第7話 なんか対応を間違えた?一瞬言い訳が浮かんだが

 なんか対応を間違えた?一瞬言い訳が浮かんだが‥‥‥。


 視線を彼女が出って言った扉からベッドテーブルに乗っている貧相な夕食に戻し、俺は首を振り、この味のない病院食と同じ、なんの取り柄もない並以下の容姿の俺に彼女が気があるわけがない。この病院食と同じ義務感だけで手を付けただけ‥‥‥。俺みたいな奴がなにを彼女に期待しているのやら?


 そもそも、俺は吉備真備に復讐するために生まれ変わったんだ。そんなふうに浮かれている場合じゃない。


 俺は病院食をかっこんだ。味が無いにのにすきっ腹にしみ込んでいった。


 腹が満たされてゆっくり思考できるようになってきた。さっきまでは前世と今世の記憶がぐちゃぐちゃのところに、前世を含めても一切経験がない美少女との会話で思考限界(オーバーヒート)だ。


 さて、今は西暦二〇二四年だから、俺たちは一三〇〇年近く修羅道で殺し合いを続けていたことになる。なにせ、あの世(常世)では体がバラバラになろうが、燃やされようが死ぬ(あの世での死は魂の消滅を意味する。文字通り完全に無になることで輪廻転生することはない)ことがない。


 理性がぶっ飛んだ殺人鬼。悪鬼や外道魔道に魑魅魍魎、そして最後は修羅道を見守る三十三天の天使たちに何百回とバラバラ切り刻まれ、かみ砕かれ蹂躙され続けたんだ。


 それも餓鬼に生きたまま食われた仲間の痛みと屈辱、そして吉備真備への恨みを糧に、一三〇〇年間、消滅することも、恨みの記憶をなくして転生することも拒み続けてきたんだ。


 三十三天をボコって、人道への道を開放させた俺たち陣、光、影、炎、水の五人は、開かれた扉に一緒に飛び込んだんだから、みんなこちらに転生しているはずだけど‥‥‥。


 まずやるべきは足を直して、一緒に修羅道を飛び出した四人を探しだすことからだな。

俺は看護婦さんを呼び出し、和紙と筆とハサミを貸してもらった。


 和紙が無かったんで、取り合えず貰った半紙に人型に切り抜き、筆で梵字を書き連ねて形代を作った。


「一三〇〇年振りの割には上手く出来た。呪術がうまく発動すればいいんだけど‥‥‥」


 俺は形代を空(くう)に投げ放つと印を結び呪文を唱える。

「身代わりの術!」


 呪文を唱えると、放り投げた人型が何もない空(くう)に張り付き、そして、次の瞬間、足の部分が爆ぜてバラバラになった。残った形代が俺の手のひらに戻り、青い炎とともに消えてしまった。


「うわ~~、シャレにならん~。粉々やん! だけど、これで完治や」


 足を動かして、痛みのないことを確認する。


 しかし、俺が古典や民話好きだったのは前世の影響だったわけだ。おかげで大学も古典を研究する文学部に進んだのも、無意識に真備の痕跡を追っかけていたみたいだ。


 俺は記憶にある今世に残された吉備真備の記録を辿っていた。


 聖武天皇から密命を受け、真備は温羅一族を討伐した後、丹波国で秘密結社八咫烏陰陽道を創立する。そして、秘密結社には京都奈良の神社仏閣が構成員となり、真備はその頂点に賀茂神社を指名し、自らも賀茂氏を名乗り八咫烏の長に君臨した。


 都市伝説だけど、ここまでは前世で俺が見聞きした内容とほぼ同じだ。しいて言えば、吉備真備が温羅を討伐した話は桃太郎伝説として語り継がれ、俺たち温羅は悪者になっている。ふざけた話だが、勝者が歴史を改ざんするのはよくあることだ。


 その後、八咫烏の最高位は大烏(三羽烏)に変わり、三位一体で金鵄(きんし)となり「裏天皇」の呼ばれ、裏の権力者になったらしい。


 しかし、俺たちの知る「裏天皇」はイザナギ神の系譜の尊いお方で、年に二回、夏越の大祓(なごしのおおはらえ)、年越の大祓(としこしのおおはらえ)の祭事を行い瘴気を祓っていた現人神だったんだが‥‥‥。


 浦さんが見たように、人に取りつくほどの濃い瘴気ってことは一三〇〇年間、ほとんど瘴気は祓われていなかったこと可能性もある。溜まり溜まった瘴気は厄災を生む。


 だが、そこまで瘴気が濃いとも思えない。千年以上瘴気が祓われていないなら、陰陽師が術を使わずとも、瘴気が死人に取りつきキョンシーになる。この瘴気がどれだけ濃いか? 動物みたいな低級魂だと、生きたまま魔物になり、その辺を闊歩しているはず?


 八咫烏陰陽道は瘴気を操り人びとを恐怖に陥れ、私腹を肥やしていために創立した結社だ。昨今の自作自演マッチポンプ型の新興宗教となんら変わらない。


 さらに表の天皇さえ裏で支配しようとしているからたちが悪い。


 歴史上色々な事件で八咫烏や吉備真備の影がみられる。もちろん民話や都市伝説だが……。逆に言うと都市伝説レベルで、そこまで目立つ活動をしてないとも言える。


 史実としては、女帝・称徳(しょうとく)天皇の愛人として力を伸ばしてきた道鏡が法王という天皇と同格という副天皇というべき位につき、淳仁天皇の変死、天皇の異母妹・不破内親王(ふわないしんのう)の皇籍剥奪など事件が相次いで起き、道鏡の陰謀説も囁かれる中、いよいよ次の天皇はと周りが不安と疑念を持つ中、九州大宰府から「道鏡を天皇に」という神託が下る。


 その信託の審議を調査したものが吉備真備の子飼いともいえる備前国の和気清麻呂である。


 結局、女帝、反女帝側双方の偽証合戦で真相は闇の中だが、一介の僧が天皇になるなど八咫烏が望むはずがない。


 舞台裏では陰陽道の呪術を駆使して暗躍し、自分たちの影響力を伸ばしたに違いない。


 本当に瘴気を操れるなら、もっと派手に八咫烏の力をアピールできただろうに……。


 その後、舞台は京都に移るが、ちゃっかり下賀茂神社が趨勢を伸ばし、賀茂氏から別れた役小角や安倍晴明などの陰陽師たちがその力を存分に存在感をアピールしていたが……、式神が有名になりすぎて、本質である死霊術やキョンシーの存在は知られていない。

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