いうちに日常茶飯事になるぐらい‥‥‥。
京都は全世界から来訪者が訪れる。その中には瘴気に取りつかれる者もたくさんでることだろう。放っておけば、京都から世界の破滅が発信されてしまう。
俺の推測と考察はここで終わる。
「俺のやるべきことは三つ、八咫烏に消されたと思われる裏天皇と呼ばれた尊き人と同じ大祓いの能力を持つ人を見つけること。そしてこの封印結界を作り出している八咫烏陰陽道の拠点を潰し、瘴気を祓ってもらうこと。そのためにも、俺と同じように記憶を持って生まれてきた温羅の仲間を見つけ出す‥‥‥」
呟いた言葉は現実味がなくって、俺は思わず苦笑いが出た。
◇ ◇ ◇
あれから二週間が経った。
浦さんは律義に毎日お見舞いに来てくれていた。そして今日、ギブスを外す日なのだ。
ギブスを外した医者は驚いていた。レントゲンで術後を診ると骨が完璧につながっているのだ。奇跡だと驚いていたが、俺にとっては手術の縫合痕や骨を接いでいるボルトなんかも綺麗さっぱり取り除いて骨折自体なかったことにすることも可能だった。これが形代による身体損傷の写し身の術の真骨頂。
でも、そこまですると大騒ぎになるからしなかったけど……。
夕方、面会に来た浦さんに完治していること、歩くことはもちろん今まで通り走ったり跳んだりできることを話して、実際に跳んでみせると泣いて喜んでくれた。
すっかり元気になったんで明日、退院だと話すと迎えに来て退院祝いもするという。俺が悪いからと断ると同じサークルの先輩が俺に会いたいと言っているらしいのだ。
「それは悪いよ。お金だって掛かるし。保険会社と話もついていて、退院や通院に掛かる交通費も保険で見てくれるらしいし。(実際、これら医療費のほかに、慰謝料も貰えるから今の俺はかなりリッチなのだ)」
「ううん。先輩が祟羅くんの苗字を聞いて、興味を持ったみたいで、ぜひ会いたいんだって」
「俺の苗字が? なんでだろ?」
「祟羅くんって、岡山出身じゃない?」
「その通りだよ。驚いた。なんでわかったんだ?」
「えーっと、その先輩が言うには、岡山県それも備前地方の方だと羅って言うのが付く苗字は、元々は同じ一族の生まれだったんだって。奈良時代に滅ぼされた一族の生き残りがそのことを忘れないように漢字の一字を使って、苗字を名乗ったんだって言ってた」
浦さんの話は俺たちの先祖の話じゃないのか? 俺自身も前世を思い出したけど、そんなふうに苗字を名乗ったのは記憶にない……。あの時代、俺達は苗字なんて名乗っていなかった。温羅村のだれだれが呼び名だったんだから、これは俺たちが死んだ後の話か……。
だとしたら、その一族の生き残りが先祖を隠しながら名乗ったとか? だったら、俺達が裏切られたという温羅の言い伝えが残っている可能性もあるか? その話は訊いてみたい!
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