祖母の夢
佐倉みづき
◇
これは作者が実際に見た夢の話である。
去年、母方の祖母が亡くなった。風呂場で倒れて病院に搬送され、治療の甲斐も虚しくそのまま帰らぬ人となった。祖母はこれまでに何度か脳出血を起こしており、今回は治療が不可能な場所で出血を起こしてしまったようだ。そんな話を後から聞いた。
訃報を受け私達はすぐに祖母の家、つまりは母親の実家に向かった。昨今のコロナ禍もあり、祖母とは三年ほど顔を合わせていなかった。もっと早くに会いに行っていれば良かった。もっと沢山取り留めもない話をしていたかった。今でも後悔が溢れてくる。
祖母の遺体と対面しても、実感は湧かなかった。急なことで理解が追いついていなかったのだろう。それでも涙は溢れてきて、私は泣いた。ついこの前まで電話で話してたのに、もう会話をすることはできない。会いたいねって言ってたのに、こんな形で会いたくはなかった。
葬儀は執り行わず、集まれた身内だけでひっそりとお別れを済ませた。遺体をずっと安置しておけず、また喪主である祖父が認知を患っており知人を呼べるような状況ではなかったためだ。晩年には背が高くはない私よりも小柄になっていた祖母は、両手で抱えるほどの箱に収まってしまった。
身内が亡くなっても、生活は続けなければいけない。日常に戻り仕事を再開しても、ふと祖母のことを思い出すことがあった。私は接客業に従事しているのだが、仕事中に似たような歳格好の老婆を見かけて「うちのばあちゃんに似てるなあ」なんてぼんやりと考えることもしばしば。
そうして日々を過ごす中、夢に祖母が出てきた。
家族皆で母方の実家にいた。両親も祖父も、私も姉も、亡くなったはずの祖母も元気な姿で家におり、私は安堵した。ああ、ばあちゃんが無事だと。
けれどその夢は祖母が亡くなる前の記憶ではなかった。祖母は一度死んだが蘇生したのだ。夢の中の私達はあり得難い事実を受け入れて「いやあ、あの時は大変だったね」なんて皆で笑い合っていた。
ふと、夢の中の私は疑問を抱いた。
じゃあ、あの時火葬したのは誰なのだろう――?
祖母は生き返った。けれど、夢の中でも火葬場で骨を拾った記憶がある。火葬される誰かを見送った記憶がある。それは四年ほど前に亡くなった父方の祖父の時の記憶ではなく、祖母が一度亡くなった後の記憶だ。だったら、私達家族はいったい誰の亡骸を焼いて骨を拾ったのだろうか……?
夢なのだから、整合性が取れる訳もない。そもそも一度心停止した祖母が息を吹き返すこと自体ありえず、急すぎた祖母の死を受け入れられない私の現実逃避があの夢だったのだろう。それでも夢の中で感じた恐怖があまりにも生々しかったため、ここに記しておく。
祖母の夢 佐倉みづき @skr_mzk
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